第8話 剣客

 一人紹介したい人物がいると情報屋こと左眼寺義時は僕に言った。

「そいつはここからちょっと先の商業地区にいる。ボスにはそいつの力になってもらいたい」

 さらに彼はそう言った。


 僕はちらりと世羅の秀麗な顔を見る。

 まずは彼女の意見を聞きたい。

 彼女がいなければ、行動のすべてに制限がかかる。外を出歩くことすらままならなくなる。

「好きにしていいよ。わらわは何があってもダーリンを守ってあげるから」

 頼もしいことを言ってくれる。

 左眼寺がそこまで言うなら、その人物に会ってみようと思う。


 左眼寺が会わせたいという人物は商業地区、平たく言えば繁華街の一角をアジトにしているという。

 雪白市の繁華街は神宮町という。

 この倉庫街から車で二十分ほどのところにある。

 僕は世羅が運転する昴300に乗り込む。左眼寺はバイクで着いてくる。左眼寺の乗るバイクはハーレーダビットソンであった。いかつい容貌の左眼寺にはぴったりのバイクであった。

 ほどなくして僕たちは神宮町にある雑居ビルの前についた。


 雑居ビルの階段を登り、とあるスナックの前に立つ。

「よう、滝沢まだ生きているか?」

 扉の前で左眼寺は大声で話しかける。

「おまえは馬鹿か。そんな大声だしてモンスターが寄ってきたらそうするんだ」

 怒りながら、一人の女性が扉を開ける。

 おかっぱ頭の目つきの鋭い女性であった。タンクトップにカーゴパンツというスタイルだ。どこか猫を連想させる女性であった。右手には日本刀を掴んでいて、左の腰にはサバイバルナイフをぶらさげている。

 時空震の前なら、確実に銃砲刀違反で捕まっていただろう。


「さっっさと入りな」

 左眼寺が滝沢と呼んだ女性は僕たちを店内に招きいれる。

 店内は薄暗く、酒臭かった。床には酒の空き瓶とビールの空き缶が散乱している。

「酒くさいのう」

 世羅が正直な感想を言う。

「仕方ないだろう。飲まないとやってられないだろうう」

 ふんっと滝沢は鼻を鳴らす。


 彼女の名前は滝沢たきざわ詩音しおんという。もと警察官だと左眼寺は彼女を紹介した。年齢は二十歳で去年この雪白市に配属されたという。


「紹介したいというのはこやつか?」

 世羅が左眼寺に尋ねる。

 左眼寺は頷く。

 世羅はいらいらしている。それはもう分かりやすいほどにだ。

 きっと仲間にしたいというのが女性だから世羅は気に入らないのだろう。

 ここは一つなだめておかないとこれからがやりずらい。

「僕は貧乳は好みじゃない」

 できるだけ小声で世羅にささやく。

 僕の言葉を聞き、世羅はにんまりと笑う。

 感情が表にでやすく、分かりやすいな。

「そうだな、ダーリンはわらわみたいなおっぱいが大きな女が好みだからな」

 自慢の巨乳をボインと張り、世羅は言う。


「おまえら何いっているのだ」

 あきれた顔で滝沢詩音は僕たちを見る。滝沢詩音の胸はたぶんだけどBカップぐらいだろう。胸は小さいけどアスリートのように引き締まったスタイルをしている。それは世羅とはまた違った魅力だ。


 滝沢詩音は僕たちをソファーに座るように促す。

 左眼寺はカウンター席に座る。

 彼女は僕たちにコップにミネラルウォーターをいれて、前に置いてくれた。


 左眼寺は僕たちがディアボアロスカードを集めていると説明した。


「ああっこのカードのことだな」

 滝沢詩音は僕にカードを見せる。そのカードにはいわゆるグリフォンが描かれていた。

「これが私のカードでマルコシアスだ」

 滝沢詩音は言った。


 僕は手元にある十枚のディアボロスカードを見せる。

 これには素直に滝沢詩音は驚いていた。

「こんなに持っている人は初めて見たよ」

 と彼女は感嘆の声をあげる。

「こいつはすごいや。このカードは不思議な力を私らに与えてくれるんだ。これだけあればかなりの力をえられるだろうよ」

 滝沢詩音はややとがった顎を指先でつまみ、少し考え出す。


「あんたらの仲間になるのは別にかまわない。そのかわりっていったら何だけどある条件がる」

 滝沢詩音は言った。

 なるほど、交換条件というやつか。

 条件にもよるが話だけでも聞こうか。

「それでその条件ってのは?」

 僕は尋ねる。

「ある人を助け出したい。その娘はあの地震の時に私がたすけたんだ。それからずっと一緒にいたけど獣王バルザックに連れ去られてしまったんだ」

 どんと滝沢詩音はテーブルを拳で叩く。

 よほど悔しかったのだろう、彼女が噛み締めた唇から血が流れている。


「バルザックか、あの色魔か。あやつに連れ去られたとなると早くしなければ精神がもたぬぞ」

 世羅は言った。

 獣王ということは異世界からやってきた七人の魔王の一人か。そして世羅の知り合いなのか。

「その娘はいつさらわれたのじゃ?」

 世羅が滝沢に尋ねる。

「一昨日だ」

 短く滝沢詩音は答えた。

「そうか、急がなけらばいけないのう。その娘がどこまでもつかわからぬが、精神崩壊するまえに救出せねば、廃人になってからは手遅れじゃ」

 世羅が言った。


 世羅が語るにはその獣王バルザックはかなりの拷問好きのサディストだという。何百人もの女性を廃人にしてその後、食することを生き甲斐にしているのだという。


「わかった。手伝うよ」

 僕は滝沢詩音に言う。

「なあ世羅、そのバルザックがどこにいるのか知っているか?」

 僕は世羅に訊く。

「ああ、知っているよダーリン。ちょうどこの近くだね。派手な建物がいっぱいあるところだよ。やつはそのあたりを根城にしている」

 世羅が言った。

 この神宮町は繁華街なので当然のようにラブホテル街がある。派手な建物とはそこのことだろう。しかし、ラブホテルといってもけっこうな数があるぞ。


「それなら俺のヴィネにまかせな」

 左眼寺はジャケットからディアボロスカードを取りだし、額にあてる。

「見えるぜ。自由の女神がいる建物にそいつはいるぜ」

 にやりと左眼寺は笑った。

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