初めての手合わせ(2)
訓練場の中央で、いつの間にか僕はお父様と向かい合っていた。
周りには切れ目なく騎士たちが並び、さながら闘技場の見せ物にでもなったような気分だ。
もちろん僕は、賭けが始まる前に行われる前座のやられ役だろう。
初入場、初試合で、実力ナンバーワンの猛者と戦うなんて理不尽は、そうでもなければ試合が面白く無くなるだけだ。
やられ役の僕ができることといえば、猛者の引き立て役をしつつ、ぜいぜい大怪我をしないように上手く受け身をとることぐらいかな。
稽古が始まってから一歩たりとも動いていないお父様相手に、僕は三度目の攻撃に出た。
真正面から駆け出し、勢いのまま飛び上がって、助走の勢いと全体重を乗せた一撃を叩き込む。
威力重視で捨て身にも近い攻撃だけど、僕が出せる攻撃の中で最大限に重い一撃だ。
これが通らなかったら、もう力ではどうしようも無いってことだよね。
少しでも押せれば——なんて、希望的な願いを込めた僕の渾身の一撃は、思い虚しく、前の二回と同様にお父様の軽い一振りで簡単に弾かれてしまった。
僕は、あまりの手応えのなさに一瞬呆けてしまい対応が遅れた。
急いで受け身を取ろうとしたが上手くいかず、飛び上がったままの浮いた体が方向感覚を失い着地に失敗し、僕は盛大に地面を転がった。
結局、僕はお父様を一歩も動かすことができないまま、五度目の挑戦にして一番不様な格好になってしまったのだ。
転がった先で、すぐ側に騎士たちがいるのが視界に入る。
地に伏せったままの背中に複数の視線を感じ、恐怖と羞恥心から、僕はすぐに顔を上げることができなかった。
まだ稽古を続けるのかな?
僕の実力がとっても低いのはもう分かっただろうし、お父様に剣を習う資格なんて今の僕には無い。
優秀な騎士たちを差し置いて、このまま僕が訓練場を独占し続けるのは良くないはず。
身体中が痛い。
その中でも特に胸の奥がズキズキと痛む。
僕は泣き出しそうになりながらも、必死に涙を堪えようと地に着いた両手を力一杯握った。
「立て」
低く冷淡なお父様の声に、体がビクリッと震える。
「いつまで休んでいるつもりだ。まだ稽古は終わっていないぞ」
僕は少しだけ顔を上げお父様を見た。
いつもは恐ろしく思っていた厳格な表情が、何故か今は怖いと感じない。
こんなに情けない僕に対して、笑ったりも蔑んだりもせず、いつもと変わらないお父様に、僕はなんでか安心しているみたいだ。
まだやれる。
何度だって立ち上がって、一歩でもお父様を動かすことができたら、剣士未満の僕には上等なんじゃ無いだろうか。
僕は立ち上がり、地に転がる剣を拾い上げ強く握った。
「お願いします!」
小細工なしに、僕はまた正面からお父様に挑む。
例え、僕がちょっとばかり頭を使って隙を使うとしたところで、お父様には通用しないだろう。
一切の隙も見せず剣を構えているお父様に向かって、僕は基本の打ち込みをするように剣を縦に振り下ろした。
きっとまた弾かれる。
それでも、何度でも打ち込めばいい。
僕の唯一の長所は、諦めの悪さなんだから。
剣の才能がないと言われ、一家のおちこぼれと言われ、それでもずっと剣を振ってきた。
いつか必ず夢が叶うと信じて。
「はぁぁっ!」
「っ!?」
今日一番でいい一撃だった。
流れるように真っ直ぐと振り下ろされた剣が、お父様の剣の中心を捉える。
キンッと刃同士が撃ち合う音が響き、衝撃で空気が揺れた。
父様の後ろ足が僅かに後ろへと滑る。
まさか僕にお父様を押すことができたなんて……。
嬉しさに気が緩んだ僕は、その後すぐに地面に倒れることになったのは、また次の話。
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