ヴァントラーク辺境伯の激昂(3)
息子の声が聞こえ顔を上げると、冷たい目をしたセネランが私を見下ろしてた。
私は上げた顔を下げ、意味もなく机上のティーカップに視線を移す。
顔を背けても感じるセネランの圧に、今は泣き妻の面影を感じれば、頭の上がらなかった日々が次々と思い出されいく。
「言う通りに城へ行けば、息子が勇者であると認めることになる」
そうして、いつも下手な言い訳をしてしまうのだ。
あの頃のように、今もまた。
「屋敷の警備も易々と突破されてしまいましたし、彼らは既に確信をもって弟を攫ったのだと思います」
セネランの言う通り、陛下と聖騎士団長は弟が勇者だと確信し、誘拐を実行した。
使いが来た時は、すでにこの誘拐も予定に含まれていたとみて間違いないだろう。
だとすれば、私の浅はかな抵抗など初めから無駄だったのだ。
息子を守るのであれば、奪われぬように万全を期すべきであったはずだが、我邸にいれば問題などないと慢心してしたのだ。
相手が王族と教会の側近だと分かっていながら、適当な賊を相手にするような対策しかしていなかった。
言い訳の余地もなく、今回のことは全て私の失態なのだ。
「それについては、私も同意見です。警備の件については、弁解の余地もありませんが」
何も言えずにいる私に変わってか、ステラトスがセネランに頭を下げた。
「羊が相手となれば騎士だけでは対策不足。お父様の采配ミスですから、あなたは気にしないように。先ほどの雑兵君にも、そう伝えてあげてください」
セネランは表情こそ真顔のままだが、声色はやや穏やかにステラトスへと言葉を返す。
だがしかし、横目で私を見る目は、決して穏やかではないのだが。
「ありがたきお言葉に感謝いたします。今後の訓練は、羊どもの対策も視野に入れて行います」
「才能ありそうな子を五人くらい鍛えると効率的。君がお手本になってあげて」
「かしこまりました」
いつも通りの調子で話をまとめる二人に不甲斐なさを感じながらも、心強くも感じた。
私にも頼れる仲間がいるのだな。
一人戦場を駆け回っていた頃が遠い昔のように感じるのは、今が初めてと言うわけでもないが……。
「……頼もしい限りだ」
過去ではなく未来を見据える若者たちを眺めながら、私も次へと向かおうと重い腰を上げ立ち上がった。
「これより、ラルト奪還作戦を開始する!すぐに動ける者を集め、至急、屋敷の前に集合しろ!」
『はっ!!』
これより我々は、ヴァントラーク家の誇りをかけて出陣する。
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