第11話 助太刀してもこれだもんなぁ
地図の通りに道を行くと平原から山岳地帯に入った。
「道があるにはあるがすげぇ厳しい。この車じゃなきゃ走るの無理だったな」
獣道みたいな道路もどきはあるのだが、整備はされていない。たぶん馬とかそれに類する生き物に乗って移動するための道っぽい。
「でも景色きれー。あれ?…っ!!センセーブレーキ!!」
俺はミュリエルが言うとおりにブレーキをかけた。ミュリエルはスナイパーライフルを抱えて外に出る。俺もライフルを構えて車の外に出た。ミュリエルがスナイパーライフルのスコープ越しに何かを見ている。
「どこだ?!何が見えてる?!」
「この崖の下の方で冒険者のパーティーがおっきな狼に襲われてる!!あ!また一人食われた!!」
ミュリエルが見ている方向に俺も双眼鏡を向ける。確かに迷彩服を着た冒険者のパーティーが白い毛の巨大な狼に襲われていた。現場は悲惨になっている。食いちぎられてた死体やボロボロの装備があたりに散乱している。生き残っているのは2,3人ほどのようだ
「どうするセンセー?」
ミュリエルが俺のことを真剣な目で見詰めてくる。
「俺が崖を下りてあのパーティーを助ける。ミュリエル。あの狼に向かってここからひたすら撃ち続けて援護してくれ」
「りょーかい!」
笑みを浮かべながらミュリエルはその場に伏せて、スナイパーライフルの銃口を狼に向けて引き金を引く。そして俺は崖を滑るように降りていきパーティーの方へと駆けつける。
「おらおら!しつけのねーいぬっころだな!毛皮を剥いで財布にしちゃる!」
俺はアサルトライフルをデカい狼の顔に向けて発砲する。
『WAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONNN!!!!』
顔を撃たれた狼は俺の方へと突進してくる。そして大きな口を開けて喰いついてきた。だから俺は口の中に手榴弾と催涙弾を投げ込んで横にでんぐり返しして狼の攻撃を避ける。すぐにばぁんと炸裂音がして、狼の口から煙が吐かれる。催涙弾の影響なのかその場でのたうち回っている。この隙に俺は生き残った冒険者たちの傍に駆け寄る。
「おい!大丈夫かあんたら?!」
俺は迷彩服の冒険者たちに声をかけた。だが彼らの反応は好意的なものではなかった。
「な?!なんでここに一般の冒険者が!?」
「作戦が漏れたのか?!」
顔の半分を隠すゴーグルとヘルメットを被った兵士たちが俺の存在にひどく動揺しているようだ。
「待ってください!今は助太刀を疑うべき時じゃありません!」
同じく顔を隠したゴーグルとヘルメットを被る兵士の一人が動揺している兵士たちに制止を呼び掛ける。声の質からすると女のようだが。
「あの狼は今がチャンスです!先輩たちは魔法砲撃をお願いします!その援護の下でジブンが突撃します!」
女の兵士はサーベルを抜いて横薙ぎに構える。魔力を刃に貯め始める。それを見た残りの兵士たちも魔法の詠唱を開始する。そして魔法砲撃が放たれてそれと同時に女の兵士が狼に向かって突撃していった。
「女の子を突撃させてだまってみてたら恥だな」
俺も刀を抜いて狼に向かって突撃する。そして魔法砲撃が狼にヒットする。すると一瞬だが狼が張っていたと思われる魔法障壁が現れてパリンと割れた。そして俺と女兵士は狼の胴体に斬りかかった。
「せいぃいいいいい!!」
「ちぇえええええすとおおおおお!!」
お互いの斬撃は狼の胴に深い切り傷を負わせた。
『WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONNNNNNNNNNNNNNNNNNN!!!』
狼は雄たけびを上げて大きくジャンプして崖を上っていく。そしてあっという間に山の方へと走っていき見えなくなってしまった。どうやら撤退してくれたらしい。
「ありがとうございます!おかげで助かりました!」
