第3話
「ありがとうございました。もう帰ります。服は必ず洗って返します。」
私は頭を下げて、一息に言った。
「そうですか。もしかしたらお腹が空いてらっしゃるかもしれないと思って残り物を温めたのですが、必要ありませんでしたね。」
その時、グウ、という音を立てたのは、私の体だった。萩森さんがニヤニヤ笑っている。
「お口に合うかどうかはわかりませんが、召し上がってください。」
小さなダイニングテーブルの上に並べられた料理は、なんだか茶色い。この人が作ったのか、と思うと何と言えばいいかわからない気分だったが、ほんの少し取って、口に運んでみた。
味が濃すぎる!
「お、おいしいです……」
「笑ってますよ、ほんの少し。
僕、顔を見ればわかるんです。その方が何を思っているのか。わかりにくい方ももちろん少なくないですけど、あなたはわかりやすい。今、悪い気分ではないでしょう?
良かったら、お腹いっぱい食べてください。しょうが焼きはパワーをくれますから。」
「お言葉に甘えて。」
それからしばらく、黙って食事をとった。どれも濃い口だが、これも悪くない。何より、このテーブルの向こう側に人がいる。手料理なんて久しぶりだ。
私は、皿洗いを手伝ったら、綺麗に去ろうと思った。萩森さんは慣れた様子で食器をひとつひとつ磨き、私はタオルでそれらを拭いた。何度か指先が萩森さんに触れた。
この場所にいれば、少しは……
いや、それはだめだ、甘えすぎだ。
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