いざ、訓練場へ(2)

 門番の二人は、僕を見下ろしながら小声で相談を始めた。

 

 「ラルトって、確かに旦那様の三男の名前だよな。まさか本物か?」

 「そうかもな。団長が直々にお迎に上がって、昨日帰ってこられたらしいからな」

 「じゃあ、通した方がいいのか?」

 「いや。先輩から聞いた話だと、ラルト様は剣士の資格をお持ちではないらしい」

 「えっ!?まじか。「剣を振るえぬものに、訓練場へ入る資格なし」だよな。どうするんだよ……」

 「旦那様から何も言われてないしな。確認取るしかないだろう」

 「そうだな。頼んだ、レフ」

 「なんで俺が!? お前が行けよ、ライ」

 「思い出してみろ。お前は今朝、旦那様が来た時に、もっと近くでお話しできたらなーって言ってただろ。これはチャンスだぞ?」

 「それとこれとは話が違うだろ! 俺はもっと、こう、騎士的なだな」

 「来客の報告は門番を任された「騎士」としての、重要な「会話」じゃないか」

 「あ〜お前のそういうとこ腹立つ!」


 なかなか決着が着かなそうだなー。

 どんな話をしているのかはよく聞こえないけど、揉めてるのは確かだね。

 ダメならダメって言ってくれれば諦めがつくけど、そうじゃないなら、すぐにでも許可を取ってきて欲しい。

 もし、お父様が待っていてくれてるなら尚更ね。

 こうして揉めてる門番を見ている間に、お父様をお待たせしている時間が長くなっちゃうからさ。

 はぁ……。それもこれも、結局は寝坊した僕が悪いんだけど。


 「早くいってこいよ、ライ」

 「いやだ。自分で判断できないのかって、絶対怒られるし」

 「良くやったって褒められる可能性も——」

 「ない」

 「だな」

 『行きたくないなー』


 いま、行きたくないって聞こえたんですけど!?

 それって、もしかして、僕が来たことを伝えに行きたくないってことだよね?


 僕は、聞き間違えであって欲しいと思いながら、門番二人の様子をそっとうかがってみる。

 まず、門の右側に立つ門番さんは、僕と目が合うと不自然に目を逸らし、口笛を吹くマネをし始めた。

 この人は望み薄だね。

 次に、左側に立つ門番さんは……。

 目が合わない。

 どこか遠いところを真っ直ぐ見たまま、絶対にこっちを見ないとする、確固たる意思を感じる。

 この人は絶対にここから離れたくないみたいだ。


 こうなったら一か八か、不意をついて押し通ってみる?

 それがもし成功したとして、この二人は僕を追いかけてくるだろう。

 門番に追われながら現れた僕を、訓練中の騎士たちはどう見るだろうか。

 完全に侵入者扱いされるよね。

 事が大きくなって、お父様に怒られそうだなぁ。

 でも、このままお父様に会いにいけなかったら、もっと大変なことになる気がするし……。


 これ以上いい案が浮かばず、八方塞がりでしばらく頭を抱えていると、門の向こう側から身に覚えのある騎士が、こちらに向かってやってきた。


 「お前たち、何をしているんだ」


 後ろから来た騎士の声に、門番二人が慌てて振り返る。


 『団長!お疲れ様です!!』


 門の向こうからやってきたのは、僕を屋敷へと送ってくれた騎士だった。

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