辺境伯邸(3)
空に星が輝き始める頃、夕食のテーブルに招待された僕とサンディウスは、フランツに案内され食堂へ向かった。
家族でさえも滅多に食卓を囲まないお父様が、客人を、それも目上の貴族以外の相手を食事に誘うなんて、普段なら絶対にありない高待遇だ。
両開きのドアの前には給仕係の使用人が二人いて、僕たちが来たのに合わせてドアを開けてくれる。
フランツが部屋に入って行き、僕もそれに続いた。
部屋の真ん中に置かれた縦長のテーブルは、二十人が一度に食事をしてもまだ十分に余裕がありそうなほど広いけど、今までそんなに人が座っているのを見たことが無い。
僕が知ってる中で一番多かったのは、たぶん五人だったと思う。
お父様は年に数回しかここで食事をとらない、お兄様たちもわざわざ主人のいない食堂に来ようとはしない。
お父様も、お兄様も、家族団欒って性格の人たちじゃないもんね。
どっちかって言うと、自分の食べたいときに食べたいものを食べるタイプなんだよな。
僕に至っては普段この邸にすら居ないから、食堂に来るのは実に一年ぶりになる。
長いテーブルに比例して奥行きのある部屋をゆっくりと奥へ進んでいくと、上座に座っているお父様が食前酒を口にしているのが見えた。
お父様はあまりお酒を飲まないはずだ。
仕事の付き合いや、騎士団が活躍した時など、お父様がお酒を飲むのはどうしても時だけ。
それなのに、どうして今日はお酒を飲んでいるんだろう。
酒豪のじいちゃんがどんなに勧めても、いつも絶対の飲まないのに。
「どうぞこちらに」
ぼんやりと考えながら、引かれた椅子にお礼を言って座る。
僕の左隣にサンディウスが腰を掛けた。
僕らが席に着くと、順番に料理が運ばれてくる。
その様子を目で追っていくと、初めにお皿が運ばれた場所があまりに近くて、ドキリと心臓が跳ねた。
僕から見て右側、椅子一つ分空いた先。
お父様の席が思ってたより近いぞ……。
「では、頂こうか」
お父様の声がすぐ隣で聞こえ、反射的に肩が跳ねる。
「い、いただきます」
なんとか声を絞り出して挨拶をするけど、とても食事どころじゃない。
緊張でお腹いっぱいぱいだよ……。
すぐ隣にお父様がいると思うと、顔も上げられなくて、前屈みでひたすら出されたものを口に運ぶ。
挨拶の後は会話もなく、静まり返った食堂に食事をする音だけがする。
じいちゃんの家ではワイワイと話ながら食事をしていたサンディウスも、今日は無言だ。
横目でチラリと様子を伺うと、テーブルマナーをどこかで習ったのか、すごく綺麗な食べ方だった。
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