白亜の試練〜決められた結末〜(3)
アスティエ様は、自分が勇者になれないことを知ってる。
それって、つまり、勇者がもう見つかってるってことだよね?
驚きの事実に僕が目を点にして思考停止している間にも、アスティエ様の話は続いている。
「見つけて終わりであればいいが、実際はそうはいかない。探し出した勇者には、魔王を倒してもらう必要があるのだ」
勇者が魔王を倒す。
疑問を持ったこともないほど当たり前で、それ以外に何があるなんて考える必要もないくらい答えが決まっていることだ。
だからこそ魔王討伐において最も重要なことは、いいかに早く勇者を見つけるかと言われているし、勇者さえ見つかれば魔王討伐に成功したも同然だと、誰もがそう思っている。
「しかし、いくら勇者とて一人では魔王を討伐すことは難しいだろう。そこで、我々聖騎士の出番というわけだ」
確かに。
言い伝えばかりを信じすぎて深く考えたことが無かったけど、魔王に辿りつく前に多くの魔物と対峙するなんてことは簡単に想像できる。
各国の騎士は魔物の脅威から自国を守らなければならないから、国からは離れられないだろう。
聖騎士には、勇者が魔王のもとに辿りつけるように守る役目があるんだ。
「だが、これはあくまで勇者にある程度の実力がある場合の話になる」
アスティエ様の含みのある物言いが気になって注目していると、伺うように僕を見たその視線と目があった。
アスティエ様の言っていることは多分こうだろう。
予定通りことが進むかどうかは勇者の実力次第。
勇者にはある程度の実力が求められて、それに満たない可能性もある。
僕はてっきり勇者って問答無用で最強なのかと思ってたけど、いろんな場合があるんだね。
「もし勇者に実力がない場合はどうなるのですか?」
僕が思いついたままの疑問を口にすると、アスティエ様は難しい顔をしながら口を開けた。
「私は現在聖騎士団長の座を務め、世界でも五本の指に入る剣士だと称されている。だが、どれだけ力があろうと魔王を倒せるのは勇者のみ。聖剣に選ばれたものだけだ」
目を閉じ淡々と告げるアスティエ様は、自慢するでもなく、驕るでもなく、それが他者から見た自分だと言うように、なんの感情もないような無表情だった。
自他ともに認める強者で、さらに聖騎士であっても魔王を倒すことはできないんだよね……。
アスティエ様の話を聞いていると聖剣の非合理性に悔しくなる。
アスティエ様のような人が聖剣に選ばれれば、なんの心配もなく魔王を倒すことができるはずなのに。
「もし、その唯一の希望である勇者の力が著しく劣り、自身の身さえ満足に守れなかったとしたら、そして魔王を討伐する前に命を落としたら——」
「勇者を探すところから、もう一度やり直さなければならない……」
僕の口からは自然と言葉が漏れていた。
今だって信託を受けてから5年が経ったけど、勇者を見つけたという宣言は出されていない。
アスティエ様は何か知っているようだけど、正式に宣言されていないのには意味があるんだろう。
信託の通り魔王が復活するのなら、残された時間は後3年余り。
一からやり直しなんてことになったら、魔王復活までに探し出すのは難しくなるだろう。
「どこにあるのか分からない聖剣とそれを扱える勇者を、今度はすでに復活している魔王を足止めしながらな」
話に区切りがつき、アスティエ様は再び剣を構え、僕へと視線を集中させる。
一方で、僕はまだ頭の中がさっきの話でぐちゃぐちだ。
話の内容は、どう考えても教会の秘密事項じゃないだろうか。
公にされていない勇者の存在に、勇者の力量に差が存在すること。
どうしてアスティエ様は、僕にこの話をしたんだろう?
グルグルと回る頭を振って、僕は正面に立つアスティエ様に剣を構える。
考えても仕方ないし、今は目の前のことに集中するしかないよね。
グッと剣を握る僕を見て準備ができたと判断したのか、アスティエ様が床を蹴った。
すぐさま距離が詰められ、瞬きする間もなく剣がかち合う金属音が周囲に響く。
その瞬間。僕は呆気なく後方へと飛ばされ、この試合に決着がついた。
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