いざ、訓練場へ(3)

 騎士団長が来るや否や、門番二人は先ほどまでの砕けた空気はどこえやら、ビシッと背筋を伸ばし彼を出迎える。


 「まさか、このお方が誰か分からないとは言わんだろうな?」


 「も、もちろんです」

 「我らが主、ディルテス・ヴァントラーク閣下の末息子、アルト様であります」


 「わかっていながら何故すぐに道を開けんのだ」


 「申し訳ありません」

 「本日の来客名簿に名前がありませんでしたので」


 「城主の血族に、訪問への報告義務があるというのか?」


 「いいえ……」

 「我々の失態です……」


 「アルト様。この者たちにどのような罰を与えましょうか」


 「え!?」


 急に話を振られても困るんだけどなぁ。

 それも、結構重めな決定権付きだし……。


 先ほどまで割とフランクな感じだった双子を改めて見ると、小動物のような目で僕を見つめ、その瞳は助けを求めているように見える。

 別に、何か酷いことをされたわけじゃないし、罰なんて与えなくてもいいよね。


 「特に罰は要らな——」


 「晒し首にいたしましょう」

 「なんでっ!?」


 え? 今なんて?

 晒し首って言ったよね?

 僕を通さなかっただけで晒し首は、重すぎるでしょ!!


 「アルト様を愚弄することは、ヴァントラークを愚弄することと同義。命を持って償うのは当然のこと。同じことが起きぬよう、首を晒して置くのが良いかと」


 よくはない。

 というか、団長さんは僕を思ってではなくて、ヴァントラークを思って怒ってるんだね。

 団長だし、忠誠心が固いのは分かるけど、曲解すぎでは?


 二人が攻められている理由が自分じゃないと分かって、心に余裕が出てきた僕は、どこか他人事のように現場を見渡す。

 鬼の形相で門番を睨みつける団長と、青ざめ震える門番なんて、劇では中々ない設定だ。


 「お願いです!アルト様!!」

 「私たちにもう一度、生きるチャンスをください!!」


 劇みたいに見ているだけでいられたら良かったんだけど、現実はそうはいかないらしい。

 こうなっちゃうと、僕に縋り付いても意味ないんだよなぁ。

 団長の怒りの中心は、もう僕じゃないし。

 ああ、何にもできないまま、どんどん時間が過ぎてくよ……。


 「愚か者がっ! 己の罪を自覚し、潔く首を差し出せ。それが騎士たる者のあるべき姿だろう」


 剣を抜いた団長が、僕の横で門番に怒鳴りつける。


 「死にたくないです!」

 「下働きでもいいから生かしてください!」

 『お願いします!!』


 門番は僕の左右の足に一人ずつ泣きながらしがみつき、許してもらおうと必死だ。

 もう、なんなのさ……。


 「アルト様。この剣で罪人をお捌きください」


 団長が真剣な面持ちで、抜いた自身の愛刀を僕に差し出してくる。


 そう、結局最後は僕がやるんだね。

 だったら好きにやらせてもらうから。


 「いい加減にして!」


 僕はもう我慢の限界です。


 「門番二人!」

 『はいっ!!』

 「報連相は早くする! お客を待たせちゃダメでしょう!」

 『了解です!!』


 門番二人はこれでよし。

 次は——。


 「団長さん!」

 「なんでしょうか?」

 「今回は晒し首はしません」

 「そう言う訳には行きません。奴らは、ヴァントラークの名誉を——」

 「その「ヴァントラーク」がいいと言っているんです。時間がもったいないので、早くお父様の元へ案内してください」

 「……承知しました」


 団長さんも、なんとか勢いで押し切れた。


 よし、これでやっと、お父様の元に行くことができる。

 まだ納得してなさそうな騎士団長の背を押しながら、僕はようやく訓練場に入ることができた。

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