お姉様
セネラン
「ラルトちゃん、はい、あーん」
「お姉様、僕はもう自分で食べられますから……」
訓練場で倒れてから早三日。
朝昼晩と三時のおやつまで、お姉様が手厚く介助してくれるんだけど、僕はもう剣を振るえるぐらい元気である。
倒れた後すぐにヴァントラーク家専属の治癒師に見てもらい、次の日からいつもと変わらない調子なんだけどね……。
「強がっちゃダーメ。お姉ちゃんに甘えていいのよ」
「強がりとかじゃなくて、本当にもう大丈夫ですから」
「ラルトちゃんったら恥ずかしがっちゃって」
「あはは……」
綺麗に結い上げられた美しいピンクゴールドの髪に、上品な白いドレスを着こなすお姉様は、その実、僕の二番目のお兄様だ。
幼少期に令嬢として育てられた過去を持つお兄さは、本来の令息としての顔と、気まぐれに変わる令嬢としての二つの顔を持ち合わせている。
令息としてのお兄様は、物静かで表情もあまり豊かではない方だ。
必要なこと以外は滅多に話さないところはお父様とよく似ている。
剣の才能よりは魔法の才能の方が高く、それに関しては魔法師であるお母様譲りだとか。
魔法師で編成されている第三騎士団に所属していて、魔法騎士として剣と魔法を駆使し国を守ってくれている。
剣も高い腕前を持つお兄様は常に前線で活躍されていて、在籍二年目にはもう副団長を任されていたそうだ。
それと噂で聞いた話だけど、お兄様の剣と魔法に魅了された団員たちが親衛隊を名乗るほどの熱狂的なファンになっているんだとか。
休日に辺境伯邸の周りをウロウロしていた第三者騎士団の団員が、不審者と間違われ何度かお父様の騎士と揉めていると、帰郷した時に聞いたことがあったけど、お兄様は全然気にしてないみたいなんだよね。
お兄様は大体のことに無関心だから、気を引きたいなら意味がない。
親衛隊の人も早く諦めてくれるといいんだけど。
そんな、騎士様たちが憧れるお兄様がお姉様になることを知っているのは、邸の人たちと、お兄様の知り合いの中でごく一部の限られた人だけである。
世間的にはお兄様は天才魔法騎士で通っているんだよね。
世の中の人は、まさかお兄様がお姉様になるなって思ってもいないだろうなぁ。
「ねえ、ラルトちゃん。元気になったと言うのなら、お屋敷の人みんなに顔を見せに行きましょう」
「え?」
「みんな心配していたのよ?お父様は特に」
「お、お父様は、僕に幻滅していませんでしたか?」
「心配事は直接確認しに行きましょう」
僕はお姉様に連れられ部屋をでた。
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