女の兵士が俺の方に近づいてきた。ヘルメットを脱いでゴーグルも外す。赤毛に金色の瞳を持った冒険者なんかやってるのが不思議すぎる美人さんだった。よく見ると頭にヤギのような角が生えている。何の種族かはわからないが亜人種のようだ。
「いや。気にするな。お互い冒険者同士壁の外では助け合える時は助け合わないとね」
「素晴らしいお考えですね!昨今は冒険者の犯罪者化が大きくなりつつあるのにその高潔な方なんですね」
いいえ。嫁さんに逃げられた上に元カノのヒモをやりつつエルフのパパやってるクズです。褒め殺しされすぎてちょっとむずかゆい。
「どういたしまして。だけどそっちの被害はかなりひどいようだね」
「はい。仲間の半分以上をあの狼モンスターにやられました。食われたものは遺体も回収してやれません。こんなことになるなんて…」
「そっちの目的はわからないけど、アイテムや装備のサポートをしてもいい。残された遺体の埋葬なんかのお手伝いも」
俺がそう言いかけたその時だ。他の兵士たちが俺にアサルトライフルの銃口を向けているのが見えた。俺はすぐに目の前の女を抱えて近くの岩場に飛び込む。すぐに銃声がその場に響いた。俺たちを撃ってきている。
「おい?!なんで俺たちを撃つ!今の射線だとお前の仲間のこの子にも当たってたぞ!なんのつもりだ!」
「とぼけるな!お前こそなんなのだ!今この地域に足を踏み入れている冒険者はいないはずだ!!それに秘密裏に特殊作戦でこの地に潜入した我々に接触してきた!疑わしい要素しかない!」
「そんなのたまたまだ!俺はデュガメラ族に接触したいからここを通りかかっただけ!ただの偶然だ!」
「デュガメラ族と接触?!やはり敵か!?くそ!保護派のスパイの仕業だな!特殊作戦群にまでスパイが紛れ込むとは!だから亜人を特殊部隊に入れるのは嫌だったんだ!しねぇ!!」
兵士たちは俺のいる岩場を銃で撃ち続けてくる。
「どういうことだ!?お前の仲間は何を考えてる!」
「混乱してるんです!仲間が死んだから!ジブンが今から説得します!先輩方!すぐに攻撃をやめてください!この人はまともでいい人ですよ」
女兵士は立ち上がって岩から出て、仲間の兵士たちに呼びかける。
「うるさい!保護派の亜人め!!お前もスパイなんだろう!」
すぐに銃声が鳴り響く。女兵士はすぐに岩の裏に戻った。
「そんなぁ…。一緒に訓練した仲間じゃないんですかぁ。ジブンは亜人だけどスパイじゃないのにぃ…」
女兵士はショックを受けている。これ収集つかないよ。かといって俺もこの岩から出れない。だから俺は無線でミュリエルに呼びかける。
「ミュリエル。目の前の二人の兵士を排除しろ」
「りょ!」
すると二つの銃声がその場に響いた。そして兵士たちがその場にばたりと倒れた。ミュリエルの狙撃で額を撃ち抜かれて即死した。
「ち!くそ!せっかく助けたのに!」
俺は岩の陰から出て、肩を落とす。女兵士もよろよろとふらつきながら外に出てきて、仲間の兵士の死体を見て、がっくりと肩を落とした。
「ああ…なんでこんなことに…」
女兵士はその場にぺたんと座り込んでしまう。放心した顔でぽろぽろと涙を流す。
「せんせー!だいじょうぶ!?」
ミュリエルが崖を下りてきた。そしてあたりの惨状を見て、首を振る。
「失敗しちゃったね…ねぇわたしたちって助け合いもできないのかな?」
「そんなことないよ。上手くいかないときもあるだけ。…今日は運がなかった。それだけだよ」
俺はミュリエルの頭をポンポンと撫でる。助けようとしたが腕を払われて疑われてこのざまだ。だけど一人は生き残った。
「おい。泣いているところを邪魔するよ」
俺は女兵士の横に座り込む。
「俺は
IDカードを見せながら自己紹介した。
「モンロー。モンロー・カサビアンカです。開拓屯田隊の屯田兵…。階級は中尉です」
顔を俺に向けてカサビアンカは自己紹介してくれた。涙を必死に吹きながら彼女は続ける。
「ジブンたちは任務でこの地に潜入しました…でも任務は失敗ですね…しかもこんな形でなんて…ああ…仲間だと思ってたのに…」
