第4話 我、色々回収する
「これは……幻夢石か……アダマンカーボンのインゴットに……紫金剛……どうやらここは鉱石の保存庫らしいな。しかしこの埃の積もり具合、十年二十年のものではないぞ……」
棚一面に保管された鉱石の数々は、まるで土が被ったかのような大量の埃に埋もれていた。
埃に埋没していた鉱石は殆ど一級品のものばかりであり、これはら全て装備品や薬品類に転化していくものたちだ。
値段を付ければおそらくこの保管庫だけで、小さな国の国家予算ぐらいはあるのではないだろうか。
「まぁいい。ここにある物は全て我が貰ってやろう……クックック……アーッハッハッハッハ!! ぅえふっ! ゴホッゴホッ! くそ、こんな埃だらけの場所で大笑いするんじゃなかったわ……」
埃を全て吹き飛ばさんと、風魔法で一薙ぎした結果、当たり前の事だが埃も高らかに舞った。
そしてその中で高らかに笑った魔王は、当たり前の事だが思い切り埃を吸い込みむせ込んだのだ。
自嘲的に笑う魔王の瞳にはほんの少しだけ、滅多に流すことの無い涙を浮かべていたのだった。
「やれやれ、やはり薬品、素材系は全滅か。保存魔法かせめてクロックダウンみたいな遅延時空魔法とか掛けとけよな……我ならそうする、絶対にだ」
錬金工房の地下室には鉱石の他にも部屋があり、完成品の薬や素材などが所狭しと置かれていた。
中には非常に珍しいヒヒイロガメの心臓、ウィンドトルーパーの筋、コットンヘッジホッグの逆棘、ブラッドエンジェルの円環などが保管されていたが、時の流れにはやはり逆らえず、それらも含めた素材は全て朽ち果てていた。
「しかし手ぶらで来てしまったからな。獲物を入れる入れ物が欲しいな……」
ありったけの鉱石類を地上に運び出した魔王は、山のように積まれたそれの前で逡巡する。
「創るか……【クリエイト】」
創造魔法【クリエイト】、原初であり全ての根源たる混沌、混沌とはあらゆる源を内包した大いなる力の源流、その混沌の力そのものと言えるこの混沌の魔王にしか使う事の出来ない魔法の一種である。
その言葉を呟いた瞬間、周囲に散乱していた瓦礫が意志を持っているかのように魔王の前へと集まり始めた。石ころや鉄骨、石畳などがアメーバのようにウネウネと形を変え、気付けばそこには五メートル四方の箱が出来上がっていた。
無骨ながらもしっかりとしたその出来栄えに魔王は一度大きく頷き、鉱石を投げ入れていったのだった。
「もうここには何も無さそうだ。城へ戻ろう」
総重量で何十トンはある箱を、片手で軽々と担ぎあげた魔王は再び大翼を広げ、空へと登った。
「転移魔法を使えば一発なのだがな。まぁ寝起きの我だ、どれほど寝ていたかは知らんが……目覚まし程度にはなるだろう」
雲を突き抜けるほどの高みに昇った魔王は、コキコキと首を鳴らし魔王城のある方角へ視線を固定する。
担いだ箱を二度、三度揺らし、角度を調整、そして――。
「せぇえのぉー! どっせい!!」
魔王が気合いの一喝を放ったのと、大気が破裂したような音が同時に鳴った。
担いでいた箱を力任せにぶん投げた結果、投げ飛ばされた箱は初速から音速の壁をあっさり越え、衝撃波を巻き上げながら飛び去って行った。
本来であれば空気抵抗が生じるため、箱の先端は鋭角にするべきなのだが、この男にとってそんなものは瑣末な事である。
そして魔王も投擲した箱を追うため、六翼を数度はためかせ、音速の壁を軽々と超えて飛び去って行ったのだった。
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