第6話 テンプレな街並みにほっとするおっさん

 北のゲートを通過して、スラム街に出て驚いたことがあった。南のスラムと違って街並みが綺麗なのだ。しかも俺のような一般人が想像するような異世界ファンタジーみたいな街並みがおそらくは意図的に再現されている。


「なんかいなかっぽいね!」


「おかしいなぁ異世界のエルフがこの街並みを見て田舎っぽいっていう世界は絶対に間違ってるよ…」


 建物の数だけで言えば絶対に田舎などではないが、アウリス市の壁の中と比較するとまあ田舎かもしれない。でも長閑な鄙びた感じが異世界観光みたいな感じがして俺的にはありだ。


「じゃあまずはこの街のミリシャの本部に行くぞ。自称はギルドらしいね」


 俺たちはまずギルドにやってきた。中は冒険者たちで賑わっていた。受付があって、掲示板に仕事のリストが貼ってあって、すごくギルドです…。


「ああ、やっと異世界ファンタジーに出会えたよぅ」


「券売機とかモニターもないんだね。おくれてるなぁ」


 ミュリエルが文明に毒されている。とりあえず受付に並んで順番を待つ。


「はい!本日はどのようなご用件でしょうか!」


 犬耳の亜人の女性受付がはきはきと応対してくれる。このままクエスト受けたいとか俺のランクたかすぎぃとかやりたいけど。黙って封筒を差し出す。


「拓務庁付属研究所の特任教授度会譜希わたらいほまれです。ギルドマスターのヴァンデルレイア・カルバーリョ様にお会いしたい」


 持ってきたのは紹介状だ。いきなりギルドマスター兼ミリシャのボスに会えるわけがない。調月が紹介状を書いてくれたのでそれに甘えることにした。


「これは?!すぐにご案内しますので別室でお待ちください!」


 対応が明らかに変わった。俺とミュリエルはギルドの建物の裏庭に案内された。そこにはテーブルと椅子が用意してあった。


「度会特任教授。お嬢様はすぐに参りますので、それまではお茶をお楽しみください」


 俺とミュリエルは椅子に座って、お茶と菓子を楽しむ。しばらくお喋りに興じていると。


「あなた様が枢のヒモですか?」


 ギルドの建物の中から中世ファンタジー風のドレスを着た美少女が出てきた。明るい茶髪に緑色の瞳の柔らかな雰囲気。ファンタジー感あふれるご令嬢様にしか見えない。


「ひもではないつもりですが、まあ調月の友人です」


「あらそうなのですか?わたくしいままでヒモを見たことがなかったので、初めて見れると思って期待していたのですがね。ふふふ」


 ご令嬢は俺たちの目の前に座る。執事が彼女にも紅茶を入れる。


「もうお気づきでしょうが、わたくしがヴァンデルレイア・カルバーリョ。ここの民兵ミリシャの指導者をやっております。枢のヒモ様ですしわたくしのことはヴァンと呼んでくださって結構ですよ」


 にこやかで上品な笑みだが、感じるプレッシャーは半端ない。だってこの裏庭。よく見るとあちらこちらに兵士が隠れてて俺とミュリエルに狙いをつけている。下手な動きをすれば即殺される。なにこの無茶ぶりお茶会。怖すぎぃ。


「ありがとうございます。ヴァン」


「え?今わたくしのこと呼び捨てにしました?初対面なのに?」


 はぁ?自分で呼んでいいって言ったやんけ!


「あれ?なんだろうこの赤い光?センセーの頭とか胸とかも光ってるけどなんで?」


 ミュリエルが首を傾げているが、これは間違いなくレーザーサイトだ。どうやら警戒レベルがいきなり上がったらしい。命いつでも取れるよって脅してきやがった。


「で、本日はどのようなご用件でわたくしに会いに来たのでしょうか?じつはさっきまでわたくしドレスを選んでいたんです。ふっと気がつくとフリルが少しはがれかかっていました。糸を通して繕ってみたのですが、なんか左右のずれが気になって気になって仕方なくて…そういうのってイライラしませんこと?」


 調月さーん!こいつ神経質なんてレベルじゃねーよ!どう考えても異常者だよ!ミュリエルもなんか引き笑いになってる。


「お嬢様。こちらのお客様は調月さまのご紹介の方々ですよ。落ち着いてください」


「…そうですわね。枢のヒモ様ですものね。丁重に丁重に…あら?でもよくよく考えたらヒモってそんな敬意を払う存在でしたっけ?」


 カルバーリョが可愛らしく首を傾げているけど、下手すりゃ俺らの首が落ちたりしないよな?


「ヒモ…でもヒモってホスト様の副業だと耳にしたことがあったような気がしてきましたわ」


 どうだろう?でもどこかの店に勤めてたらホストだし、フリーならヒモでもいいかもしれない。


「わたくし、お恥ずかしながらホストクラブにも行ったことがありませんの。とりあえずドンペリすればいいのでしょうか?」


 話がどんどんずれてくなぁ。というかカルバーリョが一方的に喋ってるだけやん。そろそろ反撃に出るか。


「俺はドンペリは好きじゃない。あんなうっすい酒よりも焼酎をロックの方がずっとうまいね」


「あら?きついお酒が好きなのですか?でもまだお昼ですよ。お酒はお控えになった方がよろしいと思いますよ。うふふ」


 会話が成立した!キャッチボールが出来た!出来たけど!なんか違うぅ!


