いつもの朝

 眩しい朝日が窓から部屋に注ぎ込む。

 森に住む鳥たちの鳴き声が聞こえ、僕は目を覚ました。


 「ん〜〜。朝だ……」


 重たい瞼を擦りながら、顔を洗う水を汲みに井戸に向かうため外に出る。

 太陽が登ったばかりの外の空気は、ひんやりしていて心地いい。

 家の裏手にある井戸にたどり着いたら、早速、桶を井戸へと放り込んだ。

 バジャンと水の音がして、少ししたらロープで桶を引き上げる。

 水が入った桶は少し重たい。

 僕はのそのそとロープを引いて、上がってきた桶を水をこぼさないよう慎重にたぐり寄せた。


 「ふー。寝起きでこの重労働は大変だよ。これって、一日で一番最初の修行かも」

 

 井戸から汲んだばかりの水をすくおうと手を入れる。


 「冷たいっ!」


 井戸水は思ったより冷たかった。


 「なんで井戸の水って夏でも冷たいのかな」


 季節によって少しばかり違いはあるけど、夏場でも野菜を冷やすのにも使えるくらい冷たい。

 冬場は反対に凍らないから不思議。だから暖かいのかと思いきや、寒空の下で水を被れば当たり前に冷たい。


 結局、井戸水の冷たさは我慢するしかないんだよね。

 僕は覚悟を決めて顔に水をかけた。

 水の冷たさで一気に目が覚める。

 服の裾で顔を拭いて、身支度をするために家の中に戻った。


 「おはよう、ラルト。今日も早起きだな」


 家に入ると朝ごはんの匂いと共に、じいちゃんが出迎えてくれた。


 「おはよう、じいちゃん」


 「顔を洗ってきたのか。ああ、また服をずぶ濡れにさせよって。拭くものをもていくように、いつも言っているだろう」


 「うぅ……。ごめんなさい」


 「まあ、よい。風邪を引く前に気がてきないさい」


 「はーい」


 じいちゃんは怒ると怖いけど、いつも優しくて自慢のじいちゃんなんだ。

 だって、じいちゃんは王立騎士の団長を務めたこともある、すごい剣士なんだよ。今は引退して田舎暮らしをしてるけど、僕に剣術を教えてくれる時のじいちゃんは、すごい強くってカッコいいんだ。


 「さてと。今日も森に行くから、動きやすい格好がいいよね」


 僕の服はそんなに多くないけど、一応、街に出かける時の少し綺麗な服と、森で特訓するための動きやすい服の二種類がある。

 分けてるのは、急に街に用事ができた時にボロボロの服で行くのが、少し恥ずかしいから。

 前に訓練終わりにそのまま街に行った時は、街の人に嫌そうな顔されたからね。


「そろそろ新しいのを買ったほうが良さそうだね……」


 お出かけ用の服もそろそろ古くなってきたし新しいのを買って、今あるのは訓練用に手直ししようっと。


 とりあえず、今日は訓練用の少しくたびれた服を着て、僕はじいちゃんの待つ台所へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る