第4話 住まいと車をどうじにゲットするおっさん
ラブホの部屋には異世界らしさが何もない。だけど一緒に入った女は異世界感全開である。素朴な布でできたみたこともない民族服をまとうエルフ。状況が状況じゃなきゃ勝ち組なんだけどなぁ。
「とりあえず俺シャワー浴びるわ。そこらへんで大人しくしてろ」
俺はシャワールームに入って体を綺麗にする。自分で言うのもあれだけどモンスターの匂いやら汗やらでなんかちょっと匂ってた気がするもの。そしてすっきりして部屋を出る。リュックに入れていた替えのシャツとズボンを来て部屋に戻る。エルフの少女は部屋の隅に体育座りしていた。
「けっきょくわたしはあなたのものになったの?」
「何を勘違いしているのか知らんがお前を所有した覚えはない」
「だってこういうところって…あれ…をするところなんでしょ?」
俺は頭を抱えた。森から出てきたエルフさんなのにお年頃の知識はちゃんとありやがる。おれは冷蔵庫からビール缶を取り出して、ソファーに座ってそれを飲む。多少は酒でも入れないとやってられないよこれ。
「おじさんはねぇ。後腐れのない軽い関係がいいの。ヴァージン丸出しな田舎娘を抱く趣味はねぇ」
調月…軽い関係だと思ってたんだけどなぁ…。それはいいとして目の前のエルフが先だ。
「お前名前は?」
「ミュリエル」
「おじさんは
「でも世間のおじさんはパパって呼ばれる方が良いって聞いてるよ」
「センセーとよべい!この芋娘め!さて、両親に売られたと言ったな?どういう理由で売られた?」
兄弟が病気で薬を買うためにやむなく売られたとか、そんなお涙頂戴な話を期待していた。だけど。
「お父さんが薬にハマってて、お母さんはお酒に溺れれて、お金が欲しくて長女のわたしが売られた」
えげつない事情が出てきて俺の顔が青ざめる。それを察したのかミュリエルは手を振って。
「で、でもわたしなんてましな方だよ!エルフは高く売れるから、子供作るだけ作って赤ん坊で売るお家も沢山あるし!ここまで大きくなるまで家にいられたのは運がよかった方だよ!」
「何のフォローにもなってねーよ」
異世界エスペランサに地球人がやってきて、開拓をはじめてから原住民である亜人たちの伝統的生活は危機にさらされているそうだ。亜人種は地球人と比べると平均的に容姿のレベルが高いので愛玩用とかで高く売れるとか。あるいは危険地域の探索のおとり用に子供たちを買って使うえげつないパーティーもあるとか。この世界は本当に滅茶苦茶なんだな。
「ねぇパ…センセー」
「おい今パパって言いかけた?次パパって言ったらお尻ぺんぺんするからな」
「センセーは地球人でしょ。なんでこの世界に来たの?」
ミュリエルは真剣な目で俺を見詰めている。嘘をついていい状況じゃないな。
「俺は病気でな。地球じゃ治せないんだ。だからこの世界に来た。この世界なら体を治す手段があるかもしれないと期待してな」
「そうなんだ…センセー大変なんだね」
同情されているのをビンビンに感じる。同時になにか探りを入れられているような雰囲気もだ。
「わたし、森とかなら詳しいよ。弓も得意だし魔法もいっぱいできるの!」
「へぇ。そう」
なんでミュリエルがこんなことをいいだしたのかすぐに察した。自分をパーティーメンバーとして売り込もうとしている。
「エルフだけしかしらない儀式とか召喚獣との契約もできるよ!」
「面接するつもりはないんだ。ちょっと電話かけるから黙ってて」
ミュリエルはしゅんと沈んだ顔で俯いてしまった。俺はスマホで調月に電話をかけた。
『何かしら?もうずいぶん遅いけど。今日は帰ってこないの?』
『それが事情がありましてねぇ』
俺は事情を説明する。
『そうねぇ…女衒にでも預けたら?美人なエルフなら高級店で大事にしてもらえるわよ』
「何それ酷くない?軍警とか拓務庁に保護する窓口とかないの?」
『あるにはあるけど、連中ろくに仕事してないわよ。その子を留置場に放り込んだらすぐに不良兵士にレイプされて、結局は流れるままに体売る生活になるだけじゃないかしら』
「どこまで腐敗してんだよこの世界」
『言ったでしょ。ロマンは捨てなさいって。それにギャング団を殺して助けちゃったんでしょ?必ず報復が来るわよ』
「抗争は避けられないかぁ…」
『あなたが身元引受人としてスラム街にある拓務庁の出張所に届け出なさい。そうすればその子も身分証が発行されて壁の内側に入れるようになるわ。その子戦う気をアピールしてるんでしょ?パーティーメンバーにしてしまいなさいな。どうせこの先人手は多い方が良い。人買いから助けた恩があるなら変な裏切りもかまさないでしょうしありだと思うわ』
