穏やかな日常(3)
机に並べられたシチューとパンを三人で囲んで、お待ちかねの夕食の時間だ。
「いただきまーす」
もうお腹がペコペコだった僕は、じいちゃんが先に着くや否や、パンを手に持ちシチューにつけた。
ふかふかのパンに熱々のシチューが染み込んで少し重たくなったら、フーフーしてからゆっくりと口に入れる。
「んん〜〜。沁みる〜」
温かいパンとシチューの優しい甘さが、冷えた体にじんわりと沁み渡り、全身がほっこりと温まった。
次にスプーンで具を掬ったら、大きな口を開けてかぶりつく。
じっくり煮込まれた具は大きめなのに柔らかくて食べやすい。
僕はパンと具を交互に食べ、最後にお皿についていたのはパンで掬い取って、綺麗に完食した。
「アルト、腹は膨れたか?」
「うん!お腹いっぱいだよ」
僕が笑顔で答えると、じいちゃんは改まった表情を浮かべる。
これから真面目な話が始まりそうな予感に、ぐっと背筋を伸ばす。
「なら、サンディウス殿について話をしようか」
じいちゃんはサンディウスのことがもっと知りたいみたいだ。
でも、僕だって今日会ったばかりで、知っていることは少ない。
「うん。って言っても、僕はサンディウスのこと、まだよくわからないよ」
「じゃろうな。なら、ワシから話をしよう」
あれ?じいちゃんが僕に教えてくれるの?
「じいちゃんはサンディウスと知り合いなの?」
「いいや。会ったのは今日が初めてじゃ。だが、彼はとても有名な方なんじゃよ」
サンディウスが有名人?
僕は名前すら聞いたことなかったけど……。
「そのせいで、サンディウス殿は普通に生活していると、厄介ごとに巻き込まれてしまう。だから、姿を変えてもらったのじゃ」
ふむ。見た目を変えたのは、じいちゃんの嫉妬じゃなかったんだね。
サンディウスが有名過ぎて、そのままの姿だと大変だからってことか。
確かに、サンディウスは綺麗すぎて目立つし、魔法も使えて、おまけに腕も立つ。
人気にならない方が無理だよ。
でも僕は、今日出会うまでサンディウスのこと全然知らなかった。
それにサンディウスは、国の最南にある海岸から来たって言ってたよね。
王都まで知れ渡るような有名人なら、僕だって名前くらい聞いていてもおかしくないと思うけどな。
サンディウスって、一体何者なんだろう。気になる。
「サンディウスは何で有名になったの?」
「それは……、顔、ですかね」
「顔?」
「そうじゃ。アルトも見て分かったと思うが、サンディウス殿は誰もが羨む美貌の持ち主。世界一の美男子の名を、欲しいがままにしておるのじゃ!」
じいちゃんが、こんなに生き生き叫んでいるのを初めて見たよ。
そうか。やっぱり顔なんだ……。
チラリとサンディウスを見ると、少し落ち込んだ様子で俯いていた。
あー、僕が知らなかったせいで落ち込んでるんだ。
「ごめんね、サンディウス。僕、剣の訓練ばっかりで、その……、あんまり街の噂には詳しくなかったみたい。でも、実際に会ってみて納得だよ。サンディウスより綺麗な人なんてみたことないもん。さすが、世界一の美男子だね」
「……ありがとうございます」
落ち込んだままのサンディウスは、何故かじいちゃんを睨んでいる。
なんか二人に申し訳なかったな。
今度からは剣ばっかりじゃなくて、ちゃんと街のことも気にしないとだね。
すっかり気まずくなった空気から逃げるように、僕は二人におやすみを告げて席を外した。
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