第22話 雨あがりのそばに
「おかえりなさい雨霧さん」
「ただいま晴明」
玄関も、シンプルなリビングも見慣れているはずなのに新鮮な気持ちになる。晴明は雨霧に椅子に座るよう言えば、雨霧は大人しく座る。冷たいコーヒーを出し、晴明も席に座る。
「私、出雲さんに話そうと思います。恋人を不安にさせては申し訳ないですし」
「おれも雪宮に話すよ。好きでいてくれたのはありがたいけど、一番は晴明だから」
「今日はお祝いですし、晩御飯はハンバーグにしましょう」
「やった。とても嬉しい」
その後は二人で晩御飯を作り、出雲と雪宮に連絡をした後眠りについた。明日は雪宮と話し合いがあるんだと思うと緊張した。でも、言わなくては先に進めない。今日のことで学んだからこそ頑張ろうと雨霧は思った。
雨霧は雪宮に連絡をいれるといいよと連絡がきた。前まで会っていた喫茶店で会おうということになった。人をフることは苦手だし、相手を思うと心苦しくなるけれど、いつまでもズルズルと引き延ばす訳にもいかない。自分に言い聞かせて喫茶店に向かう。いつもの席に雪宮の姿を見つけると雨霧は軽く手を振ると、気づいたようで微笑みながら手を振り返してくれた。
「久しぶり翔平」
「久しぶり雪宮。前はごめん」
「いや、いいよ。自分も悪いところがあったし。気にしないで」
前と変わらない態度に雨霧は安堵をする。あの日以降全く連絡しなかったのは自分の都合だったからこそ不安だった。
「にしても話って何かな」
「あっ、うん。告白の返事についてなんだ」
雨霧はこれから言う言葉にきゅっと唇を噛む。心臓がうるさくなる。握るこぶしを作り深々と頭を下げる。
「ごめんなさい。おれ、晴明と付き合うことになったから答えられない」
「……そっか。いや、大丈夫だ。答えてくれてありがとう」
「ううん、ずっと言わなきゃと思ってはいたから」
「だよなー。好きなの分かっていたけど、いけるかなと思っていたんだけどな。やっぱり無理だったか」
雪宮は悔しそうに顔を仰ぐ。どうやら雨霧が晴明のことを好きでいたことはバレていたようで、恥ずかしい気持ちになる。それでも付き合いたいと思うなんてすごいなと雨霧は尊敬した。自分ならばきっと諦めてしまうだろう。
「恋人は無理だったけど、友達にはなれるかな。こうやってお茶したいからさ」
「それはいいよ。おれも雪宮と友達になりたいからさ」
そこから楽しい会話が始まった。雪宮の話はやはり楽しく面白い。失恋をしたというのに悲しむ様子を見せないのは男としての強がりだろうか。お別れの時にも見せなかった。いや、雨霧は知らない。別れた後に雪宮が強く握りこぶしを作り、悲し気な顔をしていたことを。
一方、晴明は出雲と公園にいた。デートだと思っている出雲は楽しそうにしているが、晴明はフるつもりで呼び出したのだ。空気を壊すと分かりながらも人が少ないエリアに入ると本題に入る。
「出雲さん話いいですか?」
「うん! いいよ。なにかな?」
「実はいうと昨日から雨霧さんと付き合いをしてまして出雲さんには、遠慮してほしいなと」
「……えっ?」
「私の思い違いなら申し訳ないですが、出雲さんの想いに答えることは出来ません」
「ちょっと待って! なんで翔平くんなの? 僕の方が可愛いし、愛嬌もいいよ?なんで」
「申し訳ないのですが、例え雨霧さんが可愛くなくても、愛嬌がなくても、私が惚れたのは雨霧さんなのです。仮に私が出雲さんを選んだとして、雨霧さんは相手を貶すようなことはしないと思います」
「……僕じゃダメなの」
出雲は泣きそうな顔になりながら晴明に聞くが首を横に振る。晴明はもう心に決めたからこそ出雲がどんな言葉で、行動で、揺らがそうとしても雨霧を愛すると決めたのだ。
「……そっか。あーあー! 本当勿体ないな! 僕ほどいい男はいないのに!」
涙を流さないようにか出雲は空を仰いで声を大きめに出しながら強がる。今まで自分をフる人なんていなかった。愛されて当然だと思っていた。だから今回もいけると思った。だけど、結果は惨敗。今思えば今まで本気で出雲を愛した人間はいたのだろうか。自分のアプローチに靡かないぐらい愛されるってどんな気持ちなんだろう。今だけは雨霧がすごく羨ましく妬ましい。落ち着きを取り戻した出雲は晴明を真っすぐに見た。
「ふん! 僕をフッたのだからちゃんと幸せにならないと許さないんだから! 翔平を泣かすのも絶対ダメ! まぁ、僕の方が何十倍と幸せになっちゃうんだけどね!」
「えぇ、もちろんです。幸せにしますよ。出雲さんもお幸せに」
「言われなくてもなるし! ほら、まだ見回ってないんだから早く行くよ! バラアイス食べてやるんだから!」
大きな足取りで先に進もうとする出雲を苦笑いをしながら、晴明はついていく。薔薇達がまた一つ恋が終わったことを見届けていた。
「出雲と雪宮付き合うことになったんだって」
「えっ? 私のところには連絡きていないですけど」
「おれと一緒だから送らなくていいと思ったんじゃないか?」
秋が迫りくる季節。出雲と雪宮に別れを告げてから、変化があった。一つ目は出雲が雨霧に対してお節介を焼くようになった。デートの服装を一緒に選んだり、恋の相談を聞いてくれたりと、付き合う前よりも関係はよくなった。二つ目はセフレであった出雲と雪宮が付き合うことになった。二人とも真剣にお互いのことを考えて養子縁組に入ることになったのだ。どうやら雪宮はまだ晴明のことをライバル視しているようで、連絡を入れていないことに雨霧は苦笑いをする。
「あっ、さっきまで雨だったのに虹が出てる」
土砂降りの雨だった空はいつの間にか晴れ渡り、虹がかかっていた。
「本当ですね。これならお出かけが出来そうです」
「やった。じゃあ、行こうよ。今度は何処に行く?」
「そうですね。行きながら考えましょう」
二人は楽し気に会話をしながら玄関へと向かっていく。もしも心に土砂降りの雨が降ったとしても雨宿りをさせてくれる人がいる。晴れた時には一緒に出かける人がいる。雨あがりのそばに君がいれば幸せなのだから。
雨あがりのそばに 多田羅 和成 @Ai1d29
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