第5話 我、驚く

「我帰ったぞー……って誰もいないんだけどね、知ってるんだけどね、言いたくなるさってなもんよ」


 地面に突き刺さる前に回収した箱を担ぎながら、魔王は門の前に立った。

 飛行能力を持つ魔王が、わざわざ門をくぐるのは彼なりの拘りだ。


 彼は封印される前まで殆ど城門の外に出た事が無い引きこもりだった為、城門をくぐるのが楽しくて仕方がない。


 門を数回出たり入ったりを繰り返し、満足した魔王は意気揚々と部屋に戻り、さっそく集めてきた素材を一つ一つ取り出していく。


「これは……薬品用……こっちは……とりあえずここに……」


 一通り箱から取り出し、まずは薬品に使えそうな鉱石を薬品庫へ運ぼうと立ち上がった時だった。

 アルベリオンの瓦礫で作った箱がどういう訳かガタガタと激しく揺れ出したのだ。


「なん! なんだ!? どうしたよ箱! 落ち着け! おちつけってば!!」


 魔王の静止も何のその、ガッタンガッタンと揺れ動く箱は遂に直立し、その場でクルクルと回転を始めた。

 

「いい加減にしろよお前! 箱のくせに生意気だぞ!」


 部屋にはあまり物を置かない主義が幸いしたのか、暴れる箱が調度品を壊す、などという事態にはならなかったのだが、回転していた箱がゴリゴリと形状を変え始めた時はさすがの魔王も後退りせざるをえなかった。 


 思わず壊してしまいそうになったが、何が始まるのだろうという好奇心から箱の変化を見守る魔王。

 そして――。


「はいーー!! お待たせしました俺復活!」


 変化を終えた瓦礫の箱は、身長二メートルはある黒光りのゴーレムになっていた。

 

「おお! お前は四天王の中でも最弱! 大地のタイタンではないか!!」


「魔王様! 魔王様も復活なされたご様子! 永い月日お待ち続けておりました! まぁ俺は倒されちゃって魔王様の偉大なる魔力のお陰で復活出来たんですけどね」


 黒光りするゴーレムはゴーレムらしからぬ滑らかな動きで頬をゴリゴリと掻いて下を向く。

 タイタン、かつて魔王直々にアダマンタイトとオリハルコンで創造された存在である。


 タイタン曰く、アルベリオンの外で勇者に倒された後彼の体の一部は家屋の素材として流用されたのだという。


 たまたま核が残っていたが、魔力の全てを使い切ってしまったがために休眠状態へ、そして先程魔王の魔力を受けて活性化した核は箱を新たな体へと作り替えたのだという。


「はー……偶然てあるもんだなぁ……何にせよよくぞ戻ってくれた! 礼を言うぞ!」


「勿体なきお言葉! して他の者達はいずこへ? 城になんの気配も感じられないのですが」


「それな」


 魔王は自らが復活してからの事を掻い摘んでタイタンへ説明したのだった。

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