第14話 裏切り

 俺は半分イラつきながらキャンピングカーを運転していた。


「センセーふきげんだねー」


「そりゃそうよ。なんでダチでもない男の我儘に振り回されなきゃいけないんだか」


「だよねー。…ねぇセンセー。本当にアリス駐屯地に協力者っているのかな?」


 ミュリエルもどうやらきな臭さを感じているようだ。今回の任務にあまりにも陰謀の匂いがつき纏っている。


「ミュリエル。一番派手な魔法を発動できるように準備しておいて」


「おわかりー!」


 ミュリエルは助手席から後ろのリビングルームに行って、魔法の準備をはじめる。俺は無線でキャンピングカーの屋根の上で警戒をしているモンロー中尉に呼びかける。


『きな臭いから一応準備はしておく』


『すみません…こちらの都合に巻き込んでしまって』


『いいさ別に。こっちは目的のものをゲットできたしね。あとは君の目的を叶えてやるだけさ。win-winってやつさ』


「せんせーいしきたかーい!」


 とりあえず準備はしておく。この世界じゃ何が起きてもおかしくないのだから。





 アリス駐屯地が見えてきた。だがデュガメラ族の連中を連れてどうやって入るのか、それを考えていた時だった。駐屯地側から戦闘用走行車両が6台ほどこちらにやってきて目の前で止まった。


「やあやあ。友よ。よくぞ来てくれた!歓迎するよ!」


 車両から降りた詰襟の軍服の男がリシャールに笑顔で近づいてくる。俺はキャンピングカーから降りて、モンロー中尉と共にリシャールに近づき、軍服の男の前に立つ。


「モンロー中尉。彼は友人だ。護衛はけっこうだよ。やあ、トマーゾ大佐!」


 リシャールとトマーゾ大佐は互いに握手をして肩を抱き合う。お互いに仲は良いようだ。俺は隣にいるモンローに尋ねた。


「あの男は誰か知ってる?」


「彼はトマーゾ・ガルバーニ大佐。アリス駐屯地の司令官です。ここら辺一体を支配する屯田兵の軍閥の統領ですね」


「そりゃまた…」


 つまりいまデュガメラ族と魔力クリスタル鉱床を巡って戦争をしている張本人なわけだ。それが和平派と仲良くしている?何のジョークだ?俺はキャンピングカーの中に隠れているミュリエルにサインを飛ばす。


「トマーゾ大佐。リシャール様。これはいったいどういうことなのでしょうか?戦争中の地方司令官と和平派がどうしてつながっているのですか?」


 モンローは二人の男を睨みながらそう言った。だけど本人もきっと答えはわかっているんだろう。俺だってすでに察しはついている。


「ここと比べてアウリス市は素晴らしいと思わないかね?」


 リシャールは笑みを浮かべながら言う。その発言にトマーゾ大佐も頷いている。


「富も名声も酒も女もすべてがあの街に集まっている。それに比べてここはどうだ?あのデュガメラの住む山はどうだ?まるで滓みたいなところだとは思わないかね!」


 まあ生活水準でいえばアウリス市はこの世界で一番いい場所だろう。勿論スラムとかには目を瞑るとしてもだ。


「君たち地球人がこの世界に来た時に我々に様々な文明の奢侈品をばら撒いた。私は幼いころあのキラキラしたガラス瓶に入った酒の煌めきに夢中になった。それが今でも忘れられない。ここにそんなものはない。だがアウリスにならあの煌めきはいくらでもあるのだよ!」


 トマーゾ大佐がシャンパンを部下に持ってこさせた。そしてその蓋を豪快に飛ばして、同じく部下に持ってこさせたグラスに注ぎ、それをリシャールに渡す。それをリシャールは実に楽し気に、美味しそうに飲み干した。


「ああ、何て美味いんだろう…。こんなものは我々の部族には作れぬのだ。濁って口当たりも悪い味もひどいものしか飲めない。これぞ文明の味!」


 同じくグラスにシャンパンを注いでそれを楽しむトマーゾ大佐が続ける。


「リシャール殿には先見の明がある。彼は魔力クリスタル鉱床の開発を我々に任せると決断してくれたのだ。勿論我々は対価を払う。リシャール殿の部族には名誉市民としてアウリス市に移住していただき、我々の手で設立される鉱山会社の株式を譲渡する。これで戦争は終わり、皆で利益を分け合いめでたしめでたしだ」


 俺はため息を吐いた。ようはここでも地球と同じ悲劇を繰り返しているわけだ。先住民族同士の不仲に付け入り、裏切らせて彼らの土地を奪う。リシャールは民族を開拓屯田隊に売り払ったのだ。自身の豪奢な生活のために。


「で、そのためにモンロー中尉達の中央の特殊部隊を利用したりして神宝を奪ったりしたわけだ。民族の宝を人質にして主戦派を黙らせるわけね。ちっ!売国奴め!恥を知れ!」


 俺たちは恥辱に満ちた裏切り行為の手伝いをさせられた。もちろん世界は綺麗ごとだけでは回らない。だけど汚いことをやるなら事前に知っておくべきだ。何も知らずに利用されたことに俺は怒りを覚えていた。


