王宮への招待状

 お祭りから五日が経った日の午後。

 僕とお姉様は、いつの間にか日課になっているアフタヌーンティーを堪能している。


 「ラルトちゃん。この紅茶のケーキ、凄く美味しいわね」

 「本当ですね、おに……お姉様」


 今日のお姉様は、濃い青色のドレスを着ている。

 第三騎士団の制服に色味が少し似ているせいで、お兄様と呼びそうになっちゃったけど、なんとか飲み込めてよかった。

 最近は毎日会ってるからか、前より話せるようになって嬉しいけど、たまにお兄様と呼んでしまいそうで気が抜けない。

 お姉様の時にお兄様って呼ぶと、雷が落ちるらしいってことは、フランツから口酸っぱく言われたから気をつけてるんだけどね。

 今まで僕の前では常にお兄様だったからなぁ。


 「紅茶のクッキーも美味しいわよ」

 「凄く良い香りがします」

 「ラルトちゃんは違いが分かる子で、お姉ちゃん嬉しいわ。お父様なんて、全然ダメダメだもの。アイスにすれば少しは分かるみたいだけれど」

 「あはは……」


 お姉様は無類の紅茶好きで、紅茶味の物は手の届く限り口に入れているらしい。

 お兄様の時は、そんな様子を微塵も感じなかったけど、お姉様の時は全面に押し出している。

 

 どうして僕は今までこんなことを知らなかったんだろう。

 今回の帰郷で、僕の中の常識が色々と覆されてしまった。 

 お父様がお姉様に頭が上がらないなんて、目の前で見るまでは全く信じられなかったし、アイスが好きだってことも知らなかった。

 夕食の最後には必ずアイスが出されてたんだよと言われて、確かにって思ったぐらいだからね。


 「あら、もうこんな時間」


 お姉様がテーブルに置かれた時計を見て、小さくため息をついた。


 「会議の時間ですね」


 お姉様は屋敷にいるものの、通信魔導具で騎士団の人と連絡をとっている。

 いつもはお姉様の都合に合わせてくれているみたいだけど、今日は会議だからと時間を指定されているって話だったよね。


 「もう、やになっちゃうわ。可愛い弟とのティータイムを邪魔しないでと、あれほど言っておいたのに」

 「お仕事なら仕方ないですよ」

 「はぁ。ラルトちゃんが良い子すぎて辛いわ」


 お姉様はゆっくりと立ち上がると、にっこりと微笑んで僕の頭を撫でた。


 「また夕食でね」


 去っていくお姉様の後ろ姿は凛としていて、見た目は違うのに、お兄様の背中を見ているような気持ちになる。


 仕事する時はお兄様になるんだよね?

 それとも、お姉様のままだったりするのかな?


 そんなことを考えながら、僕は自室へと向かうお姉様を見送り、自分も部屋へ戻った。

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