第7話 我、配下を創造する

 モデルは魔王の側近でもあった空の眷属、四天王の一人である風のスカイクイーンである。

 純白の翼を持ち、限りなく人の姿に近い容姿をしているクイーンならば仮に人が居たとしても驚かすことは無いだろう、という結論からだった。


 魔王とタイタンはかつてのスカイクイーンの部屋へ訪れた。

 ここも他の場所と同じく塵や埃の類が一切無く、まるで定期的に掃除されているような印象を受けた魔王は、小首を傾げながらベッドへ近付く。


 魔族といえど睡眠は必要だ。

 必要無いのは不死者ぐらいであろう。


 睡眠というのは生涯の三分の一を占めており、その三分の一をこのベッドで過ごしている。

 部屋の中で一番残留思念が溜まっている場所といえばベッドしかないだろう。


「うんうん……見える。見えるぞ! スカイクイーンは随分寝相が悪かったらしいな……顔は美人なのにヨダレ垂らして……あーあーあんなに股開いちゃってホントにもうはしたない……」


「あの……魔王様、何を見ていらっしゃるのですか?」


「んん?! 何でもない! 何でもないよ!」


 ベッドに手を当ててもにゃもにゃと魔王は呟く。

 その姿を見ていたタイタンが不思議そうに訪ねると、魔王は少し恥ずかしそうに手をパタパタと振った。


 スカイクイーンの残留思念を読み取った数分後、二人は中庭に移動して優雅にティータイムを洒落こんでいた。

 というのも永年の封印により自己が使える能力を忘れているのではないか、とタイタンが言い始めたせいである。


 魔王としては心外だったが、確かに頭の中で薄い靄が掛かっている気はしていたのだ。


「紅茶かぁ。懐かしいな! よく妖精女王が美味しい茶葉と水を持って遊びに来ていたなぁ! はー懐かし懐かし……グスッ」


「魔王様? ひょっとして泣いて」


 様子のおかしい魔王を下から覗き込むタイタンだったが、その頭は目にも止まらぬ速さで地面に叩きつけられ、尚且つ魔王のブーツでゴリゴリと頭を踏み躙られる始末。


「あん?! 何見てんだよ! 溶かすぞ巌窟王」


「ごべんなざい」


 巌窟王とはタイタンの通り名の一つでもあった。

 人間から付けられた名だったが、本人は意外と気に入っており、多分魔王も気に入っているのだろうとタイタンはゴリゴリされながらも笑みをこぼした。


「えぇ……何笑ってんのキモイ、ドMかよ」


 タイタンの思いは魔王の心に届かなかったようだが、それでも彼は満ち足りていた。

 魔王が封印される時の事は分からないが、タイタンは再度相見える事は無いと思いながらアルベリオンの地で滅ぼされたのだから。


 踏まれようとなじられようと、敬愛していた魔王と再び同じ時を刻んでいる事実をタイタンは噛み締めていた。


「まぁいい。それじゃ出すか……うんちゃらほんちゃら……」


 タイタンの想いなぞつゆ知らず、魔王は紅茶を啜りながら中空を指さすと、指の先に仄かな光が灯る。


 詠唱とも言えない言葉を紡ぎながらくるくると指を回すと、何故か地面に幾何学的な紋様の魔法陣が浮かび上がる。


「えぇ……なんですかその適当な……」

 

「いいのだよ、詠唱なんて何でも。ほい、出来た」


 魔王が指をパッチンすると、魔法陣が一瞬輝いた後に消える。

 

「お呼びでございますか、魔王様」


 純白の翼がはためくと同時に周囲に小さな羽が舞い踊る。

 そこにはかつて空の覇者と呼ばれたスカイクイーンの姿をした人物が跪き、頭を垂れていた。

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