第11話 我、試行錯誤する

「ぶっふぁあ! うむ! 我ながらイイ感じじゃあないか」


 湖面から突如噴き上がる水柱が一柱、その中から水面を歩くように出てきたのは勿論魔王だ。

 全身から水を滴らせながら、湖岸で待つフレイの元へと歩いていった。


「お疲れ様です。魔王様。この広い湖を一瞬で満たしてしまわれるとは……さすがとしか言い様がありません。語彙力の低いこのフレイをどうかお許し下さいませ」


「うむうむ。構わんぞぅ!」


「寛大な御心に感謝を」


 恭しく頭をたれるフレイに困ったような視線を送る魔王。

 いくら配下と言えど、この世界には自分とタイタンとフレイしかいないのだ。

 もう少しフランクに話してくれてもいいのに、と魔王は思っていた。


 今の魔王は、過去の支配者たる魔王では無く、滅亡したと思われる世界に放り出された、時の迷い子のようなものなのだ。

 悪逆非道と蔑み続けられた魔王とて、寂しいと思う程度の心は持ち合わせている。


 だがそれを表に出すのは如何せん恥ずかしく、フレイにもっと気楽に仲間っぽくやろうよ、とも言えない二律背反的な感情に揺られているのだった。


「さてと……これからどうなるかなー。あ、でもここまで一々見に来るのも面倒だし、守護者でも置いておくか」


「守護者……と申されますと?」


「ほら、我が頑張って湖復活させたわけじゃん? そしたら今後が気になるわけじゃん? でもここ遠いじゃん? だからいつでも連絡が取れるように我の眷属としてなんか創ろうかなって思うのだよ。わかるか?」


「なるほど……して、何をお創りになられるのですか?」


「うむ……水属性に特化した精霊タイプの者がいいだろう。少し離れていろ」


「仰せのままに」


 フレイが一礼して数メートル下がったのを確認した魔王は、自らの髪の毛を一本引き抜いて湖面へと弾き飛ばした。


 髪の毛とは思えぬ速度で湖面に突き立ったそれは、魔王の魔力と直接的にリンクされており、今から創り出す従者と長距離の念話を可能にする為の媒介でもあった。

 魔王がブツブツと呪文を唱え、呪文に呼応するように周囲の湖面がさざなみを発生させる。


 さざなみは髪の毛を中心に逆巻き始め、やがて複数の水柱となり、水柱は螺旋を描きながら立ち上る。


「凄い……」


 背後からフレイの呟く声が魔王の耳に届く。

 お世辞のない素直な賛辞というのはいつ聞いても心地よいものだ。


 だがあまり調子に乗ると今注いでいる魔力が増大してしまう為、浮つく心を自制しつつ守護者創造に精神を集中させた。


 他の事を考えているとイメージがぶれてしまい、造形がちぐはぐになる恐れもあった。

 魔王のイメージする守護者、それは――。


「やっぱり守護者と言ったら騎士だよな、あぁいや巫女というのもある……ドラゴン系にするか? でもドラゴンはちょっと派手すぎるし……精霊タイプで思いつくのはウンディーネかセイレーンか……でもあいつらは低位の精霊だし……あぁくそ、全然決まんない!」


 全くもってこれっぽっちもイメージが固まっていなかった。

 しかし既に螺旋の水柱の中ではぼんやりとした造形が象られており、時間的猶予はあまりない。

 あれやこれやと思考が迷走している中で、魔王はついに決断を下した。

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