第9話獣王との戦い
獣王バルザックがいるというホテルは滝沢詩音のスナックから歩いて十分ほどのところにあった。
かつてはネオンが輝いていたであろうその場所はすっかり寂れてしまっていた。代わりに禍々しい空気がただよっている。
左眼寺義時があれだと指差す。
そのホテルの屋上に薄汚れた自由の女神が立っていた。
どういうセンスでこんなものを屋上に建てたのか、はなはだ疑問だったが今はそれを解決する手段はない。
「ダーリンこういうところ好き?」
からかうような視線を世羅は僕に向ける。
彼女いない歴イコール年齢の僕には縁のないところだ。
「来たことないよ」
正直に僕は言う。
僕は陰キャのオタクでしかも童貞なんだ。
世羅は僕の言葉を聞き、むふふっといやらしい笑みを浮かべる。
わざと胸を押しつけるようなして、彼女は腕を組む。それは極上の柔らかさだ。やっぱり世羅のおっぱいは気持ちいい。
「おい、あんたらいちゃついてるところ悪いが誰か来るぞ」
真剣な顔で滝沢詩音は注意をうながす。
「もうっいいところだったのに」
世羅は頬を膨らませてふてくされる。そんな仕草もとびっきりかわいい。
ホテルからでてきたのは赤いドレスを着たグラマラスな女性だった。金髪碧眼の美女であった。
金髪グラマーは下腹部に手をあて、深くお辞儀する。
「バルザックの手の者か。世羅が会いにきたと伝えよ」
世羅の声は先ほどとうってかわって冷たい。まさに吸血姫といったところだ。
僕としては世羅は甘々でいてほしいところだが、そういうわけにはいかないようだ。
しばらくして金髪グラマーはご案内しますと世羅に言った。やつは世羅しか見ていない。僕たちなど眼中にないといったところか。
僕たちはその金髪グラマーの案内でホテルの中に入る。
エレベーターに入る。
金髪グラマーは最上階のボタンを押す。
エレベーターは上に上がる。
電気は止まっているのにエレベーターは動いている。
「浮遊の魔術をつかってるのじゃ」
世羅が説明してくれた。
魔法をインフラとして使っているのか。さすがは魔王といったところか。
「こちらです」
金髪グラマーはある部屋の前に立つ。
コンコンとノックする。
入れという野太い声がする。
金髪グラマーが扉を開け、中に入るようにうながす。
世羅を先頭に僕たちはその部屋に入る。
その部屋の空気はよどんでいる。酒とタバコとあとはよくわからない匂いが混じっている。
「媚薬でも使っているのか。鼻がまがりそうじゃ」
世羅の言葉に僕も同意見だ。
「あいつが獣王か」
室内でもサングラスをかけている左眼寺が言う。
僕は左眼寺が視線を向けている方をみる。
安楽椅子に長い足をくんで座っている男がいる。アロハシャツにハーフパンツという服装でがっしりとした体格の男だ。髪型はショートの金髪で人を馬鹿にしたような笑いを浮かべている。
その周囲に粗末な服を着た女性が数人いる。
その女の人たちに共通しているのは皆目が死んでいて、首に首輪をはめられているということだ。
「相変わらず趣味がわるいのう。おい、まな板あの中におまえの友はいるか?」
滝沢詩音を世羅はまな板と呼んだ。きっと胸のことを言っているのだろう。
その呼び方はちょっとひどいんじゃないか。
滝沢詩音はスレンダーなアスリート体型で、それはそれで魅力的だとは思うけどね。
滝沢詩音はまな板と呼ばれたことを意に介せず、日本刀の柄にてをかけた。
「力を貸せ、マルコキアス!!」
そう言うなり、滝沢詩音は床を蹴り、駆け出す。
日本刀を抜き放ち、一呼吸で真横一文字に切りつける。
その動きに一ミリの隙もない。流れるような華麗な動きだ。
だが、その鋭い斬撃は獣王バルザックに阻まれた。
彼は指先だけで日本刀の刃をつかんでいる。
あまつさえ、あくびをしている。
「ふーつまらん」
つまらなさそうに獣王バルザックは言う。
「詩音さん!!」
獣王バルザックの背後にいた女性が駆け出す。小柄で痩せた女性だ。彼女は下着だけの姿であった。
「誰が動いていいと言った」
痩せた女性は胸を押さえて苦しみだす。
よく見ると胸の所に魔方陣のようなものが刻まれている。それが淡く輝いている。
その魔方陣が光を増すとそれに比例して痩せた女性は苦痛に悲鳴をあげる。
「いやあー!!」
それは耳を覆いたくなるような悲鳴だ。
「あれは奴隷紋じゃ。所有者に絶対服従させるための魔術じゃな」
世羅は吐き捨てるように言う。
「悪趣味きわまりないのう」
さらにそう付け足す。
「貴様、
滝沢詩音は日本刀を握る腕にさらに力をこめるがピクリとも動かない。
力量の差は歴然だ。
ぽんっと獣王バルザックは指を弾く。
それだけなのに滝沢詩音は僕たちの方に転がる。
左眼寺は滝沢詩音を抱き起こす。
「まったく無茶をする」
左眼寺は言った。
滝沢詩音は悔しさに顔を歪ませている。
「おい、バルザック。そこのガリガリを渡してもらおうか。我が伴侶の目的を達成するのにどうやらそやつが必要のようなのじゃ」
白い髪の毛をくるくるといじりながら世羅は言う。
「ならおまえが俺の女になれ」
バルザックは舌を出してからかう。
「誰がお主のような淫乱の女になるか。わらわはダーリンだけのものなのじゃ」
世羅は豊かな胸の前で腕を組む。
その言葉はかなりうれしい。世羅は恐ろしい吸血姫だけど絶世の美女だ。その絶世の美女にあなただけのの物と言われたら、そりゃあむちゃくちゃ嬉しい。
「そうか、ならばゲームをしよう。おまえたちが勝てばその女を返してやろう。俺が勝てば男は殺して、女はハーレムに入れる」
獣王バルザックはそう言うと指をパチンと鳴らす。
瞬時に床一面に魔方陣が広がり、周囲が目を開けていられないほどの眩しい光に包まれる。
痛む目をこすりながら開けるとそこは映画なんかで見たことがある
「奴の仮想世界に強制転移させられたようじゃな」
世羅は言い、周囲をぐるりと見渡した。
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