第16話 そして因果はあるべき場所へと至る

 俺はライフルの引き金を引いた。弾丸はトマーゾ大佐の額に向かって飛んでいく。


「ほう。殺しに躊躇がない。こんな相手は久しぶりだなぁ!はあ!!」


 トマーゾ大佐は拳を振るって弾丸を弾いた。よく見ると両手が淡い光で輝いている。俺の瞳に映るステータスシステムのモニターが鑑定スキルを発動させて相手の異能の正体を掴む。表示されたのは『気功』。生命エネルギーを練り上げて体を強化する技能だと聞いている。


「やぁあああああ!!」


 モンロー中尉が大剣をトマーゾ大佐に向かって振り下ろす。だがそれをトマーゾ大佐は拳で軽く払っていなし、カウンターでモンロー中尉のみぞおちに拳を叩きこむ。


「ぐはぁ!」


「剣筋は悪くない。だが経験値がたりないあぁ!ふん!」


 そしてそのままケリをモンロー中尉のこめかみに叩きこもうとする。だがその前に俺がトマーゾ大佐の背後に忍び寄り、その背中を刀で斬りつけた。


「ぐぅ!なかなかの隠密だなぁ!」


 背中に傷はつけられたけど、直前ですうぇーばっくされてしまったせいで、大したダメージにはなっていない。


「モンロー中尉!俺からも吸っていい!」


「わかりました!!吸精!!」


 モンロー中尉の周囲に光の渦が現れる。俺から吸った精気を練り上げているようだ。


「ほうサキュバスか。困ったものだ。バフとデバフを同時にするのはなかなかに強かだし、なにより腹立たしい!!」


 トマーゾ大佐も男だ。サキュバスの吸精の対象になる。だがそれでもそこまでおおきくデバフはかけられてはいないようだ。おそらく気功を上手く使って吸われることを防御しているのだろう。だがそれでも十分エネルギーが集まった。


「轟け一閃!ライトブレイドぉうおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 大剣に吸精したエネルギーを纏わせて、思い切りトマーゾ大佐に向かって振り下ろす。


「くぅ!ちぃ!だが止めてしまえばそこまでだ!!」


 トマーゾ大佐はモンロー中尉の剣を白刃取りして防御した。トマーゾ大佐の戦闘能力は本物のようだ。だけど。


「がらあきなんだよぅ!脇がぁ嗚呼ああ!!」


 俺はトマーゾ大佐の至近距離からライフルをフルオートで撃つ。放たれた大量の弾丸すべてに強化を付与している。


「ぐぅ!がは!ちぃい!」


トマーゾ大佐は掴んでいた剣を離して、俺の射撃から逃れて、俺たちから距離を取る。だけどまだ攻撃は終わらない。


「わたしもいるよぉ!!フルスイング!!」


 スナイパーライフルをバットのように構えたミュリエルがトマーゾ大佐に肉薄していた。そしてスナイパーライフルを思い切りトマーゾ大佐の脇腹、俺が銃弾を撃ちまくってボロボロになった場所にフルスイングする。


「ぐはぁああ!!」


「いたいの?!でももっといたくしてあげるから!流れて魔力!いやぁああああああああああああああああああ!!!」


 ライフルがミュリエルの魔力で赤く光る。そしてトマーゾ大佐が張っている気功のシールドと干渉して周りにバチバチと火花が散る。そしてぱりぃんと何かが割れるような音がして、そのままミュリエルはライフルを振りぬき、トマーゾ大佐は近くの岩までぶっ飛ばされた。


