剣士になれない僕が勇者になった物語

四藤 奏人

プロローグ

 一番星が流れ星となって地上に降る夜。最も尊い光を失った空は嘆き、深き闇を生んだ。

 闇が地上へ降り立ち行進を始めると、その軌跡は色を失った。

 広がる闇に人々はなす術も無く、世界は黒く染まっていくばかり。

 だが、恐れる必要はない。

 最も尊い光もまた、この地に降り立っているのだから。

 闇来たる時、星の残滓を探せ。

 そのカケラが闇を祓う唯一の光とならん。

 —神託「星の導き」—



 百年に一度、星の神の力が弱まり夜がは深い闇に染まる。

 深い闇から魔が生まれ、止めどなく溢れる魔は王を生み出し地上を闇へと染めていった。

 魔の王の圧倒的な力になす術もなく、人々が絶望し諦めかけたその時。

 光輝く勇者が人々の前に姿を現した。勇者が星の力が宿し剣を振ると闇は祓われ、色を失った大地は次々と元の鮮やかさを取り戻していく。

 勇者は瞬く間に地上の全ての闇を祓い、ついには、輝く剣で魔の王の心臓を貫き討ち果たした。

 こうして世界は、今一度の平和を取り戻したのだった。

 —絵本:星の勇者 出版:大聖堂—


 

 「お母様、もう一回!」

 「ふふっ。もう、何回目かしら。あなたは、勇者様のお話が大好きなのね」

 「うん!僕、大きくなったら勇者様みたいになる!」

 「そうね。あなたなら、きっとなれるわ。だって、お父様の子なんですから」


 優しい母のてが、まだ小さい息子の柔らかな髪を優しく撫でる。

 嬉しそうに目を細め、息子は母の腕に抱きついた。


 「お母様、勇者様のお話して〜」

 「はいはい。じゃあ、勇者様が星と出会ったところから——」


 

 古い言い伝えは何千年も昔から語り継がれ、今なお色褪せることなく続いている。

 かの伝承は百年に一度の周期で現実となるのだ。

 幼少期に“勇者の物語”として絵本を読み聞かされた人々は、当然のように伝承を知っていた。

 そして、時がくれば、勇者の物語がただの童話ではないと知る。


 前回の魔王討伐から百年が経った。

 再び流れ星の夜が訪れて、はや半月。

 世界では各国が総出を上げて、魔王に対抗し得る唯一の希望である“聖剣“を探していた。

 だが、未だに聖剣は見つからず。

 世界には刻々と闇が広がっている。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る