開拓最前線の光と闇

第10話 開拓最前線の街

 ミュリエルが運転免許を取った。だけどちっとも運転をしてくれる気配はなかった。


「こういうときはおとこのひとがうんてんするってねっとにかいてあったよ」


「文明に毒されてるぅ」


 俺たちは現在北のスラムから延びている街道をキャンピングカーで北上していた。


「でも壁の外にも地球人の街があるって知らなかった」


 ミュリエルはスマホを弄りながらそう言った。どんどんこの子は現代的生活スタイルに馴染んでいく。それがいいことなのかはやや疑問である。


「開拓屯田隊って連中の基地 ベースの周りに行商人が集まった仮設の街みたいだけどね。俺たちの拠点にするのにもちょうどいい」


 軍隊の基地があるところには人々が集まってくる。この世界ではそうして自然と街が出来ていくのだろう。


「かいたくとんでんたい?」


「拓務庁所属の軍事組織だな。軍警が壁の内側なら、彼らは壁の外を担当するらしい。あと開拓や冒険業務もやってるんだと」


「冒険者の軍隊みたいなかんじかな?」


「そういう理解でいいと思うよ。ただ気をつけて欲しい。彼らには絶対に喧嘩を売っちゃダメ。壁の外は彼らの天下だ」


「センセーじゃないんだからそんなことしないよーだ」


 文明を知ったエルフさんはなかなか生意気になってきている。出発前に調月の家に泊まったのだが、夜ベットの上で色々と説教された。あとアドバイスも貰った。壁の外では開拓屯田隊にだけは逆らってはいけない。それだけは調月に厳命された。まあ奴らと関わる予定はないから問題はないだろう。そして二日ほどの時間をかけて『アリス』と呼ばれる未開拓エリアの街に辿り着いた。


「ありすって女の子の名前だよね。なんで町の名前?」


 想像したのと違ってかなりしっかりした街だ。周囲はフェンスで囲まれており、中は仮設だがしっかりしたプレハブ建築の家々が並んでいる。


「土地ってのは女のイメージだかららしいよ。開拓屯田隊が入ったエリアには女性名でコードネームが割り振られるんだってさ」


「ふーん。いえーい!みんなみてるー!わたしはいま未開拓エリアのアリスって街に来てまーすぅ!」


 ミュリエルは俺にスマホを渡して動画を撮らせる。


「では記念におどります!」


 ミュリエルはその場でダンスを踊り始める。エルフに伝わる伝統の踊りらしい。まるで妖精が舞っているようでとても美しかった。


「ご視聴ありがとうございました!チャンネルとうろくおねがいしまーす!ぶいぶい!」


 そして撮影は終わった。


「あっ!センセーここスマホ繋がる!即アップ!いいねげっと!ふぉろわーはせんとうりょく!」


「文明に毒されている!」


 ミュリエルは最近動画サイトで配信を始めた。森から出てきたエルフが文明に触れていくというコンテンツである。こっちの世界と地球は直接インターネットは繋がってはいないが、動画サイトなどの一部サービスは定期的に同期をとっているので、今の動画もいずれは地球にも配信されるはずだ。


「やった!ふぉろわーふえた!みてみて!わたしのことかわいいって!」


「う、うん。よかったね」


 ぶっちゃけ動画サイト全盛期ではなく、大人になってから動画サイトブームが来たおっさんとしてはこの若者のノリについていけないところがある。ミュリエルのチャンネルはネットではかなり人気らしい。とくに地球側での視聴率はすごく高い。エルフはあんまり人里には出てこないそうなので動画配信業にはほぼいなかったらしい。ミュリエルは配信業のブルーオーシャンを見事に征したのである。


「動画はそこまで、情報収集するよ」


「はーい!目的のしょうやく見つかるといいね!」


 俺たちは車を停めて(駐車場業者にけっこう金取られた)、街に繰り出すことにした。





 未開拓エリアだけあって歩いているのは冒険者位なもんだ。あと迷彩服の兵士たち。肩に鍬と剣をモチーフにした紋章をつけている。あれが開拓屯田隊の紋章らしい。一番大きな通りに出ると武器屋やアイテム屋や食堂やらそして酒場なんかがたくさん並んでいた。商売っ気がすごくたくましい。


