第13話 召喚獣をゲットせよ!
聖域と呼ばれるだけあって、洞窟の中はとても綺麗だった。壁や天井から生えているクリスタルの淡い青白い光が、俺たちを照らしている。
「自然の魔力ってやつか。確かにさっきからステータスシステムのスキルが警戒音を鳴らし続けてるんだけど」
網膜に投影されている空間魔力量の値がすごく高い。これはすごく危険なんじゃない?毒ガスが満ちているようなものなのではないだろうか?
「そーだね。放っておくとなんか変な現象間違いなく起きると思うよ」
そう思った矢先だ。
『ホマレ…。餅食うかい?』
「ばあちゃん?!ばあちゃんの声がする?!」
そして遠くにお餅を持った俺のばあちゃんが立っているのが見えた。餅食べたい!
「幽霊正体見たり枯れ尾花だよ。センセー」
「ああ、忘れてた。てか俺のばあちゃん死んでねぇし」
俺の父母のどちらのおばあちゃんもおじいちゃんもまだぴんぴんしている。そう言えば不思議だ。俺の家系は長寿だしガンで死んだって話は聞いたことがない。比較的若い年でがんになったのは俺がはじめてかもしれないのだ。まあ今はそんなことはどうでもいいのだが。
「ばあちゃん…体治ったらひ孫連れてってやるからさ。今は引いてくれ…」
そう優しく問いかけると、おばあちゃんの姿は優しく微笑んで消えて…くれない。それどころか恐ろしい形相になってこちら側へと走ってきたのである。
「ちょっと!なにあれ怖い!?どうなんてんの?!」
「センセーの弱い心が生み出した幻想が魔力で形づけられてモンスターになっちゃったんだねぇ。食らえ!サンダービームアロースペシャルぅ!!」
そう言ってミュリエルは俺のばあちゃんの姿をしたモンスターを雷の魔法を付与した矢で射殺した。え?なんか気分がすごく悪いです…。
「この調子でモンスターが出ても困りますよね。ミュリエルさん。龍脈の魔力に色付けしてください」
「わかった。移り変わるは季節なり、色を変え時を我らに知らせる!パレットフィルター」
ミュリエルが呪文を唱えると洞窟内に緑色の魔力の流れが見えるようになった。それは確かに竜、というか蛇みたいにうねうねと動いているように見えた。
「さて今度こそ真のサキュバスの力をお見せしましょう。サキュバスはありとあらゆるエネルギーと情報を吸収することが出来るのです。ドレイン」
モンロー中尉が両手を広げながらその場で踊り始める。すると洞窟内に満ちていた緑色の魔力がカノジョにどんどんと吸われていく。
「あ…んっ…だめぇ!絡まってるぅ!敏感なところにぃ!こすれて…ああん!」
エロい動きでくねくねするモンロー中尉には今は普段の真面目そうな軍人らしさはかけらもない。ただの痴女である。なおさっきから俺もついでに吸われてるんだけど?
「センセー?エナドリのむ?」
ミュリエルが膝をつく俺にエナドリを差し出してくる。効くの?でも藁にもすがる思いで、俺はそれを飲み干す。
「やべぇ!メッチャ効いた!!ってすぐに吸われるぅう!!」
一度は立ち上がれたのに、再び俺は膝をついてしまう。
「あ、ごめんなさい。度会先生の精気すごく美味しいからつい吸っちゃいました!いま止めますね」
モンロー中尉が俺のダウンに気づいて、吸精をカットしてくれた。やっとデバフから回復できた。そして気がついたら洞窟内にあった緑色の魔力が消え去っていた。
「ふうぅ。やっぱり自然の魔力って生臭い感じがして嫌ですね。はらわた取り損ねた川魚みたいな味がします」
「ええ…味とかあるんだ…へぇ…」
しかもなんか普通にまずそうなのが嫌だった。ファンタジーならむしろ自然エネルギーとかって気持ちいいもんじゃないのかな?