「せんせー!気功のシールドが壊れた!いまがちゃんす!」


「おっしゃぁ!全員フルオートじゃぁ!撃て撃て撃て!」


 俺とモンロー中尉はライフルをトマーゾ大佐に向かってフルオートで撃ちまくる。そしてミュリエルは弓で何本もの矢をトマーゾ大佐に射て貫いた。


「げはぁ!ぶはぁ!」


 トマーゾ大佐は全身が血だらけでボロボロになっていた。むしろミンチになっていないのが不思議なくらい。まだなにか種がありそうだ。油断はできない。


「…なるほど。やはり陰謀の類はうまくいかぬものだな。最初から全力で攻めればよかった。搦手などではツキが呼べない。まったく…」


 ボロボロになりながらもトマーゾ大佐は立ち上がってきた。大ダメージは折っているのは間違いない。だけどこいつがそれで死ぬヴィジョンがどうにも見えない。


「う、うわぁ!あのトマーゾ大佐がここまでやられるなんて!?」


 その声を上げたのはリシャールだった。近くに潜んでいたリシャールは俺たちを見て怯えている。


「リシャール殿。隠れていろ」


「何を言うか!貴殿はもうボロボロではないか!このままでは我らに勝ち目などない!」


「黙っていろ。私はまだ死んではいない」


「お前こそ黙れ!かっこつけていても結局は地方軍閥の長でしかない!もうお前のことなどあてにはしない!自分のみは自分で守る!」


 そういうとリシャールは神宝の入っている箱を開けた。その中に入っていたのは鎖のついた首輪だった。それをリシャールは自分の首につける。そして。


「神獣よ!王の名のもとに命ずる!我が力の贄となれ!!」


 すると神獣の狼がその場でのたうち回り始める。


「きゃうん!きゃん!わおおおんんわん!わおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!」


 そして狼は光に姿を変えた。そしてその光はリシャールの方に飛んでいき、そのままリシャールの体に吸い込まれた。メッチャイヤな予感がする。


「ふは!ふははははは!これが神の力かぁ!!ぐはははははAHAAHAHAHAHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」


 そしてリシャールの体が膨張を始める。服を破って体はどんどんと大きくなるそしてリシャールは大きな狼男に姿を変えた。


「ちっ!バカバカしいことを。はぁ…」


 トマーゾ大佐は姿を変えたリシャールを侮蔑的な目で見て首を振った。


「バカバカシイ?!ナニヲイウカ!ミヨコノウツクシキスガタヲ!コノチカラノイダイサヲ!WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONNNNNN!!」


 リシャールは巨大な声で咆哮を上げる。すると周囲の岩がその音波だけで砂にまで分解されてしまった。


「フハハハハコレゾチカラソノモノ!コノママワガヤボウヲハバムコイツラヲミナゴロシニシテヤロウゾ!」


「そうか。なら好きにしたまえ」


 そう言うとトマーゾ大佐は近くに倒れていたバイクを起こして跨った。


「付き合いきれん。そのようなあやふやな力に頼るような者では道具としても役に立たない。はぁ。私は先に失礼させてもらうよ」


 そしてトマーゾ大佐はそのままバイクでこの戦場から逃げ出してしまった。


「センセー。あの狼男なんだけどね」


 ミュリエルが実に軽蔑的な笑みを浮かべている。


「あれ元に戻れないよ。もう神獣さんと裏切り男の魔力とか体がぐちゃぐちゃに混ざっちゃってる。あの人馬鹿だね。街でいい生活したかったんでしょ?なのにあんな怪物になり果てちゃった。裏切られ損だね、わたしたち」


 リシャールは神宝の力で怪物になってしまった。もともとは街で豪奢な生活を送りたいというちっぽけな野望のためとは言えども頑張ったのに。


「悪いことしてうまくいくことの方がきっと少ないんだよ。あいつは悪党やるには弱すぎた。それだけのことだな」


「あくせんみにつかず!すてまげんきん!ばずへのみちもいっぽから!」


「はぁ。こんなオチのために戦友たちは死んだのか…虚しいなぁ…」


 三者三様それぞれやるせない結末に肩を落とした。もう家に帰りたい。トマーゾ大佐もダメージでかいし、リシャールは人間やめたから、講和は無事成立するだろう。こんな怪物は放っておいてもいいのかもしれない。だけど残念。


「ワガチカラニコウベヲタレロ!ユルシヲコエ!ダガユルサン!シネェエエエエエエエ!!」


 狼男は俺たちをタゲってる。お家に帰るにはこいつをぶち殺さなきゃいけない。今回の冒険の最後の戦いが始まる。








****作者のひとり言****


結果的におっさんが暴れたせいで、状況が知っちゃかメッチャ化になったの草。行く先々に混沌を齎すおっさんがこわいwww。


でも現実がそうですが、陰謀なんてうまくいく方がレアだと思うんですよね。結局のところリシャールは卑小な夢のために裏切りなんてかましたせいで自業自得で破滅しました。


次回はチャプターボス戦とその後始末の物語となります。よろしくお願いいます。





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