お姉様(2)

 お父様の書斎へ向かう途中の廊下を歩いていると、サンディウスと遭遇した。


 「ラルト様。ご加減はどうですか」

 「お姉様のおかげで元気いっぱいだよ!」

 「それは良かったです」


 僕は体調が良くなったことをサンディウスにアピールする。

 サンディウスはそんな僕を見て、嬉しそうに笑ってくれた。

 しかし、何故だろう?

 時折、お姉様へと視線をむけるている。


 「サンディウスさん、おはようございます」

 「……おはようございます、セネラン様」


 綺麗な笑みを浮かべるお姉様に対し、サンディウスは少し硬い表情をしている。

 僕が倒れている間に、何かあったのかな?


 「お姉様。もうご存知かも知れせんが、彼は僕の友達のサンディウスです」

 「ええ。お父様に紹介していただきましたわ」

 「お父様が、ですか?」


 お父様がわざわざ僕の友達を紹介するなんて意外だ。

 普通であれば、自分の客人は自分が紹介する。

 今回のように僕が自分で紹介できない場合は、お姉様が直接尋ねるか、家令が紹介するのが一般的だ。

 客人を招いた者より上のものが、他人に紹介なんてすることはまず無い。


 「ラルトちゃん。お友達はちゃんと選ばないとダメよ」

 「え?」


 お姉様はサンディウスに対して、あまり良い印象を持っていないのかな?

 お姉様の表情は、先程と変わらない淑女の笑みのままで、言葉の意味がハッキリとわからない。

 サンディウスの方も、表情は変わらないままだった。

 良い意味ってことは、無いよね……。


 「さ、お父様を待たせてはいけないわ。急ぎましょう」

 「は、はい!」


 お姉様に促され、少し早足で歩き始める。

 僕とお姉様の後ろを少し距離を取って、サンディウスも着いて歩く。


 執務室の前まで来ると、扉の前に立っていたフランツが僕たちに気がつき、軽い会釈をして扉から離れる。

 お姉様は空いた扉の前にたち、コンコンと二回ノックをした。


 「入れ」


 お父様の声を聞き、お姉様が扉を開けた。


 「失礼します」


 慣れた様子で執務室に入っていくお姉様に続き、僕も緊張しながら部屋へ入る。


 「失礼します」


 僕の後にサンディウスが静かに入ると、外にいたフランツが扉を閉めた。


 「体調はどうだ」

 「だ、大丈夫です」


 いきなり質問されてびっくりしたけど、ちゃんと答えることができたぞ!

 じっとこちらを見ているお父様とバッチリ目が合ってても、目を逸らしたりしないからね。


 「そうか」


 お父様が呟くように言った。


 「「「「……」」」」


 誰も何も話さない時間がしばらく続き、何か言うべきなのかと悩んでいたら、お姉様がため息混じりに口を開いた。


 「お父様。他に言うことがあるはずですが」

 「う、うむ」


 お姉様に責められたお父様が、弱気な返事を返している。

 お父様がお姉様に弱いことは知ってたけど、責められているところは初めて見たよ。


 僕は少しドキドキしながらお父様の言葉み耳を傾けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る