「もりあがってるねー。いなかとは思えないなぁ」


「ここが北の最前線だからね。逆にひとが集まるんだろうね。寂れる要素がないってこった」


 俺たちは情報収集のために冒険者酒場に入る。そしてカウンター席に座って注文する。


「緑茶」


「みるくぅ!」


「せめてノンアルコールカクテルを頼んで欲しいんですけど…まあいいですが」


 バーテンダーは困惑しながらも俺たちの注文通りの品を出してくれた。


「はじめてきた方々ですね。情報をお探しですか?」


「ああ。実はある未開民族と接触したいんだ。彼らが使用しているという生薬が欲しい」


 それを聞いた瞬間バーテンダーが渋い顔をする。


「その民族とは狼系獣人のデュガメラ族ですか?」


「そうなんだけど。なんか問題?」


「…壁の外は自由。治外法権、何があっても自己責任。だけど決して喧嘩を売ってはいけない相手がいます。それが開拓屯田隊。実はこの間デュガメラ族と開拓屯田隊が戦争状態に突入しました。なんでもデュガメラ族の土地と開拓屯田隊の屯田エリアの境から高純度の魔力クリスタルの鉱脈が見つかったとかって話らしいです」


「つまり資源争い?」


「そういうことです。だからいまデュガメラ族との接触は避けた方がいいでしょう。元々誇り高くて地球人との接触を拒みがちな民族ですし、その上開拓屯田隊との戦争中です。接触は難しいと思います」


「くそマジかよ!」


 俺は頭を抱えた。未開の民族との接触というロマンあふれる冒険が、血生臭い資源争奪戦争になってしまった。その戦争の中でうまく立ち回るとかどんなムリゲーだよ。


「一応接触するための方法とかガイドとかのリストをいただけないかな?」


「おすすめはしませんよ。一応壁の外のいざこざは内側には持ち込まないのが不文律ですがね。開拓屯田隊は壁の内側に逃げ込む前に敵を必ず排除することで有名です。気をつけてください」


 バーテンダーからリストを貰って店を出る。


「どうするのセンセー?」


「頭が痛いけどデュガメラ族と何とかして接触するよ。彼らの生薬は断片的に伝わっている情報から分析しても俺みたいな腫瘍系の病気によく効きそうなんだよ。俺に時間はない。つまり選択肢もないってことだよ」


 開拓屯田隊とデュガメラ族との係争地はともかく離れた所ならワンチャンくらいはあるだろう。それにかけるしかない。





 リストに載っているガイドさんに片っ端から会いに行ったけど、どこにも断られた。なんでも今デュガメラ族は事実上の鎖国状態らしい。接触ルートはすべて封鎖されているそうだ。


「センセー。地図だけもらって直接会いに行っちゃうのはだめ?」


 それは最後の手段だ。こういうときは間に信用できる人物を挟まないと交渉そのものができないと思う。だけど悩んでいる時間はない。俺の体は一秒一秒病魔に蝕まれている。こういう時は運に天を任そう。リスクをとらない限りリターンは得られない。むしろこの状況は他の冒険者たちの介入がないと考えればポジティブにも捉えることが出来なくもない。


「わかった。もう直接彼らに会いに行こう。ガイドはいらない」


「そうこなくっちゃ!やけっぱちで後先考えてない感じがすごくセンセーっぽくていいよ!」


 ミュリエルは親指をぐっと立てる。というか俺ってそんな奴だと思われてたの?これでもPh.D.だって持ってるインテリなはずなんだけど…。まあ妻子も失った無敵なおっさんだと考えればその評価も妥当かもしれない。俺たちはガイドから地図を貰った後、大通りで食料を買い込み、キャンピングカーですぐにアリスの街を旅立ったのである。











***作者のひとり言***



本作の流れなんですが、


基本はおっさんとミュリエルのバディで、エピソードごとにゲストヒロインがおっさんのパーティーに一時的に加わって冒険が終わるとパーティーから離脱するみたいな形式になる予定です。


なお伊集院桜花くんも今アリスの街にいますよ!


ではまた




よろしかったら★をつけて言ってくれたら嬉しいです。


また嫁コンに

『草原の花嫁』って作品を出しているので、そちらもよろしければぜひ。

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