村外れの森(3)

 さて、肝心の声の主はどこにいるんだろう。

 吹き抜けになっているこの場所に死角なんかないはずなのに、全然姿が見えないよ。

 もしかして、ここに咲いてるお花のどれかだったり……。


 「わっ!なにコレ!?」


 急に花びらが舞い上がって、前が見えない!

 本当にお花の魔物だったの?

 だとしたら、今って大ピンチなんじゃないのかな?


 目の前の花吹雪に目を開けていることができなくて、状況の把握もままならない。

 片腕で顔を庇いながらなんとか薄目を開けられたけど、隙間なく舞う花びらで、花以外のものが全く見えなかった。

 身動きが取れないままじっと固まっていると、次第に風がおさまり、辺りがさっと静まり返る。

 僕は警戒しながら、ゆっくりと目を開けた。 


 「初めまして、我が主」


 僕の目の前には、今までに見たことがないほどの綺麗な男の人が立っていた。

 さらりと風に揺れる髪は、日の光に照らされ金色に輝いている。

 でも毛先をよく見ると、月光の元の白銀と同じ色にも見えた。

 たぶん銀髪かな。

 光の当たり方で金色に見えたりするのかも。 

 髪が触れる肌は絹織物のように白く滑らかで、日焼けの跡なんて少しもない。

 女神像みたいに整った顔立ちをしてるから、街を歩くだけで人だかりができそうだね。

 体は細身だけど、鍛えてるみたいで立ち姿に一切隙がない。


 声がイケメンのお兄さんだったってことは分かったけど、なんで僕に会いたがってたのかさっぱりだよ。

 それに『主』ってなに?

 人違いで呼ばれたんだったら気まずいよね。


 「初めまして、えっと……」

 「サンディウスと申します」


 サンディウスさんか。

 聞いたことない名前だ。


 「初めまして、サンディウスさん。僕はラルトです」


 僕が握手をしようと差し出した手を、サンディウスさんが両手で握り返してくれる。


 「サンディウスで結構です。敬語も入りませんので気軽にどうぞ」


 サンディウスはいい服を着てるし、話し方も丁寧だから身分が高そうだけど、フランクな人みたいだね。


 「うん、わかった。サンディウスも普通でいいからね」

 「私は今のままの方が話しやすいので、このままで」


 やっぱり、サンディウスは高貴な身分かもしれなね。

 貴族の人は小さい時から話し方を習うから、いつも綺麗な言葉を使うんだよね。

 それと、生まれ持った気品っていうのかな。

 サンディウスは立ってるだけでも絵になるよ。


 

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