白亜の試練〜決められた結末〜
見渡す限り真っ白な巨大空間の真ん中で、僕と聖騎士団長のアスティエ様は、少し距離をとった位置で向かい合っている。
お互い腰には非殺傷魔法が掛けられた訓練用の剣を装備し、いつでも剣が抜ける体勢だ。
「で、では、両者、剣を構えてくだしゃいっ!」
辺りに漂う緊張感のせいか、号令役のロダさんが盛大に噛んでしまったようだ。
顔を真っ赤にして恥ずかしがる様子に、ロダさんには申し訳ないけど僕の方は少し緊張が和らいだよ。
ロダさんの隣でゲラゲラとお腹を抱えて笑うエリーさんは通常運転に見えるけど、その横でじっと僕らを見ているミロさんは、今まで見た中で一番真剣な表情をしているように見える。
この試合に相当関心があるみたいだね。
ロダさんが落ち着いたの見て、僕はアスティエ様へと視線を戻した。
理由も分からずここまできたけど、連れてこられたのが試合をするためだったなんて、どうにも腑に落ちない。
だからと言って、やるやらないの選択権が僕にあるわけでもないし、ひとまず試合を受けることにした。
使用する武器も非殺傷魔法付きで安全だし、エリーさんは治癒術が使えるみたいで、怪我しても大丈夫らしい。
エリーさんはあの見た目だし、実際使ってるところ見てないから半信半疑だけど、聖騎士のアスティエ様が嘘をついたりはしないだろう。
お互いの安全が約束されているのなら、聖騎士団長と試合ができるチャンスを逃す手はないよね。
「こほんっ。では、両者剣を構えてください」
さっきより落ち着いた口調で、ゆっくりと号令をかけるロダさん。
次はちゃんと言えそうだ。
いよいよ試合が始まる。
見据えた先の大きな存在感に震える足に、僕は力を込め踏ん張った。
「見合って、見合って——始め!!」
ちょっと癖のある号令を気にしている余裕もない速さで、アスティエ様が間合いを一気に詰めくる。
数メートルは合った距離が、気づけばもうゼロ。
“ガチッ”
「くっ!!」
剣と剣がというよりは、重たい鉄の塊に打たれたような強い衝撃が腕に伝わり、その勢いのまま僕は後方へ飛ばされる。
僕は床に落ちる前になんとか受け身をとり、なんとか体を打ちつけることなく起き上がった。
「反射神経はいいようだな」
「……ありがとうございます」
先ほどの紳士から一変、アスティエ様は歴戦の策士のような鋭い目つきで、観察するような視線を僕に向ける。
「線は細く、骨格もしっかりしているとは言い難いな」
一人で何かを呟いているけど、僕には聞き取れない。
まるで、剣士の試験の試験官みたいだな。
挑戦者を見ながら小声で採点結果を口ずさんでるんだよねー。
ふと、そんなことを思い出していたら、アスティエ様の次の一撃が降ってきた。
さっきは横からだったけど、今度は縦だ。
まともに受けたら頭に直撃しちゃうよ!!
そうと分かっても、もう目の前にいるアスティエ様の剣撃を避ける術を僕は持っていない。
僕にこの剣を受け止める力があれば——。
先日のお父様との手合わせを思い出し、グッと腕に力を込める。
諦めちゃだめだ!
できるって信じで行動あるのみ!!
僕はアスティエ様の剣をじっと見つめる。
すると、剣の軌道をはっきりと目で捉えることができた。
今だ!!
僕は直感を信じて剣を振るった。
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