第12話 【悲報】サキュバスなのに貞操観念がちゃんとしてる【ビキニアーマー】

 モンロー中尉がパーティーに加わりキャンピングカーの中は賑やかになった。


「もんろーちゃん。やっぱりここにはこの花がいいよね」


「そうですね。でこちらにこの写真を置くといいと思います」


 女性二人でキャンピングカーの中の飾りつけを楽しむ姿に、俺は失ったかつての日常を嫌でも思い出させる。不思議なのだ。妻がまだ俺の傍にいた頃、家の中には小物が溢れていた。小さな花瓶やミニチュアの動物、写真立て。それらで家の中を妻はいつも飾り付けていた。男の俺にはその良し悪しはわからない。だけど小さな取るに足らない小物たちを悩みながらもおいていく妻の姿にたまらない愛おしさを覚えていた。


「こうやってホームが出来ていくのかな…?」


 俺はそう独り言ちる。それらの日常はもう失われた。だけど代わりの楽しみはまだ見つかるのかもしれない。だから俺はまだ生きていられる。







 キャンピングカーを走らせること丸一日。デュガメラ族の和平派が指定したというポイントに辿り着いた。もともとは自力で彼らを探すはずだったが、モンロー中尉の任務に乗っかって彼らに接触する方が俺にとっても好ましいだろう。ほら和平派ってなんか優しそうな感じするし。


「すごく高いとこまで来ちゃったねぇ。なんか空気が薄い気がする」


 ミュリエルが指摘する通り、ここら辺はおそらく空気が実際に薄いはずだ。


「で、モンロー中尉。どうやって和平派に接触するんだ?」


「暗号化した無線器を使います」


 モンロー中尉はタクティカルベストの肩につけている無線機の周波数を弄る。


「平和の鐘を女神が見詰める。祈りを横取りする者たちへ鉄槌をくださん」


 なにかの符牒らしい言葉を無線に向かって彼女は喋った。すると返事が無線機から返ってくる。


『符牒を確認した。今からそっちに行く』


「はい。待っています」


 そして一時間ほど経って、狼の耳を持つ亜人種の男たちが二足歩行の竜に乗ってやってきた。なんだろう?すごくファンタジー感あってちょっと興奮する。


「驚いた。どういうことだ?たったの三人?もっと大所帯で来ると聞いていたのだが」


 リーダーっぽい男が竜の上から俺たちを見下ろしながら言う。


「すみません。途中強力なモンスターと遭遇してしまい隊員の多くが戦死しました。ですがここにいる三人でも十分に和平派の指導者であるリシャールさまを保護しアウリス市へ移送することは十分できます」


 モンロー中尉は内情を正直に話したが、和平派の重要人物の保護と移送は出来ると豪語した。そこには自信があるように見えた。実際モンロー中尉はあの狼相手でも狼狽えなかったし、実際に強かった。


「アウリス市への移送。確かにそれは任務に入っている。だが困ったな。君は任務の深いところを知らせていないようだね?」


 リーダーっぽい男。この男がリシャールなのだろう。なにか困っているような渋い顔をしている。


「深いところ?すみません。おっしゃっている事の意味がわかりません。我々丙分遣隊に出ている命令はリシャールさまをアウリス市へ護送することです」


「なるほど。それは事実なのだが、もう一つ君たち丙分遣隊には私たちからの依頼をこなしてもらう予定だった。それについては開拓屯田隊特殊作戦群司令部と話し合いがついている。それを聞かされていないのはおかしいはずだ」


 またまた陰謀の匂いを感じる。モンロー中尉を燻し気な顔をしている。ここで考えられる可能性はいくらでもある。丙分遣隊そのものに任務が伏せられていた可能性はないだろう。多分モンロー中尉だけハブにされた。もしくは目の前のリシャールが嘘をついているか。だが嘘はついていないだろう。このままアウリス市へと護送後にモンロー中尉が報告したら、外交問題になる。ハブ説が有力だな。


「だがなるほど君が亜人でしかも女であるならば、べつに不思議ではない。軍隊とは男の世界だ。女たちには話したがらない秘密も多いだろうさ。君には任務の深いところまでは聞かせなかった。十分理解できる」


