ヴァントラーク辺境伯の激昂(2)

 私は向かいに立つステラトスに、現時点で把握している状況を報告するように求める。


「はい。魔導士が手紙を調べたところ、神力が宿っていたとのこと。犯人は聖騎士の関係者である可能性が高いようです」


 私はステラトスからの報告に耳を疑った。


 「聖騎士だと?」


 本来、聖騎士とは創世の女神を信仰する教会所属の騎士であり、行動目的も教会の意向によって決められている。

 まさか、教会が息子を誘拐しろなどとの馬鹿げた命令を出すはずがない。

 私の予想では、間違いなく国王側の人間だと思っていたのだが……。


 「聖騎士がなぜ息子を攫う?守る立場でありながら危害を与えるとは、何を考えているんだ」


 教会は女神を信仰すると同時に、その使者であると伝えたれている勇者にも信仰がある。

 稀有な者にしか感じられない女神に比べ、誰にでも分かりやす神物としての価値がある勇者へ、教会は手厚い支援を行なってきた。

 勇者の捜索もその一つだ。

 そして、息子が今代の勇者に選ばれてしまったが、私はこの事を教会には報告していない。


 「思い当たることが一つあります。先日いらっしゃった陛下からの使者が言っていたことですが」

 「『期日までに来なかったらどうなるか』だったか。まさか、これがそうだとでも言うのか?あまりにも礼を失しているな」


 少し前に来た王の使者はどこから嗅ぎつけて来たのか、息子が勇者に選ばれた事を知っていた。

 おそらく私より先に勘づいていたようだが、こちらが先に息子を確保していたため、今まだは下手に手を出せない状態だったのだ。

 使者を送ってはきたが、あちらも、こちらが息子を素直に渡すとは思っていなかったのだろう。

 宣言通りに刺客を送って来たのがその証拠だ。


 「そして、聖騎士が関わっていると言うことも気がかりです」

 「確かに。誘拐など聖騎士の本来の任務ではないからな」


 聖騎士は勇者を守り支援する立場のはずなのだが、どういうわけか、同意も無く攫っていってしまった。

 教会からの使者が一度も来ていないことから、該当の聖騎士が単独で行動しているのだろう。


 「“羊“が動いているようです」


 羊とは、ある人物に仕える非公式の団体だ。


 「ならば、あの堅物の指示と言うことだろう。目的はなんだ?」


 羊たちの長は、王国に駐在している堅物な聖騎士団長なのだか、奴がなぜ息子を攫ったのか見当がつかない。


 「やはり、勇者を手に入れたかったのではないでしょうか」

 「だとしても、あの堅物ならば道理をわきまえるだろう」


 奴は信仰心と教えで凝り固まった教会に所属しているだけでなく、聖騎士団長まで勤めている。

 つまり、その地位に相応しいほどの堅物なのだ。

 奴が独断で息子を攫ったとは考えにくい。

 しかし、羊たちが奴の命令にしか従わないことは周知の事実。

 彼らが動いていると言うだけで、奴が関わっていることが確定するほどにだ。

 なぜ聖騎士が勇者に害をなすのだろうか……。


 「父上が使者を追い返したからでは?」


 色々な憶測を巡らせながら考え込む私に、音もなく入室してきた次男、セネランが冷たく言い放った。


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