俺はこめかみに手を置いて悩む。一番いいのは保護団体に預けることだけど、そんなものはどうやらなさそうだ。放置すれば行き先は売春業くらいしかない。そしてどうせ例のギャング団に狙われているのは俺も変わらないのだ。答えは決まった。スマホをきって。ミュリエルに顔を向ける。彼女はどこか不安そうな怯えたような顔をしている。この子はまだ子供だ。大人の顔色をうかがうことしかできない。ならせめて優しくはしてやろう。
「お前の身元引受人になることにした。それからこれからは俺のパーティーのメンバーとして雇用する」
「え…いいの?」
「なんだ。不満か?」
「ううん!そんなことない!ありがとう!わたし頑張るよ!」
ミュリエルは嬉しそうだし、どこか安心しているように見える。これでいいんだろう。どっと疲れた。
「ねぇ身元引受人ってことはやっぱりパパってこと?」
「次パパって言ったらその両耳を捩じり切ってやるよ。とりあえずシャワー浴びてこい。もう寝る」
俺はベットに横になる。ミュリエルは言われた通りシャワールームの方へ行った。
「ねぇこれどうやって使えばいいの?!こんなの森にはなかったよぅ!」
素っ裸のミュリエルがシャワールームから出てきた。顔立ちはまだ幼いけど体だけは立派に大人だ。豊かな乳房にキュッとしたくびれと扇情的な尻の丸み。俺がもっと若かったらガオーってしてる。
「赤いのひねると熱いのが出る。青いのひねると冷たい水が出る。両方を適当にひねって自分の適温にしろ」
「えーいっしょに来て教えてよ!」
ミュリエルはベットの傍まで来て俺の手を引っ張る。
「めんどくさいからやだ」
女の子はわからないことやめんどくさいことをすぐに男にさせようとするからいやだわ。
「あとトイレの使い方もわかんないの!教えて!教えて!おーしーえーてー!教えてくれないと人前でパパって呼ぶからね!」
「あーもう…わかったよ。だりぃ…」
俺はシャワーや水洗トイレの使い方を教えてやった。そしてベットに戻り寝ころぶ。ミュリエルが鼻唄を歌いながらシャワーを浴びている音が響いている。
「俺が嫁に逃げられた既婚者じゃなかったらラノベみたいな展開になって楽しいんだろうけどねぇ。てかううっ痛てぇ…」
全身に倦怠感を感じる。それにお腹のあちらこちらに痛みもはしる。鎮痛剤が切れた。俺はその錠剤をのみ込んで体を丸めて必死に痛みに耐える。こんな死にかけの自分が子供なんて拾って面倒を見るなんて本当にばかばかしい。だけど生きているうちは少しでもまともな人間でありたい。そう思った。
夜が明けてすぐにスラム街の出張所に行き、各種手続きを行った。そしてアウリス市へ入るためにゲートに向かった。やはり入る側は混雑している。だけどそれは車の列の方で俺のような徒歩のやつにはあんまり関係なかった。
「はーい。じゃあ身分証出して。それとにもつなかみせてねー」
俺とミュリエルは検問所の兵士に身分証を提示しつつ荷物検査を受けた。
「なにこれ?スライム捕まえたの?生きたままのモンスターの持ち込みは原則禁止なんですけど許可証とかあります?」
瓶に入った銀色のスライム?を見ながら兵士は許可証の提示を要求してきた。俺は用意しておいた拓務庁付属研究機関の証明書を出す。
「あ、研究者の方なんですか。これ初めて見ましたけどなんかすごいんですか?」
「わからない。今後の調査次第かな」
兵士は俺に銀色のスライム?の入った瓶を返した。ふと気がついたがミュリエルは瓶の中のスライム?をみて口を大きく広げてあんぐりとした顔を晒している。
「ハイ荷物はけっこうです。そうそう!エルフ売るなら6区のシン・ススキノ町がお勧めですよ!あそこのスカウトバックはすごく良心的なんで!」
ナチュラルに腐ってるなぁ。俺は肩を竦めながらミュリエル共にゲートをくぐった。
「わーすごい!これ全部建物なの?!すごーいかっこいいー!!」
目の前に広がるビル群の光景にミュリエルは夢中になっている。森にいたっていうしこういう風景は珍しいだろう。俺はミュリエルを連れてゲート近くにある素材屋に行く。手に入れたイノシシの毛皮とスライムの体液を売った。お値段合わせて一万園なり。実入りが実にしょぼい。
「あれ?ねぇねぇセンセー。銀色のスライムはやっぱり売らないの?」
「やっぱり?どういうこと?」
「え?知らないの?だって銀色のスライムって倒すとすごく強くなれるって森のエルフの間じゃ有名だよ。でもすごく稀にしか出ないんだけどね」
「おお、なるほどねぇ」
アプリのモンスター図鑑に載ってなかったのはレアすぎて地球人側での捕獲や観測事例がなかったからか。
「倒すと強くなるっていうのはどういう意味だ?体液をすするのか?」
「そうそう。倒してその銀色の液を吸うと体がバキバキのムキムキになるんだって!」
「その表現だと強壮剤にしか聞こえないなぁ」
だがもしかすると何かの薬理作用があるかもしれない。これは研究所に持ち帰ろう。二区の研究所に行って銀色スライム?をサンプルとして飼えるようにしてから、調月に会いに行った。
