第15話 待ち伏せ

 おっきな狼は大人しくお座りしている。本当にこちらに敵意はないようだ。


「で、あんたは俺たちをどう利用したいんだ?」


「なかなか手厳しいな。まあ当然か。リシャールに利用されれば疑い深くもなろう」


 ブレソール腰に佩いた剣を地面に置いてこちらに近づいてきた。


「これで丸腰だ。俺のことはいつでも殺せる」


「へぇ。これは驚いた。大した奴だな」


 俺は構えていたライフルの銃口を下ろす。


「いいよ。話を聞こう」


「助かる。単刀直入いう。終戦のために民族の裏切り者のリシャールとトマーゾ大佐を消したい」


「あいつらは俺らもぶち殺したいけど、あいつらを殺して終戦につながるのか?」


「もともとデュガメラ族としては魔力クリスタルなんて必要のないものだ。我々の大多数が伝統を守り今までと変わらない暮らしをしたいだけなんだ。だけど安全保障の問題がある。開拓屯田隊の屯田エリアと我らの勢力圏の境に資源が出た以上は戦わざるを得ない。ここで資源のことを知ってそれを無視したならば我々デュガメラ族は開拓屯田隊や他の民族に弱腰だと舐められてしまう。こちらの部族長会議で資源開発による利益配分を最低でも30%以上デュガメラ族側が受け取れればすぐにでも我々は戦争をやめる。我々の外交ルートで打診した結果、拓務庁はこの条件を受け入れることを内定している。だが地方の開拓屯田隊の軍閥は欲深い。条件を受け入れることはないだろう。だが軍閥というものは頭が落ちればしばらくは跡目争いで機能不全に陥るものだ。その間に拓務庁と正式に講和を成立させたい。だからリシャールとトマーゾ大佐を消せば戦争は終わる」


「なるほどね。まあ政治の話はわかったよ。問題はあんたたちにその二人を殺す力がないってことだ」


「その通り。リシャールは神宝を手に入れた以上、名目的にはデュガメラ族の王だ。我々は建前としては逆らえない。トマーゾ大佐は軍閥を率いるだけあって純粋に強い。だが君たちならばなんとかできる。ような気がする」


「おい。最後は勘なのか?」


「そうだ。はっきり言おう。こちらとしてはすでに選択肢がない。もともと正面から戦って開拓屯田隊と勝てるほどうちの民族は戦力をもっていない。今は地形を知る優位とゲリラ戦でなんとかしているだけだ。君たちに賭けるのが最も分がいいのだよ」


 俺は頭を抱えた。ここでアウリス市に逃げてこの戦争を見て見ぬふりをしてもいい。それが一番賢い生き方だと思う。だけどここで舐められっぱなしでいれば、今後の冒険に支障をきたす。そして何よりもだ。


「いいよ。わかった。だけど最大限そっちも協力はしろよ!」


「ああ、勿論協力は惜しまない。…助けてくれて感謝する。ありがとう」


 ブレソールは偉い身分だろうに俺たちに深く頭を下げた。この男は俺たちに殺される可能性すらあったのに、俺たちに助けを求めた。それを振り切れるほど俺は薄情ではいたくない。やっぱり息子に誇れる父でありたい。男なら義侠心とでもいうものを捨ててはいけないんだと思う。


「ミュリエル、モンロー中尉。俺らは散々あいつらに利用された。報復に行くぞ!」


「さすがせんせー逆らうやからはみなごろしー!」


「そうですね。わたしは屯田兵です。舐められっぱなしじゃ開拓なんて出来やしないんですよ!なめやがって!あいつらぶっ殺してやります!」


 うちのメンツもやる気満々だ。あとは作戦だけ。


「ブレソール。なんとかリシャールとトマーゾを孤立させられないか?」


「それならできる。リシャールに対してデュガメラ族が忠誠を誓うとという体でこっちの山脈に呼び出せばいい。同盟者であり、デュガメラ族の恭順を確認するためにもトマーゾ大佐はついてくるだろう」