「トマーゾ大佐。このことは中央に報告させていただきます。いくらなんでもこのような侵略工作は拓務庁の理念の許すところではない!」


 モンロー中尉も俺と同じ気持ちのようだ。このやり方は明らかに間違っている。俺たちは明らかな侵略行為に手を貸してしまった。けじめはつけないといけない。


「そうかそうか。ではどうやって通信する?駐屯地に引かれた地下ケーブルなしにどうやって中央と通信する?そしてそれ以前に…」


 トマーゾ大佐の連れてきた兵士たちが俺とモンロー中尉にライフルを向ける。リシャールの部下たちもまた剣を抜いてにやにやと笑っている。


「ここでお前たちは死ぬのだからなぁ!!」


 トマーゾ大佐の言葉と共に兵士たちがライフルを撃ってきた。俺はモンロー中尉を抱えてすぐにキャンピングカーの陰に隠れる。そしてキャンピングカーを叩いて中に隠れるミュリエルに指示を出す。


「ぶっとばせーーー!ミュリエル!!」


「がってん!召喚発動!!!みんなふっとばしちゃええええええ!!!!!」


 キャンピングカーの下に魔方陣が現れて、この間倒した鬼のモンスターが召喚される。


「ひぃ!なんだあれ?!」「しょ、召喚獣?!」「うわあああ!銃がつうじない?!!」


 兵士たちの悲鳴が響き渡る。突然現れた召喚獣に恐れおののいている。召喚獣が腕を一振りするだけで兵士たちは一瞬でミンチになっていく。俺とモンロー中尉はすぐにキャンピングカーに乗り込み、アクセルを踏み込む。


「何処へ向かいますか?!」


「山脈の方にいく!あっちなら地方軍閥レベルの兵士なら追いかけてこれないはずだ!」


 俺はハンドルを思い切り回して、来た道を戻る。


「逃がさん!!」


 竜に乗ったリシャールたちの兵士が俺たちを追いかけてくる。モンロー中尉が窓から上半身を出して、サブマシンガンをぶっ放して牽制するが、それでも彼らはひるまなかった。


「竜のはるシールドが硬すぎるぅ!!9mmじゃ無理です!」


「7.62mmNATO弾のバトルライフルがそこにあるからそれを使え!」


 モンロー中尉はバトルライフルに持ち替えて追いかけてくる騎竜兵たちの竜を撃つ。だけどそれでも出来るのはせいぜい竜の足を少しの間止めることくらい。焼け石に水だ。


「7.62mmでも貫けないんですか?!どんだけ硬いんですか騎竜兵って!ドン引きですよ!!」


「くそ。ジリ貧だな。降りて戦うか?いや。奴らは仕留められても、開拓屯田隊が駐屯地から出てくる!」


 選択肢が足りない。果たして逃げ切れるのか。俺が諦めかけていたその瞬間だった。


『Waoooooooooooooooooooooooonnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnn!!!』


 大きな雄たけびが響いた。そしてあの時に現れた大きな狼が俺たちの目の前に現れた。


「ええ?!前門のなに?狼?!ってやつか?!ざけんなぁ!!」


 俺はアクセルをべた踏みする。せめて体当たりしてダメージを与えてやるつもりだった。だけど狼は華麗にジャンプしてキャンピングカーを飛び越えた。そして俺たちの後ろについていたデュガメラ族の騎竜兵たちに襲い掛かったのだ。


「うわぁ?!」「なんで神獣様が俺たちデュガメラ族に?!」「ひぃい!うぎゃああああああ!!」


 後ろから騎兵たちの悲鳴が響いてくる。チャンスだ。このまま振り切ってやる。アクセルをべた踏みして、さらに秘密機能の一つであるジェットエンジンに点火する。


「「きゃあぁああああああ!!」」


 突然の超加速にモンロー中尉とミュリエルは悲鳴を上げる。


「うおおおおおおおおおおおお!I am the wind!!yahhaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」


 キャンピングカーは超速度で草原を疾走していく。そしてなんとか敵を振り切ることに成功したのであった。




 山脈と草原の境界線のあたりで一度車を停めた。


「いやぁさすがにジェットエンジンは駄目になってんな。…修理費で頭痛が痛い…」


 俺は無茶させた車のあちらこちらを点検した。一応通常モードなら走れそうだけど、さっきみたいな緊急モードはもう使えなさそうだ。


「せんせー!すぐに武器装備して!あの狼が来た!!」


 キャンピングカーの下で工具を弄っていた俺にミュリエルが血相抱えて呼びかけてきた。俺はすぐに車の傍に置いておいた装備一式を装備してライフルを構える。


「武器を降ろしてくれ!こちらに敵対する意思はない!!」


 狼の方から男の声がした。よく見ると狼の上に狼耳の若い男が乗っていた。そいつは狼から降りてこちらの方へと歩いてくる。


「なんだあんたは?!あの狼のご主人様か?」


「主人ではない。神獣の契約者だ。まあそれはいい。俺の名はブレソール。デュガメラ族の部族長の一人だ。さっきの騒動は遠くから見ていた。一応あんたたちを助けたんだ。話くらいは聞いてくれるよな?」


 厄介ごとはまだ終わらない。だけど局面が変わる匂いが俺には感じられたのだ。





****作者のひとり言****



こういう任務が成功した後に、悪いが死んでくれぇ!みたいなイベントがやりたかったので筆者的にはお気に入りな回になりました。


本作はカクヨムコンにしゅぴん予定です。

よろしかったらおっさんに★★★をあげてください。お願いします(*´ω`)




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