第3話 おっさん知らずにレアモンスターを捕まえる

 朝飯を食べた後、戦闘服に着替えて武器をがっつり装備した。玄関先で調月が俺の首に絡まってキスしてくる。


「いってらっしゃい。あとこれはこの世界用のスマホ。あたしの番号が入ってるから何かあったら連絡頂戴」


 何から何までお世話になりっぱなしである。もしかして俺って冒険者じゃなくてヒモなんじゃ…?そう思いながら調月の部屋を後にした。


電車に乗って『アウリス南ゲート』駅を目指す。そこからアウリス市の壁の外に出てられるらしい。電車の中には俺以外にも冒険者らしいごつい恰好のやつが沢山いた。あと普通のサラリーマンみたいなスーツのやつとかもいる。カオスだなぁ。そしてアウリス南ゲート駅で降りて、駅近くのゲートに向かう。ゲートの行き来は青い制服の警察軍とかいう国連拓務庁の軍事部門が担当しているらしい。通称軍警と呼ばれているそうだ。


「はい。カード出して。はーいどうぞー」


 チェックはざるに等しい感じだった。だが出る側ではなく入る側のゲートはなかなかに厳しい検問が敷かれているように見えた。入ってくるものに警戒をしているような雰囲気だ。そこら辺の事情はおいおい分かるだろう。肌感覚で味合わないとわからないことも多い。


「あのさぁ。ゲートの外出たら一面の草原でオープンワールドとかじゃねぇの?なにこれぇ」


 ゲートを出ると広がるのは地平線と草原!ではなく違法建築に違法建築を重ねたスラム街の風景だった。上半身マッパで入れ墨を見せつけてるチンピラとか物乞いとかヤク中みたいなやつがうろうろしてたりしている。やだもう、ほんと異世界感がない。とりあえず外に向かって歩く。今日の目的はとりあえずこの世界での戦闘と採集に慣れること。


「よう兄ちゃん。どうだい?ぶっ飛べる奴そろってるぜ」


「そいつのはやめとけ!こっちは混ぜものないピュアなシャブが楽しめるぜ」


 さっきからドラックディーラーさんが話しかけてくる。俺は必死にシカトして早足で通りを抜ける。その時だった。銃声があたりに響き渡る。


「おらぁ!ずらかれぇ!」


 三人組の覆面を被った男たちが近くの店から袋を持って出てくる。


「逃がしゃしないよ!!」


 猫耳のおばあさんがショットガンを持って店の中から出てきて覆面達に向かってバンバンと弾をぶち込んでいく。覆面男の一人が被弾して頭の半分が吹っ飛ばされてその場に倒れた。残りの二人は通りを走っていずこかへと去っていった。猫耳のおばあさんは死体を蹴っ飛ばして悪態をつく。


「ち!一人しか始末できなかった!」


 こえぇぇ!ここなんなの?!修羅の国なの?!一応近くに軍警の人がパトロールしてるけど、なんかスルーしてるし!そしておばあさんが店に戻って死体だけがのこされる。すると近くにいた浮浪児たちが死体に群がって服やら下着やら銃やらをはぎ取っていく。そして最後に怪しげなマスクをした男たちが遺った裸の死体を見分して。


「うん。新鮮だな。臓器は売り飛ばせそうだ」


 死体をトラックの荷台に乗せて去っていった。


「なんだこの負の食物連鎖!?うう帰りたいようぅ」


 調月の肌の柔らかさを思い出す。こんな風景忘れて彼女の部屋に帰ってエチエチしたい。だがそんな泣き言は言ってられない。俺はスラム街の通りを駆け抜ける。そしてやっと草原地帯に出ることが出来たのだった。










 辺り一面の草原地帯。蒼く広がる大空。まるでオープンワールドRPGのフィールドのような風景が俺の目の前に広がっていた。


「やっと異世界キタ━━━!!」


 俺は思わずガッツポーズを取る。ここまで来るのにすさまじく寄り道しすぎた気がする。役所行ってオフォス街で飯テロして装備を買って女の家にしけこんで。我ながら異世界に来たとは思えないほど堕落したことしてる。だけど今日からは違う。この広大な異世界で俺は必ず自分の体を治せる手段を探し出してみせる!そして俺は草原に一歩を踏み出したのだった。