「先に言っておくけど、あたしの家にはあたし以外の女を入れるつもりはないから」
「え?それじゃあミュリエルが野宿じゃないか。可哀そうだろう!」
「むしろヒモに他の女を連れてこられるあたしの方が可哀そうじゃない?」
「やめよう。可哀そう合戦なんて不毛だ」
「センセーってヒモなの?」
ミュリエルが俺をどこか蔑むような目で見ているような気がする。
「いい機会だから部屋でも探したらどうかしら?」
「まあそうだな。それがいいか。だけど二人分の部屋は金がかかるな」
「え?センセーとわたしっていっしょに住むんじゃないの?パーティーなのに?」
常識的に考えよう。どう見てもまだ若いこの子とおっさんの俺が一緒に住んでいたら即通報ものだろう。
「大丈夫よ。この世界は無法地帯だもの。おっさんがJKを囲うくらいなら何にも言われないわ。軍警も動きゃしない」
「俺の心配事にフォローどうもありがとう」
なんか大丈夫らしい。でも抵抗感はある。二人分の寝室のある部屋を探してみよう。
最初は研究所の近くに住むつもりだった。だけどすごく家賃が高かった。アウリス市の家賃事情は中心部へ行けば行くほど高くなる。同時に治安もよくなる。つまり逆もまたしかりである。
「そう言えば車も買わなきゃいけないんだ。金が飛びまくるぅ」
蓄えはあるけど、それは研究のためにも必要な金だ。住居や車は安く済ませたい。不動産屋の前で物件情報を血走った目で見ている俺は相当キモかったと思う。
「センセー。車も買うの?」
「そうだよ。困ったもんだよ。車なきゃ採取もできないしな」
「あのね。昔見たんだけど。地球人さんが車で寝泊まりしてるの!」
「うん?ああ、キャンピングカーね…いっそありか?移動前提になるし、どこかに定住するよりもいいか?」
俺はちょっと悩んだけど、試しにキャンピングカーを見に行くことにした。
6区の壁際にはジャンク屋さんが集まっていた。そこの一つに中古車を扱う店があると聞いてやってきた。
「おういらっしゃい。何かお探しで?」
車を弄っていた店主がニコニコ笑顔で俺たちを出迎えてくれた。
「キャンピングカー、トイレ風呂付」
「あんた動画配信者か?」
「なんでそんなこと聞くの?」
「いや。キャンピングカーで開拓エリアに行って動画とるやつが多いんだよ。異世界の危険地帯でキャンプしてバズ利たいんだろうな。でも大抵モンスターに皆殺しになってる」
「いやそういうわけじゃない。住むところと採取した資源の運搬を同時に叶えたいだけ」
「そんな奴初めて聞いたな…だが面白い。ついてこい」
店主に誘われるままに店の奥に行く。ジャンク品な車が並ぶ広場の中に一台の巨大なキャンピングカーがあった。デカいトラックくらいのサイズだ。
「昔にお前と同じような発想でキャンピングカーを造ったバカがいたんだ。資源運搬と住むところを同時に敵えて素敵でチートでハーレムな冒険生活を送りたいってな」
店主のおっさんはしみじみとキャンピングカーを撫でながら語る。
「まあそいつの夢は潰えて、いまじゃしがないジャンク屋の店主になっちまったがな。ふふふ。青春の思い出さ」
なんかこういう中年の郷愁には共感するところが多いな。俺自身もそういう大きい夢みたいなものを抱かなかったわけじゃないからわかる。
「そうか。あんたの夢の気持ちわかるよ。だからこの車、俺に譲ってもらえないか?いくらだ?」
「3000万園」
「たけぇ?!高すぎ!」
「対モンスター障壁、トイレ風呂完備、収納スペースも広くとって、ベットもフカフカ。そういう条件をそろえるともちろん高くもなるさ。がははは」
「んなもん買えるかよ。他の車紹介して」
俺は値段を聞いてあっさり諦めた。ミュリエルはそれを聞いてどこかがっかりしたような雰囲気だ。乗りたかったのかな?
「だが本格的に冒険したいならこの車をお勧めする。だがら代わりにこっちの頼む仕事を引き受けてくれた譲ってやってもいいぞ」
「ん?なに?仕事?」
「そう仕事だ。あんた見たところ腕が立つな。それにヤクザやギャング相手にビビるタイプでもなさそうだ」
「それがなにか?」
「ここらのジャンク屋たちのケツ持ちは
これは仮にゲームならクエスト的なやつかな?でも内容がヤクザとギャングの抗争の代理って…。しょうもないな。だけどフィマフェングという連中には因縁がある。というかミュリエルを買った連中だ。どうせ抗争するなら、おまけのアイテムもゲットしたい。
「いいよ。引き受ける。フィマフェングのやつらをぶちのめせばいいんだな」
「ああ、上手くいったときにはキャンピングカーをただで譲るよ」
店主は笑みを浮かべている。俺と店主は握手を交わした。
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