聖騎士団長さま(2)

 僕らは閉じられた扉の前で立ち止まった。

 大きな扉は固く閉ざされ、壁のように僕らの行手を阻んでいる。

 両開きみたいだけど、片方を開けるだけでも苦労しそうな重厚感だ。

 屈強な騎士でも最低5人は必要そうだね。


 だけど、僕らはたったの3人だけ。

 僕だったら10人いてもびくともしないだろうなー。

 ミロさんは身軽だけど細身で、力がありそうには見えない。

 かと言って、エリーさんもムキムキじゃないし……。

 誰が開けるのかな?


 僕はソワソワしながらミロさんとエリーさんを見る。

 ミロさんは、ぽけーっとしているだけで開けてくれそうな素振りはない。

 エリーさんはどこから出したのか、いつの間にか手にしている短剣を眺めながら眉間に皺を寄せている。

 とても話しかけられる雰囲気じゃないよね。

 扉の前で立ち尽くしたまま、気まずい時間が永遠に続きそうな気がしだしたとき。

 重い扉がその見た目に似合わない静かな音を立てて開いた。


 三割ほど開いた扉の間は、大人が5人並んでも余裕で通れるほどの広さで、僕らはその真ん中を通り部屋に入る。

 中へと進んでいくと、扉はまた静かに閉じてしまった。

 こうなれば、もう後戻りはできない。

 現状、僕はこの部屋に閉じ込められてしまったのだ。


 下手に動いても逃げられ無さそうだし、今は情報を集めるために部屋の様子を探ってみよう。

 まず、パッと見ただけでも分かるのは、部屋がすごく広いってこと。

 扉が大きかった分、部屋広さも相当あるようだ。

 左右の壁はかろうじて見えるけど、距離がどのくらいかなんて想像もつかない。

 そもそも壁自体が高いのにそれがうっすらと見えるだけだから、壁一面に人が並んでたって見えないだろうなぁ。

 更に、天井なんてもっと遠くて、あるのかどうかも分からないぐらいだ。

 光が強くて眩しいせいか白く輝いていて、部屋全体がハッキリ見えないのも苦戦している原因なんだよなー。

 はぁ……。これだと何にも分かんないのと同じだよ……。


 何の情報も得られないまま、僕は前を歩く二人の後についていく。

 向かう先もやっぱりよく見えなくて、ちゃんと目的地に向かえているのかも不安に思うぐらい、同じ景色が続いている。

 頼りになるのは、床に敷かれた一本のカーペットだけだ。

 深い藍色のカーペットの幅は3メートルぐらいかな。

 両端に施された銀糸の刺繍がとても繊細で、その高価さがありありと滲み出ている。

 こんなに高そうなカーペットがまだ見えない向こう側まで繋がってるなんて……。

 一体どんな大富豪が僕に用事なの!?

 

 「あーだるい。こんな部屋わざわざ使う意味あんのかよ」


 今まで黙って歩いていたエリーさんが、ボソリと愚痴をこぼした。


 「威厳大事。お客がお客だから」


 それに対し、ミロさんが淡々と返す。


 「だからってよー、このクソでかい部屋歩くのマジダルいんだけど?」

 「エリー、体力ない?」

 「あ゛?」

 「歩くの遅い」

 「んなの、後ろのノロマのせいだろうがよ。なぁ?」

 「えっ」


 な、何!?

 二人が険悪モードになったなーって思ったら、僕のせいなの??

 僕はただ二人に着いて来ただけなのに……。


 「何とか言えよ」


 今にも殴りかかりそうな目で僕を睨むエリーさん。

 完全に足が止まってますよ?

 こっち向いちゃってますから!

 このままだとエリーさんに追いかけられながら逆走してしまいそうなので、ひとまず話を合わせよう。


 「すいません、もう少し早く歩きます」

 「分かればいいんだよ。ったく、客ってのはどいつもこいつも面倒くせぇ」


 そういうエリーさんは客人に対して失礼すぎだし、自己中心的すぎますよーだ。


 「そこの二人、遅い」

 「おい!ミロ!てめぇ、待ちやがれ!!」


 エリーさんと僕が足を止めている間に、ミロさんは先に進んていたようで。

 その差を縮めるために走り出すエリーさん。

 それを見て、追いつかれないようにミロさんも走りだしと、もはや駆けっこ状態だ。


 僕だけのんびり歩くわけにもいかないよね……。


 「二人とも、置いてかないでくださいよー!」


 一人取り残されないように、僕も二人の後を追って走り出した。

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