「はい。やっぱり人間の精気が一番美味しいですね」
モンロー中尉が俺のことを淫靡な笑みで見詰めながらそう言った。
「ちなみにそういうのって君普段どうやって吸ってるの?」
吸精されてわかるけど、すげぇ迷惑なんだよね。どうやって普段吸ってるのかは気になる。
「開拓屯田隊はバイトオーケーなので、アウリス市の七区にあるネオナカスのダンスバーで踊ってお客さんから吸ってます。か、勘違いしないでくださいね!乳首とか大事なところは晒してないんだからね!」
「変なツンデレやめろよ」
でも納得は納得だ。他のサキュバスもそういうところで働いているのかもしれないな。
「でももんろーのおかげで洞窟内がくうきせいじょうされたね。もうおばあちゃんは出現しなくてすむね」
「まあそうだな。だけど…モンスターは普通にいるみたいだな」
俺たちの視線の先に大きな二足歩行のトカゲみたいな連中が現れた。手にはこん棒を持っている。知能はなさそうだからモンスターなのだろう。俺もミュリエルも武器を構えてバトルの準備を始める。
「あの。ジブンにまかせてください。いますごく元気いっぱいなんで。ぎゃは!」
そう言ってモンロー中尉はすさまじい速度でモンスターの群れの中へ飛び込んだ。そして両手にもったサーベルでまるで舞うかのようにモンスターたちを次々と斬殺していく。
「何あの速さと腕力?!」
「そっかセンセーは知らないんだね。サキュバスってみんなにすごく怖がられてるの。吸収したエネルギーで身体機能を圧倒的に強化し、得た情報で魔法や武技を習得し、際限なく強くなっていく戦闘民族。それがサキュバス」
「戦闘民族?!え?エッチで男の夢みたいな種族じゃないの?!」
「センセー。ファンタジーに夢見るのやめよ?リアルに考えようよ。相手からエネルギーをドレイン出来る。しかも底なしに。強くないわけないじゃない」
「こわ。サキュバスこわぁ」
火遊び相手に選んだらやばいわ。そしてモンロー中尉はあっという間にモンスターの群れを片付けた。
「あ…ん…まだ…足りないょぅ…もっともっとぉお!」
そしてモンロー中尉は洞窟の奥に向かって走り出す。
「猟犬?」
「くうきせいじょうき!モンスター退治機能付き!」
俺たちは呆れながらモンロー中尉の後を追いかけていく。
「きゃははは!逝って!もっと逝かせてあげるぅ!あは!っああ!ん!」
モンロー中尉は縦横無尽に走り回りながら元気にモンスターを殺していく。俺たちはそのあとを歩くだけで十分だった。そしてとうとう洞窟の一番奥に辿り着く。そこ大広間になっており祠があった。神宝らしきものが入っているだろう箱が安置されている。
「ねぇねぇ!ミュリエルさん!絶対にこれってボス出るよね!出るよね!ねぇ!ねぇ!」
「そうだねぇ。なんか召喚獣を呼び寄せる魔方陣はってあるし、多分侵入者を排除するしかけなんだろうね」
ミュリエルは冷静に解説してくれた。つまりここはボス部屋。腕が鳴るぜ!そして。部屋の中心から魔方陣が光り輝き、召喚獣が現れる。それは大きな角を二本生やした鬼のような巨人だった。手には大剣を持っている。
「きた!きたた!きたたたたたたたぁ!あちゃおおおお!」
俺は刀を抜き、同時にハンドガンも抜いて、近接バトルモードになる。絶対にこのバトル燃える。燃えないはずがない。
「センセーたのしそうだね。…それが彼の最後の笑みだったのだったなぜならば…」
「おっきくて硬そうなのが二本もありゅううううぅうう!我慢できない!あはっ!」
モンロー中尉が巨人に向かって超高速で飛び込んだ。そして巨人と激しい剣戟の打ち合いを始める。
「あはははは!あーはははっははは!」
おっぱいとお尻をプリンプリン揺らしながらハイテンションで戦うモンロー中尉。巨人とは体のサイズが何倍も違うのに全くと言っていい程押されている様子はなかった。
「ミュリエル。もう。俺。笑えない…」
あの様子で確信した。俺、活躍の場が絶対にない。
「もうもんろーひとりでいいんじゃないかな!」
ミュリエルはむしろさぼれるとわかって元気いっぱいだ。文明に毒されてゆとり世代みたいになってやがる。このエルフまじで腐ってやがるぜ!そしてそこから30分くらいして。
「勢ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
モンロー中尉は巨人の首を刎ね飛ばした。彼女には傷一つついてない。もうなんなのバトルジャンキーのサキュバスってなんかこう違うよね?ファンタジー…。
