第12話 我、水精騎士アリエスを創造する
「ええい! お前に決めた! 出でよ!」
英断した魔王の呼び声に水柱の水量が少しずつ減衰していき、湖面には一つの球体が静かに浮いていた。
そして球体が勢いよく弾け、中から姿を現したのは――。
「ヤッホー! 魔王様! この度はご創造いただき、感謝感謝でございます!」
身長一メートル程のやたら陽気に喋る女型の精霊であった。
精霊は薄水色と白を基調とした、巫女服調のライトメイルを装着しており、額にはサファイヤを思わせる宝石が嵌められたサークレットが、陽光を反射して煌めいている。
腰には二本の長剣を下げており、陽気な口調とは裏腹に湖面に跪き魔王を見上げている。
どうやら基本の形は騎士で決定したようだった。
生体のベースは恐らくウンディーネだろう。
しかし頭部に生える二本の角と、口角から覗く長い牙、燃えるような真紅の瞳はウンディーネのそれでは無い。
曖昧なイメージ構成の結果、様々な種族の特徴が混じりあってしまったらしい。
「う、うむ。お前は我の髪の毛を媒体として創造している。いくら離れていようとも念ずればお前の声は我に届くであろう」
「はい! 魔王様の美しく気高い魔力、ビンビンに感じるっス! しゃす!」
「しゃす……? うむ、しゃすだな、お前の名はシャスだ」
「えぇえ! そりゃないっス! もう少し可憐な名前を頂戴したくううー!」
「ふむ……では……アリエスなんてどうだ?」
「はい! めちょめちょ可愛いっス! しゃす!」
ふざけたような口調だが、これは恐らく魔王の持っていた気楽に話してほしいという願望が少なからず現れているためと思われる。
その証拠に、アリエスの表情はいたって真面目であり、跪いている体勢を保ちつつ先の言葉を口走っているのだ。
とてつもない違和感を感じつつも創造してしまった手前、可愛がってやらねばなるまい、と魔王は戸惑いを隠しながら思っていた。
「ではアリエスよ。早速だがお前に任務を与える。水精守護騎士としてこの湖の観測と守護を行え」
「かしこまりました! ……魔王様! 早速ですが一つ聞いてもいいっスか!」
「ん……なんだ?」
「何を観測すれば宜しいのでしょうか!」
「そこからか……まぁ仕方あるまいな。よく聞けアリエスよ。お前はこの湖に常駐し、湖や周囲の環境に変化があったら我に連絡をよこせ。普段は測量でも鍛錬でも何をしていても構わん、ただし湖からはあまり離れるなよ?」
「かしこまりました! 分かりやすいご説明、誠にありがとうございます! 魔王様に祝福あれ! ばんざーい!」
しつこいようだが、アリエスは至極真面目であり、造物主たる魔王の意向に少しでも答えたいという、従者の鏡のような心もちなのである。
こうして地名も分からない湖に一人の守護者が誕生したのであった。
「では我らは次の地へ向かう。湖の守護、しっかり務めを果たせ」
「はい! このアリエス! この身に変えましても必ずや!」
「その身に変える前に我に連絡しろ。トラブルを未然に防ぐのも守護者たる役目だ」
「しゃす!」
「ではな!」
理解したのか分かり辛い反応を示すアリエス。
そんな彼女を見ながら魔王は翼を広げ、重力を無視して空へ浮かぶ。
黙していたフレイもそれにならい空へ、数度翼をはためかせ、飛び立って行った。
「速いなぁ! 魔王様とお付の人、もうあんなに小さくなってるや」
アリエスはだらしなく口を開けたまま、魔王とフレイが飛び去った方角を見つめていた。
二人が見えなくなると、踵を返し、凪のように穏やかな湖面を見て伸びを一つ。
「っしゃ! そしたら何しようかな……うん、まずは私の家を作ろう!」
魔王の手により産まれたアリエスは、魔王のイメージがごちゃ混ぜになった特異な存在。
水精ではあるが、今までのどんな精霊にもカテゴライズされない唯一無二の個体である。
だがアリエスにそんな事は関係無い。
魔王の勅命を果たす、彼女の原動力は魔王の言葉そのものだ。
しかし水精と言えど住処は欲しい。
地べたや湖底に寝る訳にもいかない、とアリエスは自らの住処を作るため、資材を集めに廃村へと向かって行ったのだった。
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