穏やかな日常(2)

 二人で親睦を深めると言い残し、じいちゃんはサンディウスを連れて家の裏手へ行ってしまった。

 こっそり二人の様子を見に行こうと思ったけど、じいちゃんにバレたら怖いから、大人しく家の中で待つことにする。

 とりあえず椅子に座ると、キッチンに広がる、じっくり煮込まれたミルクの匂いにお腹がなった。

 

 「今日の夕ご飯はシチューか〜」


 寒い冬にはピッタリだね。

 パンは柔らかい大きいのがいいかな。

 シチューにつけると美味しいんだ。

 でも、少し高いから、村ではちょっとした贅沢品なんだよね。


 僕が今晩のメニューに夢を膨らませていると、じちゃんとサンディウスが家に入ってきた。


 「アルトよ。腹も減ってるだろうに、待たせてすまぬの」

 「ううん。全然——えっ!?」


 僕の頭を撫でるじいちゃんの横にいるのって……サンディウス?

 顔立ちの良さは間違いなくサンディウスなんだけど、髪の色が全然違った。

 銀髪から茶髪へと変わっている。

 よく見ると、目の色も髪と同じ茶色になっていた。


 「サンディウス?」


 僕は控えめに名前を呼ぶ。

 もしかしたら名前も変わっているかもしれないし……。


 「はい。突然見た目が変わり、驚かせてしまいましたね」


 サンディウスが前と同じ笑顔で微笑んでいる。

 よかった。全くの別人だったらどうしようかと思ったよ。

 魔法で姿を変えたんだと思うけど、何でそんなことしたのかな?


 「サンディウス殿、夕飯を用意しますから掛けてお待ちくだされ」

 「ルドルフ殿、お気遣いありがとうございます」


 じいちゃんに勧められ、サンディウスが僕の隣の席に腰掛けた。

 夕飯の準備をしに台所へ行ったじいちゃんを見送り、次に僕はサンディウスの方を見る。

 何でか、サンディウスも僕の方を見ていて、ちょっとびっくりした。


 「何で見た目を変えたの?」

 「ルドルフ殿から助言をいただきまして」


 じいちゃんに何か言われたってことだよね。

 人の見た目にどうこう言う人じゃないはずだけど……。

 あっ。もしかしたら、僕は気が付かなかったけど、じいちゃんはサンディウスが魔法で姿を変えていることが分かったのかも。

 きっと、僕がそのことを知らないだろうと思って教えてくれたんだ。


 「今が本当の姿なの?」


 僕が確信を持って問いかけると、サンディウスはニッコリと笑みを深くして、違いますとハッキリ答えた。


 「出会った時の私が本当の私です。今の方が変装ですよ」

 「何で変装なんてするのさ」

 「先はどの姿では目立ってしまうそうで。そうなることをルドルフ殿は避けたいようです」

 「じいちゃんが、サンディウスに嫉妬したってこと!?そんなことが起こるなんて……」


 確かに、じいちゃんは村で一目置かれる存在だけど、容姿でいったら当然サンディウスの方がカッコいい。

 お姉さん達はもちろんのこと、おばあちゃん達も見惚れる美青年だ。

 まさか、じいちゃんがそんなことを気にしてたなんて。

 僕はじいちゃんの名誉を守るために、このことについて絶対に知らないふりをしようと心に誓った。

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