初めての手合わせ(3)

 僕の剣はお父様へと、流れるような正確さで振り下ろされていく。

 自分でも驚くほど滑らかに繰り出された剣技に、感動を覚えたのも束の間。

 お父様の剣とぶつかった瞬間、その威力に再び驚かされた。


 僕の剣技がお父様の剣と張り合っている。

 それどころか、お父様を押しているのだ。

 これが僕の剣撃なの?

 基本的な動きはいつも同じだけど、速さと威力が段違いだ。


 いきなりどうしてだろう?

 僕はじっと剣を見つめる。

 いつも訓練で使っている剣とは違うけど、騎士団長に渡された時は何も感じなかったし、ここの騎士団が練習用に使っている剣と同じ物のはずだ。

 ちなみに、いまお父様が使っている剣も同じ物だし、剣に仕掛けは無いってことだと思う。

 もしかしたら、お父様との訓練で剣の才能が目覚めたとか!!

 絶対そうだよ!

 僕もついに剣士になれる時が来たんだ!!


 長年の夢が叶いそうな予感に、張り詰めていた気が散漫になる。

 そこから生まれた隙を、お父様が見逃す筈がない。

 競り合っていた僕の剣は横へと滑らされ、僕はバランス崩される。

 そこでハッとした僕は、すぐさま反撃に出ようとしたが、お父様の動きが早かった。

 僕は、右へと斜め向きになった体の左脇に蹴りを入れられ、そのまま地面へと倒れ込んだ。


 「うぐっ!」


 お父様から初めて受けた攻撃は、想像を遥かに超える痛さだった。

 胸の近くを蹴られたせいか、上手く呼吸ができず地に伏せたまま喘ぐ。


 「ラルト様!」


 誰かに背中をさすられているのを感じたけど、痛みが引かず顔を上げることができない。

 俯いたまま、大粒の涙と少量の唾液が訓練場の乾いた砂に落ちて染みていく様を見て、僕は痛みが去るのをじっと待った。


 数分経って痛みがようやく落ち着いてきた頃、僕はそばで支えてくれていたのがサンディウスだと気がついた。


 「サンディウス、ありがとう」

 「お礼など、私はラルト様の力になれなかった役立たずなのですから」

 「何いってるのさ。こうして僕のそばにいてくれたでしょ。凄く安心したんだよ」

 「そんなこと当たり前ですよ。本来、このような事態になる前に対処しなければならなかったのに、私の力不足でラルト様に怪我をさせてしまいました……」


 慌てたり落ち込んだり、忙しいサンディウスを見ていると、本当に僕のことを心配してるのが伝わってくる。

 こんなにも暖かい気持ちになったのは、お母様が亡くなってからは初めてだ。


 「ふふ。友達がいるって、いいね」

 

 僕の初めての友達は、とてもカッコ良くて優しい人なんだって、世界中の人に自慢したい気持ちだよ。


 「そうですね。……私も貴方に会えて良かった」


 サンディウスの言葉の後半が聞き取りづらくて、もう一度尋ねようとした、その時。


 「ラルトちゃん!?」


 突然の乱入者に、訓練場にいた全員が声のした方へ振り向いた。

 声の主はピンクゴールドの髪を揺らしながら大急ぎで僕の方へと駆けて来る。

 あの人は、僕の二番目の……。


 「お——」

 「まあ!ひどい怪我だわ。肋骨が折れているわね……。でも、安心して。お姉様がすぐに治してあげるから。そこのお前、ラルトちゃんを部屋へ運びなさい」


 乱入者であるお姉様は騒めく周囲を無視して、近くにいた騎士団長を指名し命じた。


 「はっ」


 騎士団長は突然のことにも動じず、速やかに僕を抱きかかえ、先に歩き出したお姉様の後に続いて行く。


 こうして僕は、騎士団長に抱きかかえられながら訓練場を後にした。

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