いざ、訓練場へ

 翌朝、眩しい朝日が差し込む窓辺を見て、僕は飛び上がった。


 「寝坊だ!」


 早起きは得意中の得意だったのに。

 時々夜更かしるすことはあっても、朝はちゃんと起きられてたのに。

 今日に限って寝坊するなんてあんまりじゃないか。


 「いつもよりも早く寝たのになぁ……」


 昨日は、お父様との食事で緊張していたせいか、部屋に着いたら気が緩んで、そのまま寝てしまった。

 だから、睡眠時間は十分取れてて、体の調子は抜群……のはずなんだけど。

 さっきから心臓がバクバク鳴りっぱなしなのは、元気でどうにかできるものじゃないんだよね。


 「グズグズしてられないぞ。早く訓練場に向かわないと!」


 昨日お父様に声をかけてもらって、僕は初めて訓練場に入る許可が降りた。

 それだけでも驚いたけど、それに加えて、お父様に稽古をつけてもらえるらしい。

 お父様から直に指導をしてもらえる人は騎士団中でも限られているのに、まだ剣士にも満たない僕が相手をしてもらえるなんて、夢にも思わなかったよ。


 そんな夢以上の日に寝坊なんて。

 これが夢ならどれだけいいか。


 長い廊下を、ギリギリ走ってないぐらいの速さで通り抜け、屋敷の裏側にある訓練場に向かう。

 近づくにつれ聞こえてくる騎士たちの掛け声が、僕の寝坊をほぼ確定から確定に決定づけた。


 「やっぱり訓練始まってるよね……」


 僕は、訓練場の前で歩く速度を落とし、行く先を迷うようにフラフラと歩く。

 少しずつ近づいていけば、固く閉ざされた訓練場の入り口を見張っている門番と目が合った。


 「お、おはようございますっ」


 見習い騎士の制服に身を包んだ二人は、訝しそうに僕を見下ろしている。

 あれ? お父様から話とか聞いてないのかな?

 いや、もしかしたら、僕が誰なのか分からないのかも。

 最近はこの邸で殆ど暮らしてないし、騎士団と接触する機会なんてもっと少ないもんね。


 

 よし、とりあえず名前を伝えてみよう。


 「ヴァントラーク家が三男、ラルトです。遅れてしまい申し訳ありませんが、中に入れてもらえませんか」


 『……』


 ……うん。

 これはダメだね。

 お父様からは絶対に話はいってなさそうだ。


 んー、どうすればいいんだろう。

 何も知らない門番たちが、案内も連れずにやってきた僕を不審に思っても仕方がない。

 せめて、訓練が始まる前に来ていれば、場内に入る騎士たちからお父様に口利きしてもらうこともできただろうに。

 こうなったら、なんとかして門番を説得しないと。


 基本的に門番は、予定の来客以外は自身の判断で通すことができない。

 でもその反面、自身が招かれざる者だと判断した場合、上への報告なしに追い返すことができる。

 

 僕が予定の来客ではない以上、招かれざる者認定だけはされないようにしないと。

 さあ、名前は名乗ったぞ!

 身元確認どんとこいだ!!

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