街でお買い物って、何買うの?

 突然ですが問題です。

 何年ぶりかの大きな街でお買い物する時に、始めに買うものは何でしょう。

 答えは——。


 「では、これをお会計してください」


 ヴァントラーク領の中心部に位置するこの街は、公爵邸から近いだけあって多くの建物が立ち並んでいる。

 王都までとはいかないけど、他の領地と比べれば1、2を争う大きな街だ。

 衣食住に必要なものはもちろん、王都で流行っているものもバッチリ押さえつつ、尚且つ隣国の商品の取り扱いは王都を凌ぐ品揃え。

 辺境地でありながら、王都までの交通整備がしっかりとできているため、王都からヴァントラーク領まで馬車で三日あれば来ることができる。

 王都の人たちは、その道が領地の活性化のためだと思っているみたいだけど、実は全くの見当違いで。

 一番上のお兄様が騎士学校時代に、学校から寮までの移動が面倒だと理由で、山を切り拓いたのが本当の話。

 あの頃のお兄様は、ちょっと見境ないところがあったんだよねー。

 ま、結果良ければ全て良し、だよね。


 それで、いま、すっごい窮地に立たされている僕は、何となく振り返っていた過去から戻ってきたんだけど、現実は変わらずピンチです。


 「それは要らないんじゃないかな!」


 サンディウスは、同じ形の対になった指輪——つまりペアリングを店員さんへ渡し、耳に着けているイヤリングを片方はずして渡そうとしている。


 「必要ですよ?」


 さも当然のことのように言ってるけど、アレは絶対必要じゃないものだ。

 サンディウスに恋人がいるなら、僕だって止めたりしなかったよ。

 お金の代わりにイヤリングと交換だって、暖かく見守るつもりでいるともさ。

 でも、渡す相手を間違えてはいけないもの上位に間違えなく入っているであろうものを、間違えた人に送ろうとしているなら、親友として止めなくてはいけない。

 ここは心を鬼にして、絶対に指輪を買わせてはいけないんだ。


 「何に使うのか、教えてくれる?」


 サンディウスが指輪を選んでいる時に聞こえた、あの言葉が本当なのかもう一度確かめないと。


 「お揃いで着けるんです」


 照れた様に微笑みながら指輪を見つめるサンディウスは、まるで御伽話の王子様がお姫様に告白する時みたいに輝いている。


 「誰と……かな?」

 「それはもちろん、ラルト様とです」


 やっぱり、聞き間違えじゃなかったかー。


 僕とサンディウスの会話を聞いていた店員さんが、より一層笑みを深め、僕とサンディウスの指を見ている。

 たぶん、目視で指のサイズを測っているんだろうなぁ。

 さすがプロ。仕事が早い。


 「サンディウス。この指輪は絶対に受け取らないから」


 いつもは流されやすい僕だけど、今回ばかりは食い下がる。


 「……なぜですか?」


 悲しそうなサンディウスに一瞬心が折れそうになったけど、修羅場を見逃さまいと目をこれでもかと見開いている店員を目にして、踏ん張った。


 「だってこれは」


 ゴクリッと店員が唾を飲む音が」聞こえる。


 「結婚式用の指輪だからだよ!」


 目を見開いて驚くサンディウス。

 これは、僕の気持ちが届いたってことで、いいんだよね?

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