第9話 そして冒険ははじまる

 ドラゴンと戦うなんて当然始めた。だけど多くのモンスターの生態が地球にいる生物と似たような生態を持っているという話を俺は聞いていた。


「ミュリエル!このドームの温度を下げる魔法は使えるか?!」


 俺は牽制代わりにライフルをドラゴンの頭に向かってぶっ放す。


「使えるよ!」


「よし!俺らが死なない程度にまで冷やせ!ゴーゴーゴー!」


「ごーごーごー!大気の精霊よ我が意に応えよ!冬来たれ!春遠からじ!コールドフォッグ!!」


 呪文を唱えながらミュリエルは、天井のど真ん中に矢を射る。天井に刺さった矢を中心に冷気を宿す白い靄がドームに広がっていく。


『GAGAAaaaaaabvaaaawwooo』


 だんだんと冷えてくる室内気温にドラゴンは明らかに不快感を示していた。それに動きが鈍くなる。爬虫類は寒さに弱い。ドラゴンも爬虫類!…だよね?まあ弱点つけたっぽいのでかまわない。


「おらおら!食らえ!!」


 俺はドラゴンの胴体に向かってライフルを撃つ。だが硬い鱗に弾かれてろくにダメージが通らない。


「ちぃ!やっぱり硬いなぁ!ミュリエルの弓は通りそうか?!」


 ドーム内を走り回るドラゴンにミュリエルは矢を射ている。


「ちょっとだめっぽい!少し刺さるだけだよ!」


 こっちのメインウェポンが全然通らないのかなりきついな。どうしたもんかと悩んでいると。動きを止めたドラゴンは大きく口を広げて、俺に向かって火を吹いた。


「やべぇ?!」


 俺は思い切り横にジャンプして火を避けた。元居た場所を振り向くと、そこの地面はドロドロに溶けていた。


「威力がやばい。だけど火を吹いている間は首を曲げられないのか?」


 横に避けた俺を火線が追いかけてこなかっていうことは間違いなく首を曲げられないってことに違いない。


「弱点見つけちゃったぁ。ひひ!」


 俺はミュリエルと合流して、彼女の長い耳にひそひそと作戦を伝える。


「わかったけどその作戦ちょっと自信ないなぁ」


「大丈夫大丈夫!ぶっつけ本番でこそ最高のパフォーマンスが出るもんだよ!」


「童貞くんにはガールズーバーのクーポン渡すのにわたしにはやさしくなーい!ぶーぶー!」


 そう言いつつもミュリエルは俺から離れて、さらに俺の指示通りにドラゴンからも距離を取る。そして小声で呪文を唱え始める。


「へーい!どらごんくーん!こっちこっち!ひゃああはああ!!」


 俺はライフルを乱射しながら叫ぶ。ドラゴンは当然俺の方へと視線を向けてくる。そしてさっきのように大きく口を広げて火を放ってきた。


「ド低能トカゲめ!そんな火は温いわ!」


 俺はドラゴンの吹いた火を横っ飛びで回避する。当然ドラゴンはまだ大きく口を開けて火を吹き続けている。


「ミュリエル!」


「大丈夫。わたしはもうばきばきでびんびんだよ。どぴゅん!」


 ミュリエルはスナイパーライフルを両足で堂々と立って構え、そして引き金を引いた。その弾丸は青白い光を放ちながら、ドラゴンの口の中に吸い込まれた。


『GYAA?!AGAGGGGGAAAAAAaaaaaaaagyaggdsa???Q!AAA!!!!!!!!!!!!!!NNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNN!!!!!!』


