王宮への招待状(2)

 「えっと……、どちら様ですか?」


 お姉様とのお茶会を終えて部屋に帰ったら、知らない人がいました。

 しかも、一人でお茶をしてました。

 お菓子も食べてました。

 本当に誰なの!?


 その方の向こう側で、カーテンレースがヒラヒラと揺れている。

 よく見たら、窓全開だ。

 部屋を出る時に開けた記憶はないんだけど、まさか窓から入ってきたんじゃないよね?

 でも、お客様だったら誰か伝えに来てくれるはずだし、僕の部屋で一人でいるはずないんだけど……。

 すれ違いとか?


 「あ。初めまして、ミロです」


 ミロさんは名乗ると、紅茶を一口飲んだ。

 高い位置で結ばれた黒い髪が風でサラリと揺れ、ミロさんの白い肌を撫でる。

 カップを置き、僕を見る赤い瞳は、熟した林檎みたいに綺麗だっだ。

 食べかけのマフィンを平らげてから、ミロさんは席を立ち、僕に手紙を差し出した。


 「団長からのお手紙です」


 白い封筒に青い封蝋が押されているけど、この印章は初めて見る。

 と言っっても、じいちゃんの家て田舎暮らしをしている僕が知っている印章なんて、王族のものと自分の家だけだから、それ以外は全部知らないんだけどね。

 ミロさんは「団長」って言ってたから騎士団のものだと思うんだけど、僕に手紙を送ってくる人なんて、お兄様しかいないかな。


 「ありがとう」


 僕はお礼を言い、ミロさんから手紙を受け取る。


 「こちらこそ。お茶とお菓子、美味しかった」


 んー、それは僕が準備したんじゃないし、多分ミロさんのためのものじゃなかったと思うけど……、良しとしよう。


 「どういたしまして。ここのシェフの料理はどれも絶品なんだ」

 「それは良いな。また来たい」


 ミロさんは表情をあまり表に出さないタイプのようで、微笑んではいなかったけど、目が少し嬉しそうに輝いて見える気がした。

 騎士団員だから、お仕事の時用に表情筋を鍛えてるのかな?

 王宮騎士の方々は、仕事中に私的な感情は抱かないって言われてるもんね。

 でも、その割にミロさんは、しっかりお茶してたけど。


 僕は、ミロさんの身なりを改めて確認する。

 白い生地に青と金の装飾がされていて、胸元には騎士団の制服を象徴する徽章が縫い付けられている。

 徽章の意味までは分からないけど、正式な騎士団員であることは間違いなさそうだ。

 

 僕がじっくりと見ていると、ミロさんは突然身を翻し、窓の方へ一直線に向かっていく。


 「じゃ、渡したから」


 どうやらミロさんは、窓からお帰りになるようです。

 これは、来る時も窓から入ってきたな?


 「今度は玄関から入ってきてね」

 「……考えとく」


 ミロさんはそう言うと、しれっと開いた窓から出ていった。

 絶対に改める気ないよねー。

 屋根に登り、そこから飛んで塀を越えて行ったミロさんを見送りながら、僕はため息を吐いた。

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