帰郷(3)


 野営の準備が終わる頃には、もうすっかり日が傾き、辺りは薄暗くなっていた。

 訓練されたお父様の騎士たちは手際よく準備を終え、もう夕食の準備に取り掛かっている。

 それに比べて僕は、今さっきテントを張り終わったばかりだった。


 「ごめんね、サンディウス。僕のせいで余計に時間かかっちゃったよね」


 ヘトヘトな僕の横で、涼しい顔をしたサンディウスが爽やかな笑顔を返してくれる。

 同じことをしてたのに、この差はなんなのさ。

 単に体力にさがあるだけかな?

 んー、だとしても、キラキラしすぎてるような……。

 騎士のみんなだって、まだまだ余裕そうだけど、キラキラはしてないもんね。


 馬車での疲れもぶり返し、立っているのもやっとな僕を、サンディウスが自然な流れで支えてくれる。


 あっ、この紳士的な行動こそ、キラキラの正体かも。

 強くて、かっこよくて、素敵な、童話の中に出てくる完璧な騎士様。


 「初めての野営でこんなに早く準備を終えられるとは、流石アルト様ですね」


 「でも、みんなはとっくに準備できてるし、本当だったらご飯の準備もしなくちゃいけないのに」


 僕が一番先に準備を始めたのに、テントが完成したのは一番最後だった。

 じいちゃんに褒めてもらえてたから、ちゃんとできると思ったのになぁ。

 時折練習もしてたし、自信あったのに。

 こんなにも実力差を見せつけられるなんて、心折れそうだよ。

 

 「何か食べたいものがおありですか?可能な限りで用意致します」

 「いや、そういうことじゃなくて。僕もみんなと一緒に作らないといけなかったんだよ」

 「アルト様が気に病む必要はありませんよ。本来ならば、ただ座って場が整うのを待っているだけで良いのですから」

 「そう言うわけにはいかないよ。僕だって騎士見習いだし、お客さんじゃないんだから」

 「確かに、ラルト様はお客様ではありません。ご主人様ですから」

 「僕は……」


 出来損ないなんだ……。


 親しみのこもった笑みで僕を見つめるサンディウスに、僕は何も言えなかった。

 僕が弱音を吐けば、サンディウスはきっと暖かい言葉をかけてくれるだろう。

 そして、弱いままの僕を、それでもいいと肯定してくれる。

 でも、それじゃダメなんだ。


 「僕がやりたいんだ。みんなと同じことができるようになりたいんだよ」


 今は無理でも、いつかきっと、憧れの騎士になりたいから。

 そのために、僕はがむしゃらに頑張るしかないんだ。


 「私も微力ながらお手伝い致します」

 「ありがとう、サンディウス」


 少し離れたところから、僕らを呼ぶ声が聞こえる。

 夕食ができたみたいだ。


 「今日のご飯はなんだろうね」

 「この香りは……、キノコと猪のスープでしょうか」


 それって、じいちゃんに教えてもらった騎士団伝統料理の一つだよ。

 猪の独特な味と匂いだけど、それがクセになる。

 キノコの出汁とも相性バッチリなんだよね。


 「言われてみれば、そんな匂いがしてきた」


 お腹ペコペコの僕は、サンディウスの手を引いて、賑わう夕食の輪に飛び込んだ。

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