 ドラゴンの大きく開いた口が透明な氷で凍りつき閉ざされた。透明な氷の向こうにはまだ火が激しく揺らめいているのが見える。


「ミュリエル君!さて問題です!行き場のなくなった爆炎はどこへ向かうでしょう!」


「はい!センセー!おしりの穴からぶーぶー洩れちゃいます!」


「ハイ大正解!花丸プレゼント」


「そんなのよりぃハイブランドのバックが欲しいなぁ」


「文明に毒されてるぅ」


 そして俺たちの茶番が終わるころにはドラゴンの腹は大きく膨れ上がっていた。そして目や耳、そしてお尻の穴から激しい火を吹きだしはじめた。


『Booaavaaagararaaaaaaaaaannn』


 割れた口元の氷から断末魔のさけびが少しだけ漏れてくる。そして全身の穴から火を吹きだした後、ドラゴンは地面に倒れた。そしてその身は黒い影になってその場で散っていく。ドラゴンがいたところに残されたのは、カールスだった。膝立ちで胡乱な目つきでぶつぶつと何かを呟いている。


「女神が裏切ったいや在り得ないやりなおさなければ足りなかったのだやはりエルフをつかえば裏切られなかった祈りは届いたはずなのに」


 何かをぶつぶつとつぶやいているが、もう再起不能に見える。だけどここで始末をつけなければいけない。俺はハンドガンを構えてカールスに近づこうとするがミュリエルに止められた。


「センセー。わたしが。やる」


 そこには有無を言わせない真剣さがあった。俺はハンドガンをしまって、事の顛末を見守ることにした。スナイパーライフルを持ったミュリエルはカールスに近づいていく。そして。


「よくもわたしを森から連れ去ったな!!」


「ぐはぁ!」


 魔力を込めたスナイパーライフルの銃身を大きく振りかぶってカールスを殴った。


「よくもセンセーに人殺しをさせるように追い込んだな!」


「やめやめてくれぇ」


 さらにミュリエルはスナイパーライフルでカールスを殴り続ける。


「よくも私がいなくなった後でも諦めなかったな!」


「違う私は!やめてくれぇ!」


 痛い。ただただひたすら痛かった。ミュリエルは泣きながらカールスを殴り続けている。


「よくもよくもよくも!あんなにも沢山の子供たちを!!!うあああああああああ!!」


「があああああ!あぁぁ…」


 ミュリエルがカールスの頭に向かって思い切りスナイパーライフルを振りぬいた。するとカールスの頭が胴体からちぎれて飛んでいった。カールスの頭は壁にぶつかって鈍い音を響かせた。そして地面に落ちてコロコロと転がる。


「う、うわぁああ。ああああああああああ!ごめんねぇ!ごめんねぇ!うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 ミュリエルは膝をついて、焼かれた赤ん坊たちの遺体の前で慟哭する。彼女のせいでは決してない。だけどミュリエルも俺もこの件に関わってしまったことで説明のしようのない因果を背負ってしまったのだ。俺はミュリエルを後ろから抱きしめる。


「ミュリエル。帰ろう。俺たちはやるべきことをちゃんと成し遂げたよ」


 二人で立ち上がり、手をつなぐ。ミュリエルはまだ泣いているけど、しっかりと地面に立っていた。そして俺たちは日常へと帰ったのだ。










 その後事件の処理はミリシャが行った。フィマフェングは壊滅し、残った資産はミリシャが処分した。意外だったのがミリシャのカルバーリョは犠牲になった赤ん坊の埋葬を本当に丁寧にやってくれたことだった。赤ん坊の親についても調査したそうだが、誰一人として親は見つからなかった。あそこで死んだ赤ん坊は闇の中で生まれて闇の中で死んでいった。それがとてもやるせなかった。俺とミュリエルは報酬の中から花束を買って、赤ん坊たちの墓にお供えした。