さっきカサブランカは明らかに仲間の兵士たちから殺されかかった。なんとも複雑な事情が見え隠れしている。というかもめちゃいけない相手ナンバーワンの開拓屯田隊と速攻揉めるとか…。幸先が悪すぎる。
「ねぇセンセー。どうする?このまま進む?それとも戻る?」
問題はそれである。このまま戻ってもめんどくさいし、先に行くにしてもカサブランカのことが心配になる。一瞬とはいえ戦友のようなものだったのだ。
「ふぅ。同じめんどくさいことするなら先に進もう。ミュリエル。今から俺が死体をかき集めるから、火の魔法で灰も残らずに燃やし尽くしてくれ」
「わかった」
俺はあたりに散乱する死体を一か所に集めて重ねた。死体を漁る趣味はないので装備の類もそのままだ。彼らにとってもそれはせめてもの手向けのつもりだ。戦士として死ぬなら武器は共にあるべきだろう。そしてミュリエルは高火力の火の魔法で死体を灰も残さずに焼き尽くした。
「カサビアンカ中尉」
「モンロー中尉、もしくは呼び捨てでいいですよ。屯田隊ではファーストネームに階級つけて呼ぶ合うのが慣習になってるんです」
「わかったモンロー中尉。あんたはどうしたい?俺としてはここであんたも殺してしまうのが楽だ。だけどせっかく助けたんなら生き延びて欲しい」
モンロー中尉はしばらく顔を伏せていたが、真剣な表情を俺に向けていった。
「任務の詳細はいえませんが、ジブンたちの目的もデュガメラ族との接触です。お互いに協力し合いませんか?」
「あんたたち開拓屯田隊はデュガメラ族と戦争中だって聞いてるけど。俺としては非友好的な接触なら協力はできない」
「いいえ。ああ。もうこの際です。機密ですから他には言わないでください。ジブンたちはデュガメラ族の和平派の重要人物の保護に向かっていたのです。今彼らの中でも和平と継戦で派閥争いしているそうです。それで和平派から拓務庁に保護の要請が届いたのです。それでその任務に就いたのが我々特殊作戦群丙分遣隊です。身内の恥をさらすのは心苦しいのですが、開拓屯田隊は地方と中央で意識にかなり差があります。地方の師団は実質的に独立した軍閥になっているんです。仕方もないと思います。通信も満足にいかないほど広大でそのくせ豊かな資源を誇るこの世界ではみんながみんなエゴに走ってしまうんです…」
「あんたは中央の所属なんだな。で拓務庁としてはデュガメラ族との戦争は停戦の方向で話が纏まってると」
「そのようです。ですからこの作戦失敗するわけにはいかなかった。これでも精鋭中の精鋭が丙分遣隊なんです。あの狼にしても確かに怪しいのです。まるで待ち伏せしているかのような出現でしたから」
「うわぁ…陰謀の匂いがするぅ…。ファンタジーをまた忘れてるよこの世界」
ミュリエルが渋い笑みを浮かべて俺の肩を叩く。
「センセー。まだファンタジーに幻想いだいてるの?現実みよ?」
「見たくなぃようぅ!あーもう!モンロー中尉!ついてこい!俺としたって戦争が続かれると困るんだ。協力し合おうじゃないか!冒険者らしくな!」
それを聞いてモンロー中尉はぱあっと笑みを浮かべる。それは年相応の可愛らしい笑みだった。
「ありがとうございます!よろしくお願いします度会先生!」
俺たちは崖を上ってキャンピングカーに戻る。そしてデュガメラ族のいる地に向かって出発した。
--モンロー・カサビアンカがパーティーに加わりました!
****作者のひとり言****
またぁしっちゃかメッチャかして台無しになったおっさんに励ましの言葉を贈ろう!
というか美少女を助ける→パーティーに加わるのテンプレをおっさんがやるとこんなに台無しになるんだなぁ(;´・ω・)
なおモンロー中尉の種族は『サキュバス』です。
面白いと思っていただけたら★★★!!!!!って感じでどうかよろしくです。
ではまた。
嫁コンに
『草原の花嫁』
って作品も出品しているのでぜひ読んで欲しいです!
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