街でお買い物って、何買うの?(3)

 商店街を見渡すと、たくさんの露店が並んでいる。

 さっきは慌ててたから気が付かなかったけど、こんなに賑わってなんだ。

 キャンディー片手に、親御さんと手を繋いで楽しそうにしている子供とすれ違い、自然を笑みが溢れる。

 なんだか懐かしいな。

 お母様と行った初めてのお祭りは、見るもの全部が宝石みたいにキラキラしていて、僕も凄く楽しかった。。

 楽しかったぶん、あっという間の一日だったけどね。

 そのお祭りは確か……、初めてこの国で勇者が誕生した日を祝うものだったっけ。


 物思いに耽っていると、目覚まし時計のような露天商の大きな声が聞こえてきて、一気に現実に引き戻された。


 「安いよ、安いよ!今日はなんてったって『降誕祭』だ!赤字覚悟で半額だ!!」


 降誕祭……。そうだ。

 お母様と行ったお祭りは、降誕祭だった。

 そして、まさか今日がその日だったなんて、すごい偶然だね。

 僕は、懐かしく思いながら祭り一色の街を見渡す。


 降誕祭は、未だ見つかっていない勇者の誕生を祈る祭りでもあるんだよね。

 魔物が増えてきている今も祭りを盛大に行うのは、みんな新しい勇者の誕生を待ち望んているからだ。


 「今日があの日でしたか」


 僕の隣を歩いていたサンディウスが、ポツリとつぶやいた。


 「サンディウス、降誕祭を知ってるの?」


 降誕祭は、王国で勇者が誕生したことを祝う祭りだから、外国の人は知らない人も多い。

 更に、勇者が初めて生まれはのは帝国だったからか、その日を降誕祭と定めている国がいくつもある。

 その国の人、特に帝国の人は、あまりいい顔をしない人が多いのが現状だ。

 でも、商人なんかは全然気にしてないみたいで、帝国の豪商もバンバン商品を売っている。


 サンディウスはどこの国の人なのかな?

 帝国の人っぽくは無いけど、この祭りに意義ありな国の人だったりしないよね?


 「はい、有名ですから。どこの国でもやってますし」

 「確かに、言われてみれば、どこでもやってるんだった」


 時期はさておき、降誕祭はどこの国でもやってったね。

 知ってて当たり前だったよ。


 「お、兄ちゃんたち。降誕祭の記念品、買って行かないか?」


 歩いていたら、いつの間にか、大きな声で呼び込みをしていた露天商のお店の前にきていた。

 露天商は体格の良いおじさんで、ハツラツとした性格だろうことが、雰囲気から見てとれた。


 人当たりの良い笑みを向けられ、僕は笑顔を返してから、並べられた商品を見る。

 貴金属系のアクセサリーがいくつかあるけど、どれもこの辺りのお店では見たことのないようなものばかりだ。

 同じような見た目の物も、よく見るとちょっとした違いがある。

 材料は同じだけど色や形が違ったり、全然違う質感の物で似たような形のがあったりと、さまざまだ。


 「こいつらは俺のハンドメードたがらよ。どれも一点ものだぜ」


 なるほどね。

 まじまじと見つめても、作りが綺麗なのがよくわかる。

 これだけの物なら高いかなって思ったけど、意外とお値段もお手頃だった。


 お祭りの記念にどれか買おうと迷っていると、横で見ていたさんディウスが、手に取った商品を露天商に渡した。


 「これにします」


 サンディウスが手にしてのは、花模様が彫り込まれた銀製の腕輪だった。


 「これ——」

 「はい。星の花に似てますよね」


 サンディウスは、二つあるうちの一つを僕の腕に着けてくれた。


 「この腕輪のモチーフになった花は、過去の勇者が描いた絵の中だけに存在するんだぜ。花の名前は分からないが、花言葉は『清い絆』だ。兄さんたちの友情が、清らかなものになるといいな」


 「もちろん。永遠にそうですよ」


 サンディウスが、僕をまっすぐ見つめて言った。

 僕はどうしてか緊張してしまい、頷くことしかできなかった。


 「ワハハ!目標は高くねぇとだな」


 僕らを見て大笑いする露天商にお礼を言い、僕らは次のお店に向かってまた歩き出した。

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