第7話

 目が覚めたら8時だった。昨日と同じように、テーブルには朝食が並んでいて、萩森さんはもういない。食べたら食器を片付けて、掃除、洗濯、夕食の支度。ずいぶん前には自分のためだけに米や汁物を用意していたが、長らく料理はしていなかった。それでも感覚は残っていて、そして、作れば二人で食べられる。

 もうやることはないかな、と確認をしていた時、ガチャっと音がした。まだ明るいのに、と思いつつ「おかえりなさい。お疲れ様です。」

「美麗さんごめんなさい、今から近くの居酒屋に来てもらってもいいですか。友達がどうしてもと言うので。」

「分かりました。」


 連れていかれた店は確かにすぐ近くだった。赤い暖簾がかかっていて、もう他のお客もいる。お友達さんは、私を一目見て「意外だな」と言った。


「お前、ペース早いぞ。」

 私は萩森さんの普段を知らない。

 ただ居るだけになるだろうと予想したけど、私も輪の中に入れた。楽しい時間はあっという間に終わるもの。萩森さんは酔いつぶれてしまい、お友達さんに背負われて帰宅した。ベッドまで連れていってから、私はお茶をだす。

「ところで、馴れ初めって聞いちゃってもいいですか?」

「馴れ初め……」

 さすがに言えないな、と思う。

「私たちは何でもないですし、今日が最後なんです。」

「え?」

「本当ですよ。」

「あいつがこんなに飲むなんて、葉月さんを手離した時以来ですよ。だから、」

「ハヅキさん?」

「知らないっすか、元奥さん。

 あれ以来、ずっとここで独り暮らし。男一人には広いっすよね。遊びまくってたのに、すっかり大人びやがって。」

 この方も酔っていて、饒舌だった。


 きっとあの居酒屋が最も繁盛しているであろう時間に、私はそっと出ていく。来た時の服はとっくに乾いていて、いつもの姿に戻った。道のりは長い。窓の外は暗くて、街がよく分からない。

 いつかまた逢えたら。

 いつかまた会えたら。

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