「あ、終わった!よし!我は軛を絶つもの!我は楔を打ち込む者!サモンビーストキャプチャー!」
ミュリエルは何かの魔法を発動させる。すると倒れた巨人を魔方陣が包む。そして狂人は淡い光になって消え去り。魔方陣はその場で圧縮されて球になりミュリエルのところへとフワフワと漂ってくる。そしてそれはミュリエルは手のひらに収まった。
「何やったの?」
「召喚獣を盗ん…ごほん!…ゲットしたの!」
いまなんかとんでもないこと言いかけたよね。
「あの召喚獣もう死にかけてたからね。このままこの洞窟の契約に縛られてると死んじゃうから。私のものにする代わりに蘇らせてあげる契約を結びなおしたの」
「うーん。窃盗ぽいけど。召喚獣の命を助けてあげてるっぽいからセーフ」
「ありがとうパパ!大好き!」
こいつ都合のいいときだけまじでパパ呼ばわりしてくんのほんと文明の毒に染まってるわ。さてボスキャラは消えたので、神宝を回収する。
「箱の中なにがはいってるのかな?わくわく」
「勝手に開けたらまずいからだめ」
「えーセンセーのケチ」
そして俺たちは洞窟の外に出た。全く冒険してないのにお宝ゲットして何か虚しいダンジョン攻略だった…。
外に出るとリシャールがニコニコとした笑みで出迎えてくれた。
「いや本当に回収してこれるとは思わなかったよ」
「え?なに?俺らが死ぬ可能性とか考えてたの?まあいい。ほら。約束のブツをよこせ!」
「ああ、契約は守るとも。神宝との引き換えだ。部下の手前、プライドもある」
リシャールは俺に瓶に入った粉薬を渡してきた。茶色っぽいさらさらした粉のように見える。
「ガンによく効く。ただし飲み薬ではなく、外科手術で腫瘍に直接その粉を解いた溶液を塗り付けるという使い方をする」
「ほう。なるほど。塗り薬の元なのね。へぇ面白い」
わりとあっさりと目的のブツをゲットできた。今回の冒険は大成功と言ってもいい。あとはリシャールをアウリス市へと護送するだけ。
「ではリシャール殿。アウリス市へと向かいましょう。道中はジブンが守ります」
ビキニアーマーで軍人口調されるとなんかシュールだな。
「そうだな。アウリス市へ向かう。だが途中寄るべき場所が出来た」
「はぁ?!どういうことですか!?」
モンローはイラつきを抑えずに声を上げる。
「アリス駐屯地へ連れて行って欲しい。あの街に我々の重要な同志が潜伏している。この際だ。回収したい」
「あそこはデュガメラ族と直接戦争してる屯田兵たちが駐屯しているんですよ!和平派のあなたを連れて行ったら危険が及びかねません!」
アリス駐屯地はいわゆる地方の軍閥であって、中央の統制が効かないのだろう。そこにいまデュガメラ族の和平派なんて連れて行けば、よくて拘束下手すれば殺されるのは間違いない。
「だがそれも戦争を止めるために必要な行為なのだ」
「ジブンたちの任務はあなたの護送です。戦争をとめることは任務の範疇にありません」
「なら我々は勝手に行くだけだ。どうする?君に私の行動を止める権限はないだろう?だが私が死ねば任務は失敗だぞ。いいのか?失った戦友たちにそれで顔向けできるのかね?」
「貴様!…度会先生。すみませんジブンはリシャールさまをアリス駐屯地へとお連れします。協力はここまでということで。ありがとうございました」
モンローは悔し気にそう言った。むしろ俺たちは目的を達成できたから、ここで離脱しても十分だ。だけど。
「たしかに協力関係は終わりだ。でも俺たちもアリス駐屯地までは一緒に行くよ。どうせ寄る予定だしな。旅は道連れだよ」
「わーセンセーやさしーでもかっこつけすぎぃ!」
ミュリエルさん男の美学に余計なこと言わないで!
「…ありがとうございます!」
モンローは俺たちに笑みを向ける。結果的に俺たちはアリス駐屯地に向かうことになった。そこに俺はきな臭さを覚えた。勘が囁いている。このままいけば何かろくでもない何かが起きる。そんな予感だ。モンローはもう俺たちの仲間だ。見捨てることは出来ない。危ないところへは一緒に飛び込んでやりたい。俺は俺のルールを通す。ただそれだけだ。
****作者のひとり言****
さあエピソード2もそろそろ佳境に入ります!
ちなみにですが、アウリス市の繁華街の名前はシン・ススキノやネオ・ナカスなど日本の地方繁華街を参考にしております。
よろしかったら★を置いていってあげてください!モンローちゃんが泣いて喜ぶので!
ではまた。
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