「センセー。これもただの儀式だよね。魔力も感じない超能力でもない。ただただお花を置いてるだけ」


「そうだね。だけど俺はこれだけでもあの子たちをきっと慰めることができると信じるよ」


「うん。そうだよね。ありがとセンセー」


 あんなまやかしの『女神』などではなく、本当の神様のところにあの子たちが行けるといい。俺たちは心からそう祈った。



















 もともと俺の本職は研究者である。専門は物理化学。ついでだがバイオ系の研究の経験もある。事件が終わった俺たちは研究所の実験施設にやってきた。


「で、センセーこの子飲んでばきばきのむきむきになるの?」


 白衣を着たミュリエルが俺の隣で銀色のスライムをじーっと見ている。スライムは食べられると思っているのか、プルプルとその場で震え始めた。


「それで病気が治るならやるけどね。多分治んないのよ。このデータ見てくれ」


 俺は実験台に置いてあるノートPCにいくつかの図やグラフを出す。


「センセー!わたし学校とか行ったことないんで全然わかりません!いんてりくたばれ!」


「じゃあセンセー丁寧にミュリエルちゃんにおしえてあげりゅう!」


 俺はPC操作してとある動画をみせる。画面の半分に健常な人間の細胞が映っており、線をまたいで俺の腫瘍の細胞が映っていた。そして両方にとても細い注射針が近づいて薬液を指す。


「これ何してるの?」


「対照実験だね。健康な細胞と腫瘍の細胞。それぞれに銀色スライム君から採取した体液を注入したんだ。その結果がこの動画」


 健康な細胞は特に変化が起きていない。だけどその細胞から確認できる魔力や気功の量が明らかに増加しているのが確認できた。つまり銀色スライムの体液は人体を強化する生理機能が確かにある。それもおそらく恒久的なもののようだ。ただ耐性はすぐにつくから強化できるのは一回が限界だろう。


「問題は健康な方な方じゃない。腫瘍の方を見て欲しい」


「あ…おっきくなってる?」


「そう。腫瘍細胞が明らかに大きくなったんだよ。残念だけど銀色スライム君を俺が飲むと病状がシャレにならないほど悪化するだろうね」


 ただ今回の実験はまだ初歩の初歩の調査に過ぎない。銀色スライムの体液の人体強化機能のメカニズムを明らかにできれば、例えばドラックデリバリー型に改良して腫瘍を回避して人体を活性化して、腫瘍そのものを強化された免疫機能で撃退するなんていう治療法も開発できるかもしれない。


「まあ研究としては有益だったよ。銀色スライムちゃんは引き続きここで飼育して、研究は続行だね」


「ふーん。なるほどなー。さすがセンセー!」


 絶対によくわかってないんだろうなってのがわかる適当な誉め言葉だった。だけど若い子に褒められるだけでおっさんは元気になれる。


「とりあえずミリシャから北の未開拓エリアの情報を貰ったから明日からそっちへ向かうよ。なんか北の獣人系民族が使っている生薬が有望そうなんでそこを目指してみる」


「わかった!やっと冒険だね!」


「そう。冒険冒険。楽しみだな」


「うん。たのしみぃ。うふふ」


 俺たちは笑い合う。願わくば今度の冒険は楽しい道中でありますように。
















エピソード1・完






次章予告





「異世界ファンタジーぃいいいいいいいいいいいい!」


 やっと冒険に出てはっちゃけるおっさん!


「せるふぃーおどっていいねいっぱいうれしいなぁ」


 文明に毒されていくエルフの少女は承認欲求を拗らせ始める!


「奥さん失踪してると離婚できないのがくそだとおもうわ」


 やっぱり割り切った付き合いにならない重い女は現行の法体系を呪う!


「ふっキャバくらいわけないぜ。でもおっぱぶはまだ震える…」


 物語にあんまり関係ないS級冒険者の色街での冒険はまだ始まったばかりだ!










「冒険?他人の家の軒先に入って暴れまわるのを地球人はそう誤魔化すんだよ」


 冒険という勇ましい英雄譚の裏側は、悍ましい血塗られた歴史そのものである。


「開拓屯田隊(Frontier Colonization Corps) 彼らこそが人類の生存領域を大きく広げた立役者。そう開拓という名の侵略の先兵」


 フロンティアなんてこの世界にはない。ただ奪い合いだけがあるだけだ。


「それでも足を止めることはできない。だって俺たちは生きているから」


 摩擦し摩耗する世界に生きる人々はそれでも新しい何かを生み出し育んでいく。






エピソード2「開拓最前線の光と闇」





「お前が望むものはこの世界には決してない」




乞うご期待!



****作者のひとり言****


伊集院桜花くんはあれですね。ゲームとかで言うと、行く先々で再会する名物キャラみたいなもんですよ。個人的にはそういうキャラが好きですね。

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