第11話 思いがけないプレゼント
アデリーナが部屋から去ると、ずっとイエナの膝の上にいたラテが顔を上に向けた。侍女たちは、アデリーナとイエナに用意されていた茶器などを片付けている。
「にゃぁあ? 【一途ってなあに?】」
「え? 一途? そうね、この場合は、一人の人をひたむきに好きだということかしら。ユーリ様は、クララが好きで好きで仕方がないってことだと思うわ」
「にゃにゃ!? 【え!? どうして!? イエナの夫なのに? イエナを好きじゃないの?】」
「ほら、ユーリ様は、ついこの間までクララの婚約者だったでしょう。簡単に私に心変わりなんて、できるものではないのよ」
「に゛ゃぁぁあああ!! 【イエナの夫なのに! ボク、クララ嫌い! クララを好きなユーリも嫌い!】」
ガシャガシャッ!
「ああ! 危ないわ!」
「も、申し訳ありません!」
イエナは大きい音に驚いた。侍女が片付けようとしていた茶器を落とそうとしたところで、それをもう一人の侍女が危ないところで支えたようだった。
「だ、大丈夫? 怪我はない? お茶がかかったりしていない?」
イエナは立って侍女に近づいた。茶器は落としていないので割れていないが、余ったお茶が体にかかりでもしたら、火傷してしまうから心配だった。
「ご心配おかけし、申し訳ありません。大丈夫です。お茶はかかっていません」
「そう?」
「で、ですが、そのう……さきほどの会話が聞こえてしまいまして。猫様とのお話が……」
「あら? もしかして、ラテの念話って、聞こえていたりする?」
「い、いえ、念話は聞こえません。にゃにゃっていう、可愛い鳴き声は聞こえるのですが、それではなく、妃殿下のお話の方で」
「私の話?」
ああ、一途についての話かな?
「ユーリ様がクララに一途っていうことよね。大丈夫、アデリーナ様に助言は頂いたし、気にしないことにするわ」
「いえ、そうではなく! 少し間違っているような気が――」
その時、部屋に訪問者がやってきた。侍女との話は一時中断する。
やってきたのは、ユーリ付きの侍従であった。アデリーナに指示されて来たようだった。アデリーナが言っていた、ユーリがイエナのために用意したものを見せてくれるらしい。
ラテを手に抱き、イエナは侍従の案内により、王宮を案内され、連れて行ってもらった先にあったものは。
「こ、これは! 植物園!」
広い温室に、植物の入った植木鉢がたくさん用意されていた。見た目に綺麗な薔薇などの花、薬草、背丈の高くない木など、一貫性はないが、たくさんの種類がある。
「ユーリ殿下が、一年ほど前から少しずつ準備されておりました。ただ、王宮には植物に詳しい者がおらず、庭師による管理ですので、至らぬ点がございましたら、申し訳ありません」
「も、もしかして、これ、全部、私が頂けるのでしょうか」
「はい。妃殿下に好きになさってもらおうと、ユーリ殿下はおっしゃっていました。好きなだけ植物は増やしていただいて構いません。もし足りないようでしたら、王宮の裏に使っていない庭がありますので、そちらも使用してよいと」
「えぇぇぇぇ……」
どうしよう。嬉しすぎて、小躍りしたい。
「妃殿下、もう一つ、ご案内差し上げてもよろしいでしょうか」
「あ、はい」
侍従に案内され、温室から出て隣接された部屋へ案内された。そこには、何やら、薬作りができそうな機器が揃っていた。
「妃殿下は薬作りが趣味とお聞きしましたので、こちらもユーリ殿下がご用意なされました」
「すごい……」
確かにユーリは、イエナが薬を手作りしていることを知っている。昔、薬をユーリにあげたことがあるのだ。
「薬を抽出する機材に詳しくなく、手あたり次第用意致しましたが、足りていますでしょうか?」
「十分すぎます……。ありがとうございます」
「お礼は、どうかユーリ殿下に」
「もちろんです」
何ていう好待遇。ちょっと興奮し過ぎて、落ち着かない。
「しばらく、植物園とこの部屋にいてもいいですか?」
「お好きなだけ、いていただいて構いません。ここは妃殿下のものですから」
一礼して去ろうとした侍従に、はっとしたイエナは声を掛けた。
「そういえば、ユーリ様は、一年前から植物園を準備したと言っていましたよね?」
「はい、さようでございます」
一年前? まだイエナがユーリの婚約者ではなかった時だ。ということは、きっと植物園はクララのために用意したのだろう。花もあったし、クララが花に興味があるとは思えないが、もしかしたら、自分用の庭園が欲しいとでも、クララが強請ったのかもしれない。ただ、イエナが婚約者になってしまったので、急遽、薬草や薬を作る部屋を追加で作ってくれたに違いない。
まあ、きっかけはクララだとしても、お陰で恩恵を受けられたのはイエナだ。植物を増やしてもいいと言っていたし、幸運と思っておこう。
会話を終えた侍従が去っていき、イエナは植物園をウロウロとした。
「ああ! 食虫植物もある!」
これは粘液を出して、害虫駆除にいいのよねぇ。上機嫌でウロウロして、気づいたら昼を過ぎていて、呼びに来た侍女と共に部屋に帰り、昼食にした。
昼食には、ラテには少し大きいが、人間用の子供用の器に、パイスープを用意してくれていた。興奮したラテは、人間姿になり自分で子供用のスプーンでスープを飲み、スープが熱くて猫舌なラテは泣いていた。
「あつゅっ!!」
熱いけど食べたくて、食べると熱くて、可愛い目からダボダボ涙を流しながら、それでもスープを口にするという。なんという、食い意地が張っているのか。いや、小さい子供用の食器でラテのために料理を作ってもらったのが、嬉しかったんだよね。
「待って、ラテ。ふうふうしてあげるから」
イエナがスープをふうふうとして冷ましてやり、ラテに食べさせる。ラテは「美味しい美味しい」と喜んでいた。それを見て、侍女たちが「次は必ず、猫様のために温めに冷やしたものをお出ししますね」と、ラテを泣かせてしまった! と侍女は泣きながら言っていた。
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