 モンロー中尉は嫌そうに眼を細める。俺は男だからその気持ちはわからないが、男社会で女が働くのは大変なんだろう。特に軍隊のようなところであればそれは顕著だろう。


「お聞かせいただけませんか?丙分遣隊がやるはずだったという任務について」


「何簡単な話だ。我々デュガメラ族の神宝をこの近くにある洞窟から取ってきて欲しいというだけのことだ。ようはお遣いだね」


 お遣いと言えばお遣いに聞こえるが、じゃあ何で彼らがやらないのって話に聞こえる。


「どうしてそのような任務を我々にさせようとするのですか?失礼ながらその程度の仕事ならあなた方でも十分こなせると思うのですが?」


 モンロー中尉の言葉に棘を感じる。そりゃお遣いしてこいなんて馬鹿にされているようにしか感じない。俺だってそう思う。


「それが我々にはできないのだ。神宝がある洞窟はデュガメラ族にとっての聖域に当たる場所だ。我々はそこに入ることを禁じられている」


「でしたら神宝を取ってくるのも駄目なのでは?」


「だが神宝はとても重要でね。和平を実現するには必要なんだよ。神宝の権威にデュガメラ族は逆らえない。わかるだろう?神宝の権威でデュガメラ族の継線派を大人しくさせるのが和平派の構想なのだ」


 それ上手くいくの?あいにく宗教が力を失って久しい現代社会出身者の俺からするとその作戦が成功するビジョンが浮かばない。


「なるほどなー。それならたしかにおとなしくなるかもねー」


 だけどエルフのミュリエルには実感が湧くらしい。うんうんと首を振っている。


「でもあなたたちのせいきにはいったら当然祟りがでるよね?わたしたちにそのたたりをおしつけるつもりなの?」


 ミュリエルは睨むような目をリシャールに向ける。珍しく怒ってるような感じだ。


「君たちはデュガメラ族はない。だから我々の信仰に関係ないだろう?信じてもいない神の祟りが起きることを信じるのかね?」


「信じてなくても祟るときは祟るよ。ようはあなたたちは自分たちが入ると怖いから、お化け屋敷にわたしたちを放り込みたいんだね」


 リシャールはミュリエルの挑発的な言葉に一瞬だけムッとしたような顔をした。だけどすぐにそれを隠して穏やかな笑みに戻る。


「まあそういうことだね。でも君たちも私たちも他に選択肢はない。やってくれたまえ」


 なんだろう。この足元を見てくる感じがすごく嫌だ。だからせめて俺たちの要求も飲ませたい。


「任務は仕方ないとしてもだ、こちらとしてはたったの3人でそのお化け屋敷に入らされるわけだ。少しくらいご褒美もらえないか?」


「なんだね?何か必要なものでも?」


「あんたたちが使っている伝統の生薬がほしい。狼咆湯ろうほうとうというやつだ。病によく効くと聞いている」


 今回の俺の冒険の目的である生薬を報酬として要求してみる。


「あれは秘伝の薬だ。他所の民族には渡せるものではない」


「はぁ?じゃあお化け屋敷への突入はなしだ。他を当たれ」


 やっぱり断れたが、ここからが交渉だ。


「ちょっと度会先生!それでは任務が!」


「モンロー中尉。言っておくけど、俺たちに見返りがなきゃ協力はしない。俺らは屯田兵じゃない。民間の冒険者だ」


「うっ…確かにおっしゃる通りですね。そうなるとジブンひとりでその聖域に突入ですか。それだと神宝の回収は不可能そうですね。まあ仕方ないですね」


 モンロー中尉がニヤリと笑って俺のストライキに乗ってきた。賢い子は好きだ。多分モンロー中尉もこいつらとの会話でイライラしていたのだろう。いい意趣返しになった。


「…なるほど…。欲深な地球人とサキュバスめ…わかった。狼咆湯は用意しよう。かわりに確実に神宝を持ってくるんだ」


 リシャールの譲歩に俺たち三人は笑って


「「「りょ!」」」


 おふざけな敬礼を返してやった。こうして交渉は終わった。目的は達せられる段取りがたった。







 そして聖域の洞窟のところまで連れていかれた。第一印象はなんというか。


「あ、ここぜったいでるところだ」


 洞窟の入り口を見ながらミュリエルがそう吐き捨てた。


「出るって何が?お化け?幽霊?」


「ううん。違うよ。この洞窟、自然の魔力と龍脈がふくざつに絡まってる。そういうところは変な現象が起きるの。ゆうれいしょうたいみたりかれおばなって奴だね。デュガメラ族の人たちはここを聖域と信じてるから、その想念に魔力が反応して多分神様の祟りみたいな良くない現象が本当に起きるんじゃないかな?わたしたちにどれくらいそれがでてくるかはちょっとわかんないけど」


