突然の呼び出し(2)
午後の鍛錬も終わって家に帰ると、騎士団の正装に身を包んだ人の後ろ姿が見えた。
赤い団服と腕章に描かれた狼の刺繍。
あの服装はお父様の騎士団の制服だよね……。
僕は去っていく人の背を呆然と眺めながら、しばらく会っていないお父様のことを思い出す。
僕の家は代々王国騎士を輩出している名門の騎士家。
お父様は王国の剣士で十位に入る実力者なんだ。
それに加えて騎士家では珍しい辺境伯でもある。
初めは騎士だったひいひいひいお祖父ちゃんが、隣国との戦いの勝利に大きく貢献た功績が認められて、当時の国王陛下から今の爵位を頂いたらしい。
お父様は五年前まで王国第二騎士団で副団長を任されていたけど、じいちゃんが辺境伯を引退して、今はお父様が領地に戻って爵位を継いでいる。
ちなみに、一番上のお兄様は皇太子殿下の護衛騎士で、二番目のお兄様は第三騎士団に所属している。
こんなサラブレッド騎士一家で生まれたのにも関わらず、僕が剣士試験にも受からないことに腹を立てたお父様は、僕にじいちゃんのいる田舎へ行くように言った。
あれから三年。
未だに剣士試験に合格できない僕を、お父様はどう思っているんだろうか。
知るのが怖いなぁ……。
「先ほど去ってった方は騎士のように見えましたが」
「あの人は、たぶんお父様の騎士団の人だよ」
「そうですか。何の用だったのでしょうか」
「さあ?僕にも分からないから、じいちゃんに聞いてみよう」
何となく立ち止まってたけど、家まで目と鼻の先。
僕が小走りで駆けて行くと、サンディウスも後に続いてくれる。
少しせっかちにドアを開ければ、カランとベルが大きめに鳴った。
僕は気にせず家に入り、台所から出てきたじいちゃんに詰め寄る。
「さっき、お父様の騎士が来たよね?」
じいちゃんは一瞬だけ驚いた顔をしたけど、すぐにいつもの表情に戻った。
「ああ、来ていたな」
「何の用事だったの?」
「年に数回ある生存確認みたいなものだ。ワシがまだ元気かどうか見に来ただけじゃよ」
じいちゃんは戯けたように笑っているけど、本当はそんなことで来たんじゃないことくらい、僕は知ってるんだから。
お父様の騎士が来た本当の理由は……僕、だよね。
「ほれ、ラルト。早く体を綺麗にしてきなさい。夕飯が冷めてしまうぞ」
「それは大変だ!お風呂に行ってきまーす」
「家の中で走るんじゃない!はぁ、いつまで経っても心配が尽きぬわ」
「私もラルト様の背中を流しに行ってきます」
「ああ、しっかり面倒見てやってくれ」
「はい。ラルト様の体を隅から隅まで拝見できるチャンスを無駄には致しません!」
「あの主人にこの従者ありじゃな」
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