王宮からの使い(3)

 

 お父様とお客人の足音が遠ざかって行くのを感じ、僕は改めてステラトスに別れを告げた。

 目指すは浴室だ。

 訓練でかいた汗を流してから、お出かけ用の服に着替えて、街に行く準備をしなくちゃ。

 今日のお昼は、サンディウスと街で食べると約束している。

 久しぶりの二人で一緒にいられる時間に、朝から待ち遠しくてワクワクしてたんだよね!


 と言うのも、ここに来てから、僕とサンディウスが一緒にいられる時間が減ってしまったのだ。

 その要因の一つはお姉様で、お姉様は僕らが仲良くすることを良く思っていないのだろうか。

 僕らが一緒にいるのを見つけると、必ず僕をお茶に誘い、サンディウスには着いてこないように言う。

 度々同じことされれば、サンディウスもお姉様に気づくと、自分から離れていくようになった。

 何度目かのお茶会でお姉様に理由を聞くと、たまにしか会えない弟との時間を大切にしたいと言われ、何も言えなくなる。

 それが本当の理由ではないだろうと思ってはいるけど、つい数日前にお姉様を心配させてしまった僕は、お姉様の言葉を否定することができなかった。

 だからこそ、僕はもっと頑張って強くなるんだ。

 そして、お父様に認めてもらえれば、お姉様もサンディウスと仲良くなれるはずだよ。

 三人でお茶会ができるように、もっと頑張らないとね。


 そして、お姉様以上に僕からサンディウスを遠ざける人物が、お父様だ。

 お父様は、サンディウスを執務室に呼び、何かをしているらしい。

 その何かが気になってサンディウスに聞いてみたが、ハッキリとした答えは返って来なかった。

 雑談をしているだったり、仕事の手伝いをしているだったり、肝心の内容は教えてくれないから余計に気になる。

 仕事の話ならともかく、雑談内容くらい教えてくれたっていいじゃないか。

 気になり過ぎて眠れない夜を過ごしていた僕は、とうとう盗み聞きをするという暴挙に挑んだ。

 が、結果虚しく、門番といわんばかりに立ち塞がるフランツに、成す術なく追い返され完敗だった。

 それっきり、どうせ無理だと気にすることを止めたら、ぐっすり眠れている。


 「よし、準備完了っと」


 汗を洗い流し終え、外行きの綺麗な服に着替え終わった僕は、脱衣所の姿見に映る自分を見た。

 真っ白なシャツの上にワインレッドのベストを着て、パンツは七部丈のダークブラウン。

 靴は黒の革靴で、襟元にはベストと同じ色のネクタイを締めている。

 じいちゃんの家では絶対にしない格好だけど、公爵邸では当たり前の服装だ。

 屋敷内ではもう少しラフな格好をしているけど、質がとにかく良い。

 シャツ一枚とっても、僕が普段着ているものの何十倍ものお値段なのだ。

 今回はさらに、ベストやパンツまで高級品で揃えられている。


 今日の僕を見て、サンディウスは何ていうかな?

 自分から見て、ちょっと僕にはおしゃれ過ぎるようなきがすけど、変じゃないよね?


 待ち合わせ時間まで、後少し。

 僕は遅れないようにと、足早に待ち合わせ場所の正門へと向かった。

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