第3話 奉仕

 部屋に戻ると、ベッドへと腰を掛けて息を吐いた。

 命を狙われる経験も、命のやり取りも初めてだ。少し疲れたし……少し、気持ちが滾っている。


 と、ルナが床に座り込み、脚に擦り寄ってきた。



「ゼヘラ様ぁん。お疲れなのぉ?」

「なぜか今日は、疲労が溜まっていてな」



 なぜかと言うが、間違いなく転生と慣れない環境による疲労だ。むしろ疲れない方がどうかしている。

 でも記憶によれば、ゼヘラは普段、仕事のようなものはしていないらしい。

 この付近のゼヘラ山やゼヘラの大森林、ゼヘラ草原、ゼヘラ海洋に関しては、部下が統治をしている。

 その統治している部下をまとめているのがゼヘラだ。

 まったく仕事をしていないと言えば嘘になるが、一日中仕事に打ち込むようなことはしていない。


 仕事をしなくていい……嬉しいような、むずむずするような。

 カレアの時は、生きるために朝からド深夜まで働き詰めだったからなぁ……それが村人の生活水準だったけど、ゼヘラは違う。

 一日中何もしなくても飯が食える。遊んでいられる。

 生まれながらの境遇が違うんだろうけど……やるせない気分になった。



「ゼヘラ様。お疲れでしたら、是非とも私に御奉仕させてくださいませ」

「あぁん、私もやるぅ〜」

「……奉仕?」



 聞き慣れない言葉に、ゼヘラは首を傾げる。



「はい。ゼヘラ様は横になってくださるだけで大丈夫です。不肖ルシア、ゼヘラ様のために全身全霊をもって御奉仕致します」

「私たちが全部動くからぁ〜、大丈夫よぉ〜」



 そこでようやく気付いた。奉仕の意味を。

 急激に沸騰する血液。頭から湯気が立ち上り、顔が熱く、赤くなる。

 目の前にいるのは極上の美女二人。

 魔族と言われても信じられないほど人間らしい体つきで、三十数年生きたカレアの人生を通してみても、見たことがないほど艶かしい体だ。

 村人の身では、一生かかっても手に入らない極上の美女。

 それが二人も、自分に奉仕しようとしてくる。

 棚ぼたで嬉しい反面、今の僕は二人の尊敬する主じゃないことに、少し罪悪感を覚えた。

 でも……これは元のゼヘラ自身が望んだこと。

 これを享受するのは、当たり前の権利でしょう?



「ま、待て」

「どうかされました?」

「あぁんっ、焦らしプレイ最高……!」



 心の準備が、とは言えない。恥ずかしい。けど少し落ち着きたいのも事実。



「えーっと……そ、そうだ。まずは風呂に入りたい」

「湯浴みですね。承知致しました」

「えぇ〜。私はぁ、そのままでもいいけどぉ〜」

「ルナ。ゼヘラ様が望まれるのです。我々はそれに従うだけですよ」

「ふん、わかってますぅ〜」



 二人が睨み合っているのを横目に、大浴場へと向かう。

 場所はわかっている。いつでも入れるよう湯が沸かされているのも知っているし、ゼヘラ以外入ることを許されていないことも知っている。

 あそこなら落ち着けるだろう。



「はぁ……疲れる」



 脱衣所で服を脱ぎ、全裸になって大浴場へ入る。

 とんでもない広さだ。広さだけで言えば、村にあった家が丸々一つ入るほど広い。

 風呂だけでこんなに大きいなんて……金持ちの感覚がわからないな。


 大浴場は見渡す限り、豪勢で美しい細工が施されている。

 入口と反対側には巨大な鏡があり、部屋全体とゼヘラ自身を映していた。



「……改めて見ると、すごい体だ……」



 全身余すことなく、引き締まった筋肉に覆われている。炎の痣もかっこよく見えるし、なんなら顔までイケメンだ。



「かっこよくて強くて裕福。その上女性にモテるとか、前の僕との格差が酷いね」



 思わず、自嘲気味に笑ってしまった。

 その上でかい。ナニがとは言わないが、でかい。

 これが世界の真実かと思うと、朝からド深夜まで働いていたのが馬鹿らしく思えてきた。

 掛け湯をし、お湯に体を浸ける。

 若干熱いくらいだが、これがこの体にはちょうどいい。



「……気持ちいいな……」



 人間でも魔族でも、入浴という行為は等しく気持ちのいいものらしい。

 まあカレアの時は基本水浴びで、湯船に入るのはひと月に一度あるかないかだったけど。

 これから毎日入れると思うと、風呂が趣味になりそうである。

 ──と、その時。



「し、失礼致します……!」

「……え?」



 誰だ?

 ルシアとルナの声じゃない。また別の女性の声が聞こえてきた。

 振り返ると、そこには間違いなく一人の女性がいた。

 が……でかい。いろいろと、でかい。

 背は優に3メートルはあるだろうか。それに付随して、メイド服の上からでもわかるほど……いろいろでかいものを持っている。

 けどこの子も知っている。魔族序列98位、シトリーだ。



「ど、どうしたシトリー。我に何用だ?」

「え……? い、いつも、お風呂入る時は背中を流せと……私のパワーくらいがちょうどいいと仰って下さったではないですか」

「あ……そうだったな……」



 しまった。内心頭を抱えた。

 確かに記憶にある。それにゼヘラは、シトリーとも関係を……性豪すぎるぞゼヘラ。

 様々な記憶を思い出してしまい、急激に血流が集中した。ま、まずいっ。



「シ、シトリー、今日はいい。下がれ」

「よ、よろしいのですか?」

「よい。今日は我、ゆっくりしたい気分なのだ」

「……承知致しました。失礼致します、ゼヘラ様」



 シトリーは頭を下げ、大浴場を出ていった。

 後ろ姿を見送り、ゼヘラは深々と息を吐く。



「はぁ〜……これは、まず早急に記憶の整理からしないとダメだね」



 湯船から上がり、魔法で体中の水を弾き飛ばす。

 一瞬で乾いてしまった。魔法、すごすぎる。


 服を着て、自室へと戻っていく。

 記憶の整理は、部屋でゆっくりするとしよう。

 と、思っていたのだが……。



「お待ちしておりました、ゼヘラ様」

「ゼヘラ様ぁん。いっぱい御奉仕するからねぇ〜」

「……忘れていた」



 その前に、極上の美女二人との初体験をしなければ。

 生唾を飲み込み、二人に目を向ける。

 まだモヤのようなもので大切なところは隠しているルシア。

 待っている間に準備していたのか、下着姿のルナ。


 ゼヘラの眼力で、わかる。

 ルナはあからさまだが、澄ました顔のルシアも昂っているみたいだ。


 二人は寝ていればいいと言ったけど……もう、我慢できない。

 血液が沸騰して体が熱くなる。

 僕は自身の服に手を掛けると、行儀よく脱がずに破り捨てた。



「ぜ、ゼヘラ様……?」

「わっ……すごいわぁ……!」



 二人とも顔を真っ赤にして、僕の一点を見つめてくる。

 元からすごいが、カレア童貞の心が昂りすぎて、ゼヘラの記憶にもないほど上向いている。

 この性豪がずっとずっと我慢してきたんだ……もう我慢なんて、無理……!


 ──プツン──


 頭の中で何かが切れる音が聞こえ、僕は二人に手を伸ばした。


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