「では本題に入ってよろしいでしょうか?お嬢様?」


 執事はそう呼んでたし、この呼び方ならセーフなのでは?と思った。そしてそれは正解だった。


「はい。そうですわね。紹介状には暴れたいので許可をくださいと書いてありましたわね」


「そうです。この北のスラム街に拠点を置くギャング団を潰しにここまで来ました。ご迷惑をおかけすると思うので先にご挨拶をと思った次第です」


「そうですかなるほど。ところでその組織の名前と拠点は?」


「組織はフィマフェング。拠点はミーミルという酒場兼売春宿です」


「あらあらそうですの。ミーミルですか。確かに最近開業の届け出が出ておりますね。それにきちんと街のためにミリシャにも寄付をなさってくださってるようですわね」


 おっとちょっと雲行きが怪しい。


「わたくしたちミリシャは冒険者様のサポートのために結成された自警団です。この街を見てきたでしょう?綺麗で冒険心を刺激する景観。活気があり手頃なお値段で装備を用意できる商店街。異世界のグルメを楽しめる酒場と食堂。いずれもミリシャであるわたくしたちが冒険者様たちのために提供している大事なインフラです。わたくしは女ですから、女の肉体を欲しがる殿方の気持ちを本当のところは理解できません。ですがそれもまた冒険の醍醐味だと聞いております。成功報酬をパーっと使って美女を抱く、あるいはクエストに失敗してなけなしの金で馴染みの娼婦を買って慰みを得る。立派な冒険のためのインフラです。さてヒモ様?わたくしがおっしゃりたいことお判りですか?」


「ミーミルが上納金をきちんと収めていて、この街の秩序に馴染んでいる以上、手を出すなってことですよね?」


「ええ。この街での組織間抗争は一切認めません。喧嘩両成敗共存共栄すべては快適な異世界冒険のためです。それがミリシャの方針です」


 つまりフィマフェングとの戦いにくぎを刺されたということだ。調月の言うとおりにしてよかった。先に話を通さずにフィマフェングを壊滅させてたら、ケツ持ちのこいつらが俺たちを襲いにきてたところだ。さてどうするか?取引材料を探してからもう一度仕切りなおすか?そういう算段を頭の中で組み立てていた時だ。


「でもあいつら冒険者たちに復讐するんだって言ってたよ」


 今まで大人しくしていたミュリエルが口を開いた。その発言にぴくっとカルバーリョが眉を動かした。


「それはどういう意味でしょうか?わたくしに詳しく説明してくださいませんか?」


「詳しくはちょっとわかんないんだけど、エルフの女の子を使って儀式をするつもりだって、わたしを売ったお父さんとお母さんが言ってた」


「儀式?」


「女神を呼んでチート?っていうなにかを授けてもらう儀式だって」


 それを聞いてカルヴァーリョは目を見開いた。それと同時に圧倒的な殺気と闘気が彼女から洩れてくる。彼女の目の前のティーカップはそれだけで罅が入った。彼女だけではないこの場にいるミリシャの兵士たちや執事もみな怒気を隠していない。


「まだそんな世迷言を信じている愚か者たちがいるとは思いませんでしたわ。いいでしょう。ヒモ様。フィマフェングを潰したいそうですね」


「ああ、そのつもりで来てる」


「こちらのギルドで正式にクエストを発行します。内容は『ギャング団フィマフェングの粛清』」


 まさかのクエスト発行に俺は驚きを隠せなかった。女神とチートなる言葉がカルバーリョを含めたミリシャメンバーの逆鱗に触れたようだ。


「あなた方にはメンバーとボスの粛清をお願いいたします。ですがその後遺った彼らの資産についてはわたくしたちミリシャが差し押さえます。その代わりですが十分な報酬と今後の冒険の便宜、未開拓エリアの情報の提供や需要クエストの優先受注権をお約束します」


 とんでもない好条件が提示された。ギャング団の財産には興味がない。報酬も魅力だが、それ以上に冒険への便宜を図ってくれるというのが個人的にはとてもありがたい。


「ありがとうございます。ではそのクエスト。俺たちが引き受けます」


「ええ、良きに計らってください。そうそう今後わたくしに会いたければ紹介状などは持ってこなくてもいいですよ。ギルドの受付に行ってくれればお茶会の時間くらいは取ってあげます」


 カルバーリョは優し気に微笑んだ。とてもこの街を統べる実力者とは思えない可愛らしいものだった。こうして会談は無事終わり。俺はフィマフェングの粛清クエストを受注したのである。





***作者のひとり言***



重要ワードが出ましたね。


女神を呼んでチート?

なんだこのテンプレ感ある設定は!?

やっと異世界ファンタジー感でてきたじゃないか!


北のスラム街はまじでテンプレ的な中世ヨーロッパ異世界ファンタジーな街並みになってますね。ヴァンちゃんがミリシャを立ち上げて整備した街です。

北のスラム街は安全度が高いため、異世界観光の中心地になっていたりします。というむだうらせっていがあります。



ちなみにヴァンちゃんは攻略可能ヒロインさんです!人の話は聞かねーしめんどくさい人だけどもしかしたら可愛い一面もあるかも?





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