「おっけーおっけー。ここでの戦いの厄介さはそっちのワンチャンのお陰でよくわかってる。やってやろうじゃねぇか。ここが俺らの桶狭間だ!」


「オケハザマ…?何かは知らないが、状況は整える。後は頼む。それと神獣をそちらに貸し出す。うまく使ってくれ」


 白い大きな狼がこちらに近づいてきて、俺たちの目の前でお手をした。すげぇシュール。一応その差し出した手に俺は手を重ねた。


「おちんちーん!!!!」


 ミュリエルが突然そう叫ぶと、神獣は立ち上がって腰を振り始める。それを見てミュリエルはうんうんと頷く。


「せんせーこのワンチャンはよくしつけられてる。裏切られる心配はないね!」


「もっと他の芸で確かめてほしかったなぁ…」


 俺はやれやれと首を振ったのだった。

















 そして俺たちは山脈のとある隘路の上で待機をしていた。ブレソールがリシャールを呼び寄せた場所へ行く道の中でもっとも狭い場所の一つだ


「ススキノリーダーより各人へ状況はどうだ?」


『ja!ススキノ1。ひま!いじょう!』


 ススキノ1ことミュリエルは暇らしい。


『こちらススキノ2。状況変わらず』


 モンローは軍人らしく変身が丁寧だ。


『わふぅ!わんわん!わわん!わーん!』


「いや!お前にコールサインは振ってない!てか神獣とか言われてるくせにノリがいいなおい!」


 神獣の狼さんは人語が理解できるそうなので一応無線機を耳につけておいたのだが、まさか使いこなすとはな。異世界侮りがたし。


『む!こちらススキノ1!みえたよ!リシャールとトマーゾ大佐!同じ車に乗ってる!一番後ろのやつ!』


 よし来た!俺もスコープで開拓屯田隊の装甲車の列を確認した。


『ススキノリーダーよりススキノ2!例の工作実行せよ!』


『了解!地獄に墜ちろぉ!裏切り者どもめ!!』


 ぽちっという音が無線機から聞こえた。すると大きな爆発音が連続して鳴り響き、地面を揺らす。そして崩れた崖の岩が装甲車の上に落ちていく。


「一度やってみたかったんだよねぇ逆落とし!」


 古典的だけど一番効果的な軍略の一つだと思う。この山脈は車の通れるところが限られている。だから罠を張るのは簡単だった。


「うわあああああああああああああ!」「ぎゃああああああああああああ!」「た、助けてくれぇ!」「て、敵襲!ぐあああ!!」


 多くの装甲車が岩に押しつぶされて、その中の兵士ごと押しつぶしていく。一応落した岩には魔力を付与しておいたので、魔法か何かで防ぐのは簡単ではないはずだ。


「くそ!敵がいるぞ!撃てぇ!撃てぇ!!」


 生き残った者たちは車から出てあちらこちらに発砲を始める。だけど俺たちの偽装は完璧だ。


『どっぴゅん!』


 ミュリエルのスナイパーライフルの発砲音が響く。彼女の撃った弾丸は次々と兵士たちの頭にヒットして斃れていく。


『突貫!ゴーゴーゴー!』


『わおーん!!』


 そして狙撃で混乱している兵士たちに向かってモンローと神獣の狼が突撃していく。モンロー中尉は次々と兵士たちを斬り捨てていき、狼は兵士たちをかみ殺していく。俺もまた敵兵に向かってマシンガンで援護射撃を行って彼女たちの突撃のアシストをする。そしてあらかたの兵士たちは片付いた。


「まったく。嫌な予感はしていた。はぁ。無視をすればよかったのに、虚栄にこだわるとろくなことにならないなリシャール殿」


 王冠を被ったリシャールをトマーゾ大佐は抱えて岩の上に立っていた。俺たちの襲撃をうまく躱したらしい。


「だが私が王になるからこそ、魔力クリスタルの利権を貴殿がすべててにいれられるのだぞ」


「だからこそ。王ならばわざわざ呼ばれたからいくのではなく、向こうを呼びつければよかったのだ。まあ責任のなすりつけ合いはもういい。しかし見事なものだたった数名の襲撃で見事にこれだけの兵士を屠ってみせた。感服するよ!」


 トマーゾ大佐は余裕の様子を見せていた。それはおそらくはったりでは無く自信がなせる業なのだろう。


「はあ。わざわざ自分で戦うのが面倒だから軍閥を率いているのに、仕方ない久しぶりに手を血で汚すことにしようか」

 

 そう言うとトマーゾ大佐から発せられる殺気が膨大なものになった。これが異世界で軍閥を率いる実力者の力。ここからは確実に難しい戦いになる。だがそれでも俺たちは負けられないのだ。


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