「あーなるほど。そういう理屈なのね」


 すごく納得した。ようは魔法が自然発生する場所なわけだ。そしてその場所を聖域や呪われた場所だと『信じる』ことで魔法が発動してしまう。


「ミュリエルさん。龍脈から洩れてくるエネルギーを色付けしたりする魔法はできますか?」


 モンロー中尉が何か考えごとをしているように見える。攻略の糸口を見つけたように見える。


「できるよー」


「なら大丈夫です。それならこの洞窟の祟り現象は攻略できます。みなさんにサキュバスの淫蕩ではない本当の力をお見せします」


 そう言ってモンロー中尉はその場で迷彩服を脱ぎ始める。


「ぶは!ちょっと待て?!なんで脱ぎ始める!」


「もんろーだめだよ!せんせーはわたしだけのぱぱなんだから!」


「ちがいます!これは必要なことなんです!」


 モンローは上下を脱いだ。下着姿になった。と思ったらよく見ると違う。


「なにそれビキニアーマー?」


「えちち!」


 モンロー中尉の上下はビキニ、肩にはメタリックなパットを、両足はニーソックスでメタリックな膝当てをそうちゃくしている。というかいつのまにか装着したの?早すぎて見えなかった。


「そう!サキュバス伝統戦闘服。ビキニアーマー!サキュバスはこれを着ることで無敵の存在になることが出来るのです!!」


「恥ずかしくないの?ていうか淫蕩でないって言ったの嘘じゃん」


「おっぱい!おへそ!しり!おっぱい!おへそ!しり!」


 俺は目のやり場に困るし、ミュリエルは面白がって煽ってるし。そして当の張本人がもじもじと恥ずかしがっているのだ。


「あ…見られてるぅ…ん…ダメ…なのに…」


 彼女はとても淫靡な笑みを浮かべていた。男心としては興奮を隠せない。だからなのだろうか。俺の中から何かが吸い取られていくような感触を感じて膝をついてしまった。


「あ、せんせーえっちなことかんがえた?吸われたんでしょ?」


「なんか吸い取られた感じはしたけど…これなに?モンロー中尉のせいみたいだが」


 モンロー中尉はくねくねと体を震わせている。言葉を出来るだけ飾りたかったけど、その姿率直に言ってエロかった。


「さきゅばすは男の人から精気をすうんだよね。それで自分を強くできるってきいたことがあるよ」


「ええ…ねぇそれって俺を犠牲にしてバフってるってこと?俺は逆にデバフ?」


 すごく冒険の邪魔です…。


「あ、ごめんなさい。今精気吸うのやめますね」


 モンロー中尉がそう言うと、俺から何かが吸われていくような感触はなくなった。その代わりにどっとした疲れが身を襲う。


「さきゅばすこわ。見ただけでこれってことは、実際にセックスとかすると相手のこと殺せるくらいに吸えるの?」


 俺はモンロー中尉に尋ねてみた。


「ちょっと!セクハラやめてください!ジブンはまだ嫁入り前の身ですよ!男の人と交わるなんて考えるだけでもはしたないです!」


「ええ…そんな格好してる奴にセクハラ扱いされるの納得いかねぇ…」


 さらに納得いかないのモンロー中尉この感じだと性愛経験はなさそうだ。…ぶっちゃけこの冒険が終わったら、後腐れのない相手としてちょっと火遊びしたいなって考えてたのに…サキュバスがサキュバスらしくないのはやっぱりファンタジー失格だろうよ!


「まあいいや。とりあえず突入しようか」


「はーい!」


「了解!!」


 そして俺たちは洞窟にとぼとぼとした足取りで突入したのであった。




****作者のひとり言***


筆者は自分をサキュバスの第一人者だと自負しております。


サキュバスの設定だけならガチで考え抜いて過去に作品しております。


さてどんどん冒険はきな臭くなっていきます。開拓の裏側に是非ともご期待ください。











 


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