辺境伯邸(2)
広い書斎の最奥、大きなデスクの真ん中で腕を組み、心臓を射抜かんとばかりの威圧的なお父様の視線に、僕は奮い立たせた勇気を早くも失いそうになっていた。
「旦那様、ラルト様をお連れいたしました」
案内役を終えたクラウスが部屋の横へと退避すれば、僕とお父様の間にはデスクだけになる。
どうしよう……、緊張で体がガチガチだよ。
お父様の容赦のない視線に、僕の弱気な心の中を見透かされていると思うと、無駄に肩の力が入ってしまう。
「見ない顔がいるようだが」
お父様の重厚感のある低い声が書斎に響いた。
お父様は僕からは目を逸らさず、斜め後ろにいるサンディウスを見ている。
そうだ、お父様にサンディウスのことを紹介しないといけないよね。
と、頭ではそう思っているのに、震える僕の口は思うように開いてくれない。
お父様とバッチリ合ってしまった目を今更逸らすこともできず、僕は口の震えを止めるために、キュッと唇を強めに噛んだ。
「ラルト様のご友人、サンディウス殿でございます」
サンディウスより更に後ろに控えていた騎士団長が、もたついている僕の代わりに、サンディウスを紹介してくれる。
お父様は、組んでいた腕を解き椅子に背中を預けると、目を閉じ静かに息を吐いた。
「そうか」
再び目を開けたお父様は、初めて会うサンディウスを観察し始める。
騎士として相手の力量を測っているのか、辺境伯として相手の人柄を見ているのか。
見られているサンディウスは、あんまり気分はよくなと思う。
でも、その視線にサンディウスは緊張することもなく、堂々としている。
サンディウスもお父様がどんな人か見ているのかな。
誰一人話さない時間が続くこと1分。
ようやくお父様が口を開いた。
「私はヴァントラーク領の主、ディルテス・ヴァントラークだ。サンディウス殿、そなたが我愚息の友人とは真か」
「はい。つい先日、ラルト様の友人にしていただきました」
お父様の問いに、サンディウスはスラスラと答えていく。
「あれは一日中、人通りの無い森の中で過ごしていると聞いたが。どのように出会ったのだ」
「私が森から出られなくなってしまっていたところを、ラルト様に助けていただきました」
「そなたのような方が、あの森で迷われたと?」
「ええ、そうですね」
お父様はしばらく考え込んで、長く息を吐いた。
「……分かった。サンディウス殿、今後も愚息と良くしてやって欲しい」
「頼まれなくともそのつもりです」
お父様は何故か疲れた表情を浮かべているのに対し、サンディウスはいい笑顔。
お父様はひょっとして、僕にこんなすごい友人ができたことが不満なのかな?
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