 しばらく歩いていると、青いスライムとエンカウントした。プヨプヨしてなんかキモ可愛い気がする。


「じゃあ戦いますか」


 俺はハンドガンを抜いて、スライムに照準を合わせる。そして引き金を引いた。


『pyyyga!?』


 スライムに弾丸がめり込み、その場で中身を飛び散らせてぐちゃぐちゃの液体になった。間違いなく死んだ。


「弱い。でも今の弾丸自動的に強化されてたみたいだな。ステータスシステム様様だな」


 俺が首に着けているステータスシステムは俺の体を超人レベルに強化してくれている。銃による攻撃なんかも弾丸に攻撃力アップの効果を付与してくれているようだ。一応地面に広がったスライムの液を瓶に採取してリュックに仕舞う。


「モンスターは殺しても消えない辺り、やっぱりこれはゲームではないんだな」


 俺はいま確かに生き物を殺したのだ。その感覚だけは忘れないでおきたいものだ。





 草原を南に歩き続けていると森が見えてきた。事前に聞いた話だと、ここでは獣型のモンスターが多く出るとか。俺はアサルトライフルを構えて森の中に入る。木々の間を早足でぬけていくと、イノシシ型のモンスターが四体いるのが確認できた。


「まだこっちには気づいてないね」


 俺はライフルの先にサイレンサーを装着して気の裏側に隠れてイノシシどもに狙いをつける。


「悪いね。俺の生きる糧になってくれ」


 俺は引き金を立て続けに三回ひいた。それぞれ放たれた弾丸はイノシシモンスターの頭にヒットし、彼らはいずれも即死した。そして残った一体が仲間が突然死んだことで恐慌状態になってのを確認した。俺はライフルのセレクターを安全装置に入れた後、体の正面から背中の方へとライフルを回して背負う。そして刀の柄に手をつけて、イノシシに向かって俺はダッシュする。


「gA?!gaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」


「チェストぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 俺はイノシシの目の前まで走って、刀を鞘から抜く。そして抜刀術でイノシシの首を刎ねる。イノシシモンスターはうめき声さえ出さずに斃れた。


「一丁上がり」


 俺は残されたイノシシモンスターの遺体にナイフを入れて血抜きを行う。そして毛皮を剥がして、肉を切り分ける。


「ああ、アイテムボックスとかそういうイカした機能はないのかよ」


 調月にも聞いたが異次元空間にアイテムをしまうような異能やアイテムは見つかってないらしい。だからモンスターを刈り取ったらそのはぎ取った素材をトラックとかで運ぶのがセオリーらしい。


「車必須だな。もっとゲームみたいなら楽なのに」


 俺はイノシシモンスターの肉を焼けた石の上にのせて焼く。異世界ジビエってタイトルで動画配信したら受けるかな?なんてことを考えながら肉を焼いていた。その時ふっと気がついた。石から垂れた肉汁の近くに銀色に輝く小さな謎の物体を見つけた。それは肉汁をちゅるちゅると舐めているようだ。スライムの亜種のように見える。俺は静かに瓶を取り出して、そのぎんいろのスライムの上にそっと被せた。銀色のスライムは瓶が被せられたことに気がつかずにまだ肉汁を吸っていた。そしてそっと蓋を地面からスライドさせて瓶を持ち上げて蓋を閉める。


『pigyaaa?!』


 瓶の中で銀色のスライムが暴れまわっている。なかなかすばっしこい。その動きはゴキブリを彷彿とさせる。


「なんかレアモンスターだったりしないかな?」


 俺はスマホを取り出してその金属スライムを撮影する。モンスター図鑑のアプリに写真をアップロードして検索をかけたが、ヒットしなかった。アプリの精度がどんなもんか知らないけど、もしかしたら新種なのかもしれない。瓶を割れるような様子はないので、このまま持って帰ることにした。


「こいつがいい薬になってくれるなら万々歳なんだけどねぇ」


 気がついたらもう夕暮れになっていた。はぎ取った皮をひもで縛って背負い、俺は街の方へと戻る。夜になると危険になると聞いている。今日一日モンスターたちと戦って自分に足りないものが理解できたので今日は大人しく帰ることにした。




 夜のスラム街はまた更にカオスになっている。通りに面している酒場はどこも盛況だが、ときたま銃声が響いたり、街中で剣で殺し合うバカがいたりとなかなかにカオスだった。


「お兄さんどう?稼いだ分パーっと使ってみない?」


 セクシーな格好の女たちがあちらこちらから寄ってきては客引きをしてくる。ガールズバーとかキャバクラとか言っていたけど、ぼったくられそうだからやめておいた。


「みんな逞しいな。見習わないと」


 そう思った時だった。目の前に一台の車が停まった。なかから様々な肌の色をした地球人の男たちが出てくる。


「ほら、歩けよ!」


 男たちは車から一人の少女を引っ張って出した。それは金髪碧眼の絵に描いたようなエルフだった。素朴な布の民族衣装のような服を纏っている。猿轡を噛ませられているのか喋ることはできなさそうだ。


「しかしまじでエルフの中でも超上玉ですねぇ。ボスのところに連れてく前に楽しんじゃダメなんですか?」


 男たちが下卑た目でエルフの少女を見ている。エルフの少女は本当に綺麗な顔をしていたし、スタイルも抜群だった。


「だめだ。こいつには指一本でも触れるなとのボスからのお達しだ。ヴァージンのままで連れてこいってことだ」


「いいなぁボスが初物食いするのか。お零れくれますかね?」


「どうかな?ヤって楽しむとかそんな感じの雰囲気じゃなかったけどな」


「ちぇ。ああ、むらむらすんなぁ。仕事終わったらエルフの女がいるマッサージ屋行くか」


「お前マッサージ派なの?俺ソープ派」


「「ぎゃはははははは!」」


 なんだこの理不尽は。会話から察するとエルフの少女は売られてきたらしい。その現実にショックを受けた。そしてそれ以上に理不尽を感じたのは、周りにいる人たちが誰も縛られたエルフの少女に興味を持っていないこと。たまに目配せするが、よくある風景みたいな感じで興味を失って横を通り過ぎていく。近くに軍警の兵士がライフルを持ってうろうろしているが、見て見ぬふりをしている。昨日調月から聞いた。表向き奴隷制度は禁止されているが、有名無実だと。人身売買は盛んに行われている。普通の冒険者だって平気で手を出すという。


「そっか。ここは本当に異世界なんだな」 


 俺の中で何かがぷちんと切れた感じがした。エルフの少女を連れて路地裏に向かう男たちを俺はそっとつけていく。スラム街の裏道はさらにダーティーな空気に満ちている。ジャンキーが倒れていたり、明らかに病気の女が必死に客引きしてたり、この世の汚辱がここに流れ込んでいる。そして連中は少し広い広場に出た。一番偉そうなやつが時計をしきりに気にしてる。待ち合わせをしているようだ。周りには誰もいない。ギャング団らしき男たちを恐れてどこかへと行ってしまったようだ。俺は近くの家の壁をよじ登って屋根の上に登る。ライフルにサイレンサーをつけて、ヘルメットにつけていた暗視ゴーグルを下ろす。そして屋根の上で伏せて銃口を男たちに向ける。


「あれは人間だ。人間だ。人間だ。俺と同じ人間だ」


 まだ残っている理性が必死に叫ぶ。この行いはよくないことだと。だけどもしここであのエルフを見捨てて、体が治って息子と再会したときに、俺は胸を張って異世界を冒険したと言えるだろうか?


「俺は生きたい。だけどただ生きているだけじゃなくてよりよく生きたい。罪を恐れるよりも、誇りを守りたい」


 俺は下っ端の一人の額に照準を合わせる。そして引き金を引いた。


「ぐはぁ」


 額を射抜かれた男はその場で即死して倒れた。続けてさらに残った連中の額に弾をぶち込んでいく。次々と人が死んでいく。


「くそ!?どこから撃ってやがるんだ?!」


 一番偉そうな男はエルフの腕を引っ張って近くに放置してあったドラム缶の後ろに隠れる。そこじゃ狙えない。とりあえず他のギャングどもを始末した後、俺は屋根伝いにエルフを連れた男を狙える場所に移動する。


「エネミーサーチ!!」


 生き残ったギャングの男が何かの異能を発動させた。その男を中心に光る膜が同心円状に広がる。その光に俺は触れてしまった。


「見つけた!!!サンダーシュート!!」


 ギャングの男は雷の魔法を俺に向かって撃ってきた。


「ちっ!?」


 俺はそれを屋根から飛び降りて避けた。まだ魔法戦闘には慣れてない。だから俺は俺らしいやり方で相手を叩く!


「なんだこいつ!魔法があたらねぇ?!」

 

 男は先ほどから色々な属性の魔法攻撃を放ってくるが、俺はそれらのいずれも回避してみせた。相手の視線、動作を見れば狙いは自ずと明らかになる。躱すのはたやすい。そして俺は刀を抜いて男に接近して飛び上がり、袈裟切りで、エルフの手を握る男の左手を切り落とした。


「ぎゃぁああああああああ!ああああああ!」


 男は切り落とされた左手を必死に抑えている。さらに俺はハンドガンを抜いて男の両足を撃ち抜いた。


「ぐおぉぉお!てめぇええええ!どこの組のやつだ?!それとも誰かにやとわれたのか?!俺たちがフィマフェングのメンバーだって知ってんだろうなぁ?!」


「うるせぇよ。しるかそんなもん」


 俺は男のこめかみを思い切り蹴っ飛ばす。そして額にハンドガンの照準を定めて引き金を引いた。


「ひっ?!」


 それを見たエルフの少女は涙目になりながら身を竦ませた。俺を恐ろしそうな目で見ている。俺は武器を仕舞い、エルフの少女を拘束していた猿轡やロープを外してやる。


「これで自由だ。どこへでも好きに行け」


「あなたはわたしを横から奪いに来たんじゃないの?」


「そんなつもりはない。ほら何処へでも行け。お前は自由だ」

 

 俺は踵を返して、エルフの少女から離れる。だが少女に腕を掴まれた。


「何処へ行けっていうの?!ねぇ!教えてよどこに行けばいいのよ!」


 エルフの少女はぽろぽろ涙を流していた。


「森から出たことないわたしだって知ってるよ。街の人たちは亜人なんて助けてくれない。同じ命だってみなしてない。なのにお父さんもお母さんもわたしを売ったんだよ!教えてよ!どこへ行けばいいの!行くとこなんて何処にもないようぅ!うあああああああああぁぁぁあああんんん」


 愕然とした。漠然とこの子は誘拐されたのだと思っていた。違った。家族に売られたのだ。だからわかるこの子に居場所はない。この世界の何処にも。俺はこの少女を憐れんだと思う。自分に似ていると同情した。俺もこのも家族に捨てられたのだ。俺はエルフの少女の手を取る。そして歩き出す。


「何処に行くの?」


「わからん。でもここよりももっとましなところへ連れていくよ」


 一回りも違う女の子の手を引っ張って俺は路地裏から出る。スラム街の表通りにやってきて、近くにhotelの看板を見つけた。まごうことなきジャパニーズスタイルラブホテルである。


「ヒモにパパ活。クズ一直線だな」


 俺はとりあえず落ち着いた場所を得るために、そのラブホに入ったのである。




****作者のひとり言****



異世界…こわ…。


治安が崩壊してるのマジでカオス。


異世界ファンタジーの皮を被った異世界クライムアクションかな?


今回出てきたエルフちゃんはヒロインですね。


やっとまともなヒロインが出てきたかな?

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