帰郷(2)

 あれから馬車中で大きな揉め事はなく、日が暮れ始める頃には一日目の野営地に辿り着いた。

 うぅ……、激しい揺れでダメージを受けた腰とお尻が痛くて、立ち上がるのもやっとだよ。

 僕は手すりや壁を使って、なんとか馬車から降りた。

 

 「ラルト様、無理なさらずに、少しお休みになられてからでも」

 「ううん。日が暮れる前に野営の準備をしないと」

 

 僕は、サンディウスが差し出してくれた手を掴み、なるべく体重をかけないようにしながら、ゆっくりと歩く。

 せっかく日暮前についたのに、僕のせいで野営の準備が遅れるのは嫌だ。

 体はちょっときついけど、これも訓練だと思えば、むしろ丁度いいとさえ思えるよ。

 騎士になれば、激しい戦で疲弊している最中、野営をすることなんて多々あるだろうしね。

 僕にとって、まさに今がその時なんだ。


 「もしお疲れでしたら、私どもがお二人の野営の準備を致しますが」


 僕が相当辛そうに見えたのか、騎士さんが気を利かせてくれている。

 でも、僕は自分で準備したいかな。

 今ここでしかできな経験とか、大切にしたいからね。


 「えーと——」

 「結構です。私たちの安全を、信用の無い相手に任せたくありませんから」


 なんってこと言うのっ、サンディウス!

 断るにしても、あんなにスパッと切り捨てちゃうのは申し訳ないでしょ。

 ああ、僕がちゃんとフォローしないと。


 「ありがたいけど、自分でできるから大丈夫だよ。誰かに頼ってばかりだと申し訳ないし。できることは自分でやらなくちゃ」


 テント張りは騎士の基本技能だ。

 騎士は遠征も多く、野営の術を覚えるのは当然のこと。

 もちろん僕もしっかりマスターしている。

 他にも僕は、剣を磨いたり、火を起こしたり、食事を作ったり、と野営で必要なことはじいちゃんに教えてもらったから一通りできるんだよね。


 「差し出がましい真似をいたしました。申し訳ありません」

 「ううん、ありがとう」


 この二人は、どうやら犬猿の仲らしい。

 隣で騎士さんを睨むサンディウスを抑えながら、騎士さんにお礼を言ってと、いろいろ気を遣っていたら、お尻の痛みがどこかへ吹き飛んじゃったよ。

 

 「この辺りにしようか」


 馬車からそれほど遠くないところで、見通しのいい場所を見つけ、僕は立ち止まった。


 「周囲を警戒しやすく、良い場所だと思います」


 サンディウスも賛同してくれたし、ここでいいかな。

 騎士さんも物申してこないってことは、特に反対はないみたいだね。

 場所も決まり、僕たちはすぐに